The RoseQuartz③

最初からおかしかった。どこの誰かも分からないのに、遠い夢の中に居た気がしたから仲良くなった。

いや、執拗く隣に居たから仕方無く仲良くなったのか。それでも圧倒的な美を体現したそれは存在した。


「本当はずっと抱き締めてあげたかった、あの時に」


夢の中のエキウムはいつもそう言って傷だらけの体を引き摺り、満身創痍と言った表情で空を仰ぐ。

それは恐らくエキウムに似た他の誰かなのだろう、何故ならエキウムとは明らかに年齢の差が見られる。


その視線の先にはいつも少年が1人で遊んでいて、今回は必死な顔をして走り続けている。

少年とエキウムの間に散乱する写真の顔は、全てデータが破損した様に欠け落ち、誰が誰だか分からない。


そこには赤いマフラーを巻いた猫の人形が写っていたり、苦しい現実に目を背けたくなるが、生憎それに終わりはない。

多分これが映画で言う、エンドロールになるのだろうか。


だからお願いだから叶えてほしい、そう何度も神に願ったが、誰が信じていようが叶えてくれる筈もない。

何故なら遠い夢の中にあるものは、神になど干渉出来る領域に無い。


どこへ帰るのかすら分からない者に、どうやって帰る場所を聞くのかなんて、小学生でも結果が分かる程残酷な事だ。

本当に何も残せない状況にあるこの日本で、一体どうやったら抱きしめてあげられるのか、今更穢れたこの体で。


「何も好きと言えない国に、明るい未来は無い。だから俺は日本を捨てる、申し訳ないとは思う。だけど、好きと言ったら冷やかされるこの国は、もう約束の惑星じゃない」


「うん……さよならが運命なら。喜んで受け入れましょう、だからごめんね……眠りにつくまで、私の精一杯の愛をあげるから」


泣き止まない子どもを抱きしめた母親は、不器用過ぎる愛情を子どもに受け渡し、泣きながら偽りばかりの世界に送り出す。

まだ殆ど言葉も理解出来ないこの子は、将来どんな道を歩むのか、不安で楽しみで、悲しくて嬉しい。


見た事もない懐かしい景色を眺めたまま、右手の中にある小さな夢をそっと握り締め、目を背けてから瞼を開く。


「行かないと……また歩かないと、でもどこに……どれだけ、どっちに……」


1人で進むには長過ぎる道程、当たり前の言葉が欲しくなる時もある。

でも、その当たり前が案外遠くて、もっとその手は強く握れるのに。


「君が端っこで泣かない為に、私はウラノスにだってなってみせて、この約束の惑星の空になってみせた。だから空は果てなく続く、君のこれからの様に」


「その君が何で死ななきゃいけないのか、どこへだって連れてくから。だから僕に付いてきてほしい、良いだろう?」


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