第40話 黄金の光
そして今、イブロ、チハル、ソルそしてグウェインに紅目、緑目と龍の巣にいたメンバーはまた龍の巣にいる。
魔晶石の数はチハルの指定する量がきっちり集まっている。後は星を迎え撃つだけだ。
イブロは空を見上げる。当初チハルに指で指し示してもらわなければ他の星と区別の付かなかった「破滅の星」も今となっては月より大きく見える。
作戦決行は明日の朝日が昇ると同時。
「イブロ、ありがとう」
「いや、感謝しているのは俺の方だ」
イブロは思う。チハルに出会わなかったら自分はあのまま錆びつき腐っていっただろう。誰にも関わろうとせず、関わるべきではないと日々をただ生きているだけ。
しかし、イブロはチハルに出会い彼女に変わってほしいと願うようになった。それはイブロ自身も変えたのだ。彼はクロエにアクセルに……そして未だに敵であるディディエにまで関わり、協力を求めた。
イブロの願いに彼らは真摯に応えてくれる。恐れていた。自分が人と関わるのを。また失うのではないか。しかし、失うことを恐れるのではなく、前へ前へ進めとチハルが教えてくれた。
だから、ありがとうと言うのは自分なんだ……。
「ソル」
イブロが考え込んでいる間にソルがチハルの頬をべろんと舐める。
チハルはそんな彼の顔を愛おしそうに撫で、頬を擦り付けた。
「ソル、今日は一緒に寝ようね」
チハルの言うことを感じ取ったのか、ソルは犬のように尻尾を振る。
『イブロ、チハル。事が済んだらここに残った宝石は全て持って行っていいからの』
出し抜けにグウェインが二人に告げる。
彼が今回の魔晶石集めに拠出してくれた噴水に集められた宝石類も半分くらいに減ってしまった。
中央に立つ鳥頭の彫像もどこか寂しそうに見える。
「いや、必要ない。お前さんの宝石だろう。いっぱい使ってしまってすまんな」
『何を言っておる。人間とは報酬を求めるものだろう? 儂からの報酬じゃ』
「報酬ってのは依頼者がするもんなんだ。報酬を渡すなら俺たちの方だ」
『細かいことはよい。儂も噛ませてもらったからの。世界の破滅へあがらう事にのお』
愉快愉快とグウェインが笑うが、巨体の為イブロの腹の奥にまで響く音量になってしまう。
全く……皆大馬鹿野郎だ。イブロはニヤリと笑みを浮かべ肩を竦めた。
◆◆◆
――夜明け前
紅目にまたがるイブロとチハル。イブロの前にチハルが乗り、彼女は魔晶石の入ったリュックを前抱きにした形だ。イブロがチハルを後ろから支え、紅目に取り付けた手綱を握る。
これに付き添うのは邪龍グウェイン。彼は単独で飛行し、不測の事態に備える構えだ。
「ソル、緑目。留守を頼んだぞ」
イブロはさっきからずっと目線を外さないソルと緑目へ言葉をかける。
「チハル、案内は任せたぞ。『破壊の星』のことだけに集中しろ。手綱は任せろ」
「うん、イブロ」
イブロは手綱を引く。それに応じた紅目が一声鳴くとふわりと宙に浮く。
いよいよだ。
頭上を見上げると、破壊の星は月の倍ほどの大きさに見える。もう落ちてくるのもそう遠くないとイブロの目にも明らかだ。
紅目が駆ける。一直線に駆けた。チハルの指示に従い。
遺跡が小指の先ほどの大きさまでになる頃、チハルは目を瞑り集中を始める。
それに従って、魔晶石が黄金色の光を放ちはじめ彼女に吸い込まれてから彼女を覆うように光り輝く。
「このまま進めばいいんだな。チハル」
イブロの声にチハルは首だけを縦に振る。
彼女は両手を天に掲げ、腕にグッと力を込めた。
――チハルの手から黄金の帯が天に向かって伸びる。行き先は「破壊の星」。
頑張れ。チハル。イブロは心の中で叫ぶ。
腕を真っ直ぐに伸ばしたまま、更なる力を込めるチハル。
その一方で高度はどんどん上がっていく。天高く。天へ向かい。
『来たぞ。なるほど……これは……』
