第3話
“偉大なる母”エリザベルが世界に
それほどの年月を経ても、なお。
なんの変哲もない数打ちの剣が依代となることもあれば、いかにもな名工の逸品が何体もの
触媒は、残骸を生み出したとしても適切な処置さえ行えばまた他の術者が再利用することができるのだ。
そのような処置が行われるのは、よほど希少価値が高い触媒くらいだけれど。
術者の技量や魔力の多寡に結果が左右されないのと同じように、触媒の
それでも、触媒の基本性能は高い方がいいに決まっている――と、そう考える人もいる。
理解できない話ではない。触媒はそのまま依代の主装備となるのだから。
その触媒が自分にとっての天授でないのであればそもそも基本性能がどうとか考えても仕方がないと、私は思うけれども。
天授について現在判明していることは、長らく研究をされている割にはあまりにも少ない。
その発表により、魔女となった者やその依代に共通点を見出だそうとする一派が頭を抱えることになったことは記憶に新しい。
少し前に魔紋学の授業で習ったばかりだから、むしろ忘れていたら困るのだけれども。
魔女に関する研究は様々な場所で行われているが、私が在学しているカイ・ヘルミナ魔術学院もまたそうであった。
カイ・ヘルミナ魔術学院中等部二年、リゼル・ランセルツ――それが、今の私の名乗り口上だった。
いたって
魔女になって銘を授かれば、もう少し格好がつくようになるとは思っている。
例えば、“疾火の魔女”カレン・アードナーのように。
銘とは、魔女となった者に与えられる称号である。
カレンの“疾火の魔女”という銘は、
まぁまぁ似合ってるんじゃないかしら、とはカレンの言だ。
銘は自分で勝手につけるものではなく、魔術協会によって授けられる。
魔術協会ができる以前や、魔術協会ができた後でもまだ世界に対してそれほど影響力を持っていなかった頃には、それぞれが好き勝手に二つ名として名乗っていた時代もあったらしい。
その頃は誰も管理をしていないものだから、同じ二つ名を名乗る魔女同士がどちらがその二つ名により相応しいのかを競って争いが起こることもあったのだとか。
魔術協会が銘を管理するようになって以降は次第に数を減らし、今ではまったくそのような争いは起きなくなった。
同じ時代に同じ銘を持つ者がいないのだから、そもそも起こりようがないとも言える。
魔術協会の役割は、当然のことながら銘を管理するだけではない。
むしろ魔力が関わる物事には大抵関わっているので、その役割を正確に説明しようと思えばどれだけ時間があっても足りない。
私自身に関わるところで言えば、魔術学院の運営母体である、というのが一番だろう。
魔術学院は魔女を目指す者が集う場所であると同時に、魔女を諦めた者がその後の人生を生きていくための術を身に付けるための場所でもある。
魔術学院には様々な学部があり、例えば薬学部なんかは特に市民の生活にも密接に関わりがあるところだ。
薬学部では薬草の知識であったり、薬草から
もしも在学中に魔女となることを諦めても、そのまま勉学に励めば卒業後に薬師として生計を立てることもできるし、もちろん別の職業を選んだっていい。
魔術学院に在籍できるのは基本的には最大で九年間となるが、それだけの時間真面目に学んでいれば、何かしらの職に就ける程度の知識や技術は身に付けることはできるだろう。
私が所属しているのは飛空学部で、魔法や魔術で空を飛ぶための理論や技術を中心に学んでいる。
まだそこまで専門的な知識を身に付けているわけではないが、去年一年間の座学と実習は十分な成果を出してくれていた。
飛空学専攻でなくても一般教養として空の飛び方は学ぶものの、やはり専門的に学ぶかどうかで飛行時の安定性や魔力効率といったものは大きく変わってくる。
どうせ空を飛ぶのであれば思うままに飛べる方が気持ちいいし、楽しい。
もちろん、依代を生み出して魔女になるのが目標ではあるけれども。それしか考えないようでは駄目だということも初等部の頃からしっかりと教え込まれている。
そもそも、魔女になって終わりではない。魔女になった後にも、人生は続くのだ。
それを思えば、目の前に積み上げた歴史学と魔紋学と天授学の
「中間
できることなら飛空学の勉強だけをしていたかったが、そういうわけにもいかない。
ため息を一つ吐いて、私は試験勉強を続けるのであった。
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