第4話
中間
酷使された脳に、
――
店内を見渡すと、
その大半は試験勉強から解放された喜びを浮かべていた。時折、この世の終わりみたいな表情の人もいたけれど。合掌。
「あら、リゼルじゃない」
そう声を掛けてきたのは同じ飛空学部の
「ノーマも自分へのご褒美?」
「そんなところね」
私がそう聞きながら向かいの席を促すと、ノーマは頷いてその席に腰を下ろした。
ノーマはすぐに店員を呼び、私の半分になった生菓子を指差して同じものを、と頼んだ。
店員はかしこまりました、と頭を下げて店の奥へと消えていく。
「リゼルは、今回どうだった?」
「飛空学はばっちり……だといいけれどもね。後はまぁ、いつも通り普通、かな?」
手応えとしては、八割程度は正解できていると思う。
答えて、私は生菓子を口にする。美味しい。自然と頬が緩むのを、誰も咎めることはできない。
「
水を一口飲んで、ノーマは面白くなさそうな表情を浮かべた。
もちろん私はそんなつもりで言ったわけではないし、ノーマも本気でそんな風に受け止めているわけでもない。そもそも、ノーマだってそこまで点数が悪いわけでもないのだ。
「試験の点数が全てじゃないし、ノーマは私より飛ぶのが上手でしょ」
座学ができても、それを実践できるかはまた別問題だ。極端な話、座学がからきしでも、感覚で魔法を使いこなす人だっている。
将来のことを考えると知識はないよりもあった方がいい。この先、魔女になれるにしろ――あるいは、なれないにしろ。
そんな考えで、私は座学もできるだけ頑張っている、というだけの話だった。
未来の私たちが何になれるかなんて、今はまだ誰にもわからない。それが漠然とした不安となり、私たちを何かに駆り立てるのだ。
私たちはお互いに顔を見合わせて、それぞれに苦笑を浮かべた。
そこに、ノーマが注文した生菓子と紅茶が運ばれてくる。店員は
「あぁ、やっぱり甘いものはいいわね」
生菓子を一口食べ、ノーマは笑顔をこぼした。
私の生菓子は残すところ四分の一といったところ。早く次の一口を食べたい気持ちと、もっとゆっくり時間をかけて味わいたいという気持ちがせめぎ合う。
「……そういえば」
私が生菓子に手を付けようかどうか迷っていると、ノーマは食べる手を止めて私を見た。
「中間試験も終わったくらいから、そろそろ
魔術学院の
最終的に学べる知識の総量は変わらないものの、何故そうなっているのかを知っている生徒はいない。
そのため、級友たちの間で次に何を学ぶことになるかが噂になるのも必然と言える。
そしてもちろん、私もその噂は耳にしていた。私はノーマの問いかけに首肯する。
「飛空学部だと、全員もう
私は残った生菓子を半分にする。これで、残りはあと一口。
単身飛行は自身の体一つで空を飛ぶことを指し、付与飛行は何かの道具を用いて空を飛ぶことを指す。
難易度としては単身飛行よりも付与飛行の方が高くなり、これは道具よりも自分の体の方が魔力の
例えて言えば、素手で杯を持つのは簡単だが食器を使って杯を持つのは難しい、というような話だ。食器を使って杯を持つ意味はわからないけれど。
他の学部であれば二年間で単身飛行を身に付けるところを、私たち飛空学部は一年間で終わらせる。
そして一年早く付与飛行を身に付け、残る一年はそのどちらかをより集中して伸ばしていくので、空を飛ぶことに関しては他の学部に先んじることになる。
当然、他の学部が専門的に学んでいる分野に関してはそれぞれの学部には及ばないので、どちらがすごいとか偉いというわけではないのだけれども。
「噂なんて、あてにはならないけど」
そうは言いながらもノーマが楽しそうな表情を浮かべているのは、やはり楽しみなのだからだろう。生菓子が美味しいから、とはまた違った種類の笑顔だ。
しかしふとノーマの手元を見ると生菓子は既に半分がなくなっていたので、もしかするとただ単に生菓子が美味しいだけなのかも。
もしも噂が本当なのであれば、付与飛行に使う道具についてそろそろ考えておいてもいいかもしれない。
付与飛行用の道具には特に規定はない。
一般的には
初めのうちは魔術学院で用意されたものを使うことになるが、ある程度慣れてきてからは自分専用の道具を使って飛ぶようになるのが普通だ。
その道具は付与飛行の使い手にとっての相棒、ということになる。
それは少しだけ、魔女と
そんなことを考えながら、私は最後の一口を名残惜しみながら飲み込んだ。ごちそうさまでした。
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