埋み火

老人はおまえに

ものを

放りこむ

赤々とした

その口へ


おまえの頭上で鍋が笑っている

数限りない夕餉の匂いがおまえに

染み付いている、また酒の芳しい香りと

血の流れと涙は静かに漂っている


あの庭の

一角に根付いていた木を

その手で断ち割り

おまえに焚べるとき

過ぎし日に小さな手で

ぶら下がった

枝木の

感触が思い出されながら

焼かれていく

老人の父もその母も兄も妹も

灰のなかに

息づいている


冬の時代おまえはわけへだてなく

人をあたため、過去から今に至る

たくさんの影たちが老人とともに

おまえを囲んでいる

おまえが抱く火は

人が絶やすことなく

受け継いできたものだ


別たれた道を辿り

あゆみ去った手足がやがてまた

ここに現れるときまで、おまえは老人を

見守り、老人もおまえを見守り

火は絶える

ことなく

ちいさな達磨ストーブは

夕餉をあたためて、灰のなかの人々とともに

やがて来るだれかを待っているのだ

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