第21話『ベルセルク』

 ――――飛雷。直感して感じ取ったのはその一言に尽きる。

 周りの視界は、うずたかき蒼。一貫してなんとまあ綺麗な晴天の空模様。

 そしてその真ん中でのたうち回っている青年――


「――チっ、なんつう馬鹿力だ…くそっ!」


 いつのまにか上空にふっ飛ばされていた、、、、、、、、、青年から珍しく、そんな声が漏れていた。

 あれは斬撃だった。それが一呼吸の間に重心にアルヴァの重心を奪い、気付けば空の上である。

 押し返すつもりだったが、威力を殺しきれずにそのまま弾かれた。凄まじい押力に体がくの字に押し込まれる。

 接刀の瞬間わずかに視認した大剣は最条のソレだった。

 疑問よりも、暗殺者としての経験が思考がかった。どうやら彼は実力で打ってくるらしい。


「最悪だ。マジで」


 毒づいて、バランスを取ろうともがく。だが斬撃の威力はまだ死んでない。風がぶんぶんと耳をそばだてる。

 なんとかこの圧力から抜けないと、普通に死ぬ。

 しかしそこまで見据えたところで、下に動きがあった。


「こっちだ」


 直後、背後から察した迫力に無造作に刀を抜き放った。


「―――――ッッッ!!」


 ぎりりと、刃が激しく軋む。同時に、アルヴァを泳がせていた風が止んだ。

 最条だ、まさかここまでジャンプしてきたのか。完全に背後をとられていることに舌打ちし、強引に翻る。

 だが武器の相性が悪いのか、つばぜり合いにものの数秒で押し負けて、右からの蹴りを肩で受ける。

 空中で受け止めれるわけもなく、そのまま蹴り落とされた。だが勢いがあまりに強い。空気の壁に叩きつけられるように鼓膜を暴風が叩いた。

 ガシャァァァァァァァァンっっっ!!! ひどい衝撃とともに硬い地面に激突した。タイル状の地面が放射状にひび割れる。


「……………死ぬ……マジで死ぬって…」


 抉れた地面にかろうじて手を突いて、土煙をごほごほと咳き込む。


「……オレじゃなきゃ死んでたっつの」


 たかがケリの一つだと甘く見ていたが、認識を改めたほうがいいかもしれない。

 被りをふって辺りを見回すと、ここは――どうやら修練場コロシアムのようだ。簡素だが、円形のステージにタイルが敷き詰められている。もっとも、そのほとんどが今ので粉々になってしまったが。

 服の汚れを軽くはたきつつ、おもむろに立上がる。

 その直後、二度目の落下物。上空から、漆黒が舞い降りる。

 地面に新たなクレータをつくったソレは、勢いで多少地面に足がめり込んでいる。


「意外にタフだな、おまえ。いまので無傷とは」


 最条のほうは予想だにしなかったのか、意外そうな顔をする。

 そっちこそ、馬鹿力すぎんだろ。

 内心で毒づきつつ、平静ポーカーを維持する。


「ずいぶんな歓迎ですね。最条の人間は初対面相手にこんな仕打ちをするのですか」


「そうだな。だが『初めまして』というわけではあるまい」


「――――?」


「わからないとでも思うのか? あのいけ好かない魔女の犬が。そんなやつがどうして令嬢の入り婿になれる? 御前会議あちらではその話題で持ちきりだぞ。この婚約にはなにか裏があるのではないか――、とな」


 その途端、鬼灯アルヴァの仮面に僅かなひびが入った。

 御前会議。聞き捨てならない言葉の登場に眉がひくつく。


「――さあ、オレはただお嬢様と添い遂げたいだけですので」


「フン――、抜かせ」


 鼻を鳴らす最条を見る目が、僅かに鋭くなる。

 なるほど。コイツ、すでに時期当主という枠組みを逸脱しているな……。

 射貫くような奴の視線に睥睨しつつ、どうしたものかと思案する。

 遠目から重なった足音が聞こえてきたのは、ちょうどその時だった。

 追ってきたアイラたちが観覧席から姿をみせる。


疾羽とわ! これはいったいどういうこと!」


 走ってきたのだろう、その息は切れている。

 ステージに立つ俺と最条を視線で行き交って、当惑したアイラが眼差しを送る。


「――なに、お前の男を少しばかり借りるだけだ」


 最条はそっけなく返し、視線をオレへと戻した。


「で、続きだが」


 言って、最条は肩をすくめた。幾分か柔んだ表情は、それでいて鋭い。


「まあ、俺は人様の家事情いえじじょうにいちいち首は突っ込まん。だが、お前はどうにも気にくわない」


 傍らの大剣を高らかに掲げて、奴は勢いよく地面に突き刺した。ソードスキルを使っていないはずの剣圧は、アルヴァの足下まで震動を伝える。


「剣をとれサムライ。お前が《略奪》を名乗るのに相応しいか、俺が見極める」




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