カプリスの巣②

酷い光景が更に地獄と化したこの地は、日本でありながら数年前では絶対に見られない景色。まるで南米のスラムに連れて来られた様にも錯覚する。

いや、どれもこれも私の定義では測りきれないもので、たったひとつの確実な事象は、地獄はいつも自分の頭の中にあると言う事だけだ。


足を撃たれて泣きながらうずくまっているクズを放っておいて、ビルの屋上に駆け上がって屋上から屋上へと飛び移り、先程仕掛けてきた闇焰の背後を取る。

背中から弾丸を叩き込んでやろうとガバメントのトリガーを引くが、鈴鹿に体を向けたまま私の居るビルに飛び退く。

直ぐに屋上からひとつ下りて瓦礫の中に身を隠し、ソレが来るのを息を潜めて待つ。


「てめぇの相手は私だろ闇焰! とっととこっち向き直れ、私はここだクソ野郎!」


階段を飛び下りた際に仕掛けたカメラの映像をモニタで確認すると、この階に逃げ込むついでに仕掛けたクレイモアはまだ起爆していなかった。

カメラを遠隔操作して見回したりしてみるが、突然途切れた映像と同時に背後から硝子の割れる音が響き、連射の音が響いた方向に振り向くが、ラペリングしている闇焰が窓の外に消える。

肩に掠った弾丸を気にしている暇なんて与えられず、違う窓を蹴り破って姿を現した闇焰だったが、その上の階からラペリングしていた鈴鹿に背後から部屋に蹴り入れられる。


「やっと見付けたぜ、クソ同僚殺し」


「そう言う君も同胞殺しだろぅ? 僕たちはどこまで行っても誰でも良いから殺したい性なのさ!」


「伏せろ、この建物から離れてお前はクズの手助けをしてやれ。それから……」


「鈴姉! クレアが攫われちゃって……」


教会でクレアの後ろから顔を出していた子どもが姿を現した瞬間闇焰に視線を戻した時には既に遅く、手遅れを承知で子どもに手を伸ばそうとしたが、鈴鹿が子どもを背中に隠して窓の外に飛び下りる。

追わせない為に天井を崩して窓を塞ぎ、後ろの窓から飛び下りて廃車をクッションにして教会に向かって走る。足下に着弾した音で車の後ろに身を隠すと、ナイフを口に咥えた鈴鹿が戦闘準備していた。


「チビを頼んだ聖冬、あとビクトリアに謝っておいてくれないか」


「分かった。でも、悪いけど闇焰は生きて帰さないから」


「……チッ、3秒だけな。それ以上は強制遮断だ、最先端のテクノロジーと言えど試験段階だからな」


「3秒あれば人は殺せるでしょ、逆に3秒は必ず掛かる訳だし」


シリンダーを砕いて自分の胸に手を当てて体の中の何かを掴み、消えた自我の中で闇焰だった肉片がそこら中に焼けてこびり付いているのが見えた。


「3秒、流石だな」


腰に付いた機械のピンを鈴鹿が外すと、私の首に着いている装置が電流を流し、連続していた意識を強制的に途絶えさせる。

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