第39話 全てを回収しろ!

 ディディエ、グウェイン、クロエとパメラの協力を取り付けたイブロとチハル。協力者たちによって街に出回っている魔晶石はかなりの数を集めることができるはずだ。

 そのため、イブロ達は流通している分を彼らに任せ、取り残した僅かの分は後程チハルの探知能力で個別に回収していくことにする。

 魔晶石は古代遺跡にあるアイテムであるが、見た目が宝石のように綺麗なので発見されれば探索者によって持ち替えられていると思われる。瓦礫に隠れていたり、窪みの中に入り込んでいたりして未回収になっているものもあるに違いない。

 これを回収すべくイブロとチハルは動いている。まずどこから行こうかと思案したイブロは数の多いところから行こうとチハルを誘う。

 彼女はにぱあといつもの朗らかな笑みを浮かべて、広げた地図を指さす。彼女が指示した位置はチハルとイブロが初めて出会ったあの広い古代遺跡だったのだ。

 

 イブロもこれにはなるほどと頷く。古代遺跡とは今は龍の巣になっているところも含めて全ての場所は探索者の足跡が付いている。しかし、あの古代遺跡はそうではない。

 イブロが「落ちた」場所は、彼以外侵入したことのない未踏の地なのだから。


 そんなわけで、イブロとチハルは懐かしい旅立ちの場所へ戻ってきた。紅目を外に待機させて、彼らは地下へと入っていく。

 例の落とし穴の場所を下り、チハルと出会った大広間へ出る。

 

「何だか随分昔のことみたいだよな」

「うん」


 チハルはかつて自分がいた台座の上に乗り、クルリとその場で一回転する。

 あの時、ここに落ちてきていなければチハルに会うことも無かった。彼女との出会いは偶然だったと当初思っていたイブロだったが、今は彼女とここで出会うのは運命だったのではないかと考えている。

 イブロに信じる神はいない。しかし、彼は見えない偉大な何かが自身をここへ導いたのではないかと思う。だからこれは必然でなのだ。

 だが、導きは決して「破壊の星」を止め世界を救うことためではない……イブロ自身を救うために……。

 

「イブロ、こっちこっちー」


 チハルはイブロの手を引き、大広間から出る扉へ向かって行く。

 扉を開けた先は回廊になっており、イブロがかつて倒したガーゴイルの残骸があの時のまま転がっていた。

 あの時、よく見ていなかったが、ガーゴイルが鎮座していた反対側の台座にも銅像が立っている。この銅像……どこかで見たな。鷹の頭に人間の胴体、手には槍を持っている。

 

「どこだったか……」


 イブロの思考を遮るようにチハルの陽気な声が響いた。


「イブロー、ちょっと待ってね」


 チハルは鳥頭の立っている台座の前でしゃがみ込むと、何やらブツブツと呟く。すると、台座の中央部分がぽっかりと穴を開けた。チハルはその中へ手を突っ込み引き抜く。

 すると、彼女の手には魔晶石が握られていたのだった。

 

「おお、さっそくだな」 

「えへへー」


 どうやら、この先にもまだまだ魔晶石があるとチハルが言うので、モンスターに注意しつつ奥へ奥へと進んでいく二人。

 彼らは幸いモンスターに出会うこともなく探索を終えることができたのだった。二人が遺跡の表層に出た時には外は夕焼けを迎えようとしている。

 紅目は夜目が効かない為、イブロとチハルは遺跡の表層部で一夜を明かすことにした。

 その晩のこと――

 

「チハル、『破滅の星』はどこにあるんだ?」

「あそこだよ」


 空に浮かぶ星を眺めながら、イブロがチハルに問うと彼女は迷いなく夜空の一点を指し示す。


「『破滅の星』といっても他の星と変わらないんだな」

「日に日に大きく見えるようになってくるよ。あれを止めないと……」

「そうだな。今日はもう寝るか」

「うん」


 チハルとイブロは同じ毛布にくるまり、星を眺めながら就寝したのだった。


 ◆◆◆

 

 イブロ達はその後、大陸中の遺跡を探索し遺跡に残された魔晶石を回収していく。全てを終えた頃には一か月の月日がたっており、彼らはディディエに会いにとある寂れた農村へ足を運ぶ。

 彼はイブロ達との約束通り、二百個の魔晶石を手渡すとすぐに不気味な笑い声をあげながら去っていく。またどこかで彼と対峙することになるかもしれないとイブロは漠然とそう感じたが、今は彼が約束を守ってくれたことに感謝した。

 

 ちょうどいい機会なので、イブロ達はルラックへ向かう。


「チハル、どの程度クロエのところに魔晶石が集まっている?」

「んー、未回収の魔晶石のうち……九十七パーセントがパメラのところにあるよ」

「おう、そうか」


 イブロはそれを聞き、クロエの手腕に寒気を覚えた。この広い大陸にある魔晶石のほとんどを僅か一か月で集めてしまったのだから……。

 クロエから魔晶石を受け取り、彼らは街に残された残りの魔晶石の回収に向かう。クロエも引き続き魔晶石を集めてくれると申し出てくれたので心強い。

 

 しかし、ここからが大変だったのだ。

 離れた場所に散らばった魔晶石のありかへ行くだけでも困難を極めるのに、それを譲ってもらうことがそれ以上に大変な場合があったのだから……。

 家宝にしている程度ならお金で解決できるのだが、形見であったり果ては墓の中にあったしたのだからたまらない。


「チハル、大陸にある全ての魔晶石を回収しなければ足らないか?」

「う、うん。海の向こうにもあるんだけど、そこは届かないよね」

「そうだな……」

 

 やるしかないか。イブロは目を伏せるチハルの背中をポンと叩き、彼女の頭を撫でる。

 海を越えるとなると飛竜では距離が遠すぎて不可能だ。となると、船で行く必要がある。船でとなれば……往復するだけで一か月近くかかってしまう。

 それでは時間切れだ。

 

「今日はクロエと会う日だな。このくらいにしてクロエのところへ向かおう」

「うん、イブロ」


 ご神体になっていた魔晶石を一旦諦め、イブロとチハルは紅目に乗り、ルラック家の別邸へ移動する。

 クロエと会ったイブロはつい彼の前で、回収が難しい魔晶石のことを愚痴ると彼は不適な笑みを浮かべ「任せてください」と呟き、メガネをクイッとあげた。

 イブロは彼の表情に背筋が寒くなったが、何も言わず彼へ感謝の意を述べる。

 

 恐ろしいことに困難を極めていた魔晶石の全てをクロエは僅か五日で全て集めきってしまったのだ。

 それ以来イブロは難しい回収ネタがあるとすぐクロエへ報告するようにやり方を変える。


「クロエのおかけで何とか期日までに集まりそうだ」

「すごいね、クロエ!」

「だな……」


 一体どんな交渉をしているのか怖くて聞けないイブロなのであった……。

 

 こうして二か月近くが過ぎようとしている。

 イブロとチハルはクロエから最後の魔晶石を受け取り、龍の巣へと戻って来ていた。

 

 イブロは一つ一つ確かめながら、チハルが背負えるように作った麻でできたリュックに魔晶石を詰めていく。

 

「これで全部だ。チハル」

 

 イブロは麻のリュックを掲げチハルへ見せる。時間はギリギリだった……ここまでこれたのはクロエやディディエを始めとした多くの人の協力があってこそだ。

 全員が全力で魔晶石集めに奔走し、結果残り二日でようやく全ての魔晶石を集めることができたのだった。

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