The RoseQuartz④

何の前触れもなく意識が覚醒して、寝起きにも関わらず頭は冴えている。

と言うよりも、さっきまで見ていた夢の所為で脳が興奮状態にあるのだろう。


「おっはよ〜、2度目の目覚めだねのーとくん。とは言っても今回は追い出さないけど」


臙脂色の触覚を耳に掛けて微笑んだ少女が視界に入り、今度こそ本当にシンに殺されると覚悟する。

ASCを操作する少女がドアを一瞥して部屋の隅に移動すると、開いた自動ドアからシンが勢い良く入って来る。


「何故辞退しなかった! ウラノスレコードは世界に3つしかないんだぞ、その内の1つをお前は使ったんだ。もう1つはドイツ、もう1つはロシアに厳重に保管されているんだ。もう、日本には無い」


目の前で激昂するシンに胸倉を掴まれ、突然ベッドの上から床に投げられる。


「いっ……何するんだ……」


「お前にそれが使いこなせるか! 唯の平凡な学生如きが、故郷の旧い街を燃やせるか! 平凡な日常から抜け出して、死と直面出来るのか?」


「うぅわぁ〜、シンがあんなに怒ってるの初めて見たよ。JBか聖冬さん呼ばないと止まらないんじゃ」


激昂するシンの足が乗っている薔薇の髪留めが目に入り、周りが見えなくなって手に当たるものを、見境無く全て投げ付ける。

思わず後ずさったシンの足下から髪留めを拾い上げて部屋の外に出ようと駆け出すが、丁度入ってきたエキウムとぶつかりそうになる。


「待て! ウラノスの遺産を持ったからにはお前は戦力だ、ここを離れることを許可しない! お前1人でどうする気だ」


「……エキウムが居る、あの時もエキウムの歌を聴いたら何故か落ち着いたんだ」


両手に花を沢山抱えたエキウムの手を取ってシンに真正面から言うと、目を細くして眉間にシワを寄せる。


「幼児退行したなり損ないに頼るしかないのか、憐れだなお前は。当然今けなされている事も分かっていない」


「何で……」


「お花だよお花ー! 見て見てシン、私だよこれ! エキウム!」


ぴりぴりと緊張した気不味い空気にも関わらず、シンとの間に入って両手に抱えられたエキウムを差し出し、シンはそれを受け取って頭を撫でる。

瞼を閉じて嬉しそうに微笑みながら撫でられ続けるエキウムは、そのままストンと眠りに落ちたように座り込み、暫くして勢い良く飛び上がる。


「バーン! 花火ー!」


花を部屋の中に撒き散らしてくるくると回る姿は、何も気を使わない子どもと何一つ変わらない。

無邪気と言えば聞こえは良いが、世間から見たら、きっと白い目でしか見られないだろう。


「まぁまぁ、変な空気なんて飛ばしてさ。ここで自己紹介といこうよ、私はローザって言うんだ。薔薇が名前の由来なんだけど、見た目はこんなに小さくて幼く見えるから名前負けなんだよね〜」


ベッドの隣に置いてある椅子の上で臙脂色の長い髪を揺らした小柄な少女が、エキウムとは違う無邪気な笑顔を向けてくる。


「ちっ……シンビジウムだ、RIOTを纏めている」


変わらずに不機嫌なシンの後ろの青年の自己紹介を待つが、口を開く気配が全くない。


「あの、部屋の隅の人は」


「んぁ? 部屋の隅に人なんていな……何か見える?」


「私には見えるよ〜のーと、男の人だよね〜」


「何それ何それ何それ! のーとの記憶みせてもらったけど、幽霊なんて非論理的なもの見えていないよね。それってウラノスレコードの副産物かな、研究させてほしいな〜」


凄い勢いで食いついてきたローザに両腕を掴まれ、胸倉を掴まれて無理やりかがまされ、目に光を当てられて覗き込まれる。


「瞳孔などに変化はなしだけどASCはどうかな、こっちからは見えないから教えてよ」


「その話は私からする、聞きたい人は残って。面倒事に巻き込まれることになるけど。あとちょっと長くなるから」

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