グウェインが呟く。
イブロも彼の声に反応し、黄金の帯の先へ目を凝らす。
な、なんという大きさだ。これは……まるで天に浮かぶ島のようだ。
灰褐色をした島のような塊が天から落ちてくる。しかし、その速度は急激に弱まり、チハルの黄金の帯の効果が見て取れた。
「頑張れ! チハル!」
魔晶石の残りはどうだ? もう半分以上が無くなっている。
足りるのか。
「大丈夫だよ。イブロ。ちょうど」
黄金の帯が倍ほどの太さになり、「破壊の星」を包み込む。黄金に輝く島のように見える「破壊の星」は幻想的で美しい。
止まれ! 止まれえ! イブロは念じる。彼にはできることは祈ることだけだ。
――「破壊の星」が宙で停止する。
「やったぞ。チハル」
「うん」
「グウェイン、急いで逃げるぞ。止まった後は空に向かって投げた石が落ちてくるようにまた落ちてくる」
ここは「破壊の星」の真下なのだ。停止している間に急いで逃げなければ押しつぶされる。
『先に行け。儂はこいつと勝負する』
グウェインは地の底から響くような笑い声をあげた。
「何言ってんだ。グウェイン!」
『お主、こいつがこのまま落ちればどうなると思う? この高さだ。ただ事では済まぬぞ」
「それは分かるが……」
『分かるか、イブロ。龍とはこの世界で最強の生物なのだ。このような小さな娘だけに任せておけぬだろう』
「無茶だ!」
これ以上待ってはいられない。
イブロにはグウェインの目的がもちろんわかる。被害を最小限にするため、破壊の星を受け止め地に軟着陸させるつもりなのだろう。
そうすれば、「破壊の星」の重量に押しつぶされる以外の被害は無くなる。このまま落ちれば落ちた時の衝撃で被害が拡散するに違いない。
しかし、しかしだ。星の速度は殺した。許容できる被害だろう。そのつもりでここまでやって来た。
イブロは複雑な思いを込め、叫ぶ。
「グウェイン!」
もう間に合わない。ここに留まれば自分たちが押しつぶされてしまうだろう。
舌打ちをしイブロは全速力で紅目を駆けさせる。
『見せてやろう。龍というものを。同族よ。儂を畏れ、誇りと思うがいい』
グウェインは大きく息を吸い込む。すると彼の口元にチリチリと青い炎が渦巻いてくる。
龍にしかなしえぬ技……ブレスだ。グウェインは口を開きブレスを勢いよく吐き出した。
――龍のブレスが「破壊の星」に当たる。それと時を同じくして宙にとどまっていた「破壊の星」が落下し始めた。
龍のブレスが直撃した「破壊の星」は細かい傷が入るだけで膨大な質量にはほとんど影響を及ぼさないでいる。
しかし、グウェインは嗤う。それでこそ、世界を破壊するモノだと。
そうでなくてはいけない。最強に対するは最強でなければな。
両手を広げ、「破壊の星」へ抱き着くように巨体をぶつけたグウェインは翼に力を込める。
空を駆け抜けてきた熱が籠っていた破壊の星へ手を触れたグウェインの手がジュウジュウと焦げる音がした。しかし彼の顔は満足気だ。
「グウェイン……」
一方のイブロは再び龍の名を呟き、カルディアンを構え「伸びろ」と念じる。
それと同時にイブロは手綱を引き紅目を右へと旋回させた。そこへ「破壊の星」の欠片が飛んで来る。
それは、先ほどグウェインのブレスで飛び散った欠片だった。いかな欠片とはいえ、大きさが一メートルほどある。まともに当たれば命の保証はない。
イブロは片腕でカルディアンを振りかぶり、膝を締め自身の身体を動かぬようギュッと紅目に固定する。
巧みな手綱の操作を持ってイブロは見事「破壊の星」の欠片を弾き飛ばしたのだった。
「降りよう。空中だと対処が難しい」
「うん、イブロ」
イブロは龍の巣を目指し下降していく。
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