2019年10月3日

彼が花を買いに外に出ると雨が降り始めた。すると彼は必ず動物の死骸を拾って、買った花束を持つよう自分に渡してきた。いつもそういうことになっている。


土砂降りでもなく、小雨でもない。適度に厄介な雨の中をそれぞれに傘を差して歩く。自分は花が濡れないように、彼は抱えてる死体が濡れないように。

自分は彼の数歩後ろをついて行った。これもいつものことである。足下はいつの間にか砂利道となっていた。


【中略】

帰ってきたのは平屋の家。買ってきた花束を飾るのは畳の部屋。布団を二組敷き並べたら、いっぱいになるような小さな部屋には黒い卓があるだけであった。卓上にいくつか箱を重ね、さらにその上に小皿を置き、彼から手渡された黒い茶碗も傍に置く。彼はもう死骸を抱えてはいなかった。それではアレは何処へいったのか。

少し席を外す、と彼は言った。移動する姿を追って後ろを向けば、二人の童女が襖の前に向かい合って座っていた。狛犬のようだと思った。


彼が童女たちに命じた。襖を開けるようにと。開かれた先には暗い廊下があるばかりであった。今日は雨だったので、日中から薄暗かったが、日が落ちると本当に暗い。廊下にある窓が部屋の光を反射しない程には外は暗かった。

準備も終わったので、自分はぼんやりと廊下の方を見ていた。


見ているだけで、その暗い空間に特に何か起きるわけでもないし、自分が動き出すわけでもない。

襖・暗い廊下・襖という構図を見続けて、テレビ番組か何かで見たことあるなぁ、コントだったかなぁと考え始めた時、廊下をスーツ姿の男が通った。足音もなく、自分が存在を認識した頃には後ろ姿しか見えなかったが、背中の広さから男であったと思った。


廊下は暗かった。今、通り過ぎた男の首から上が見えない程には暗かった。いつの間にか彼が部屋に戻って来ていたので、スーツ男の存在を告げると、彼は何も命じていないのに童女たちがスーツ男を追いかけるように廊下に出ていった。

そのまま、襖は開かれたまま、彼は始めようか、と言った。


何を、とは言えなかったし、あの死体が何処にあるのかも聞き出せないままだった。

積み重ねた箱の傍に置いた黒い茶碗の中には、黄土色の粉末が入っていた。

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