第27話 役目

 ミミルの塔に着きカーゴから降りると、全員がその気配を察知した。

 「もう手を回してあるなんて、流石と言うべきね」

 「数は・・・百を超えるな」

 「どうするの?」

 「塔を登って迂回する事も出来るけど、それだと先回りされて結局相手をする事になるし、バアトの事だから他にもまだ何か策があるのかもしれないし・・・」

 危険を回避する最善の策を練ろうとしても、不安要素は常に付き纏い決断を鈍らせる。

 「うだうだ言っていてもしょうがないだろ。俺があいつらの相手をするから、リンとフルールは塔を登って先に行け」

 「そんな!ファミーユ一人だけじゃ危ないわよ!」

 「何の為にこんなガタイの良い身体で産まれたと思っているんだ?家族を守る事ぐらいさせてくれよって、これは少し違うかな」

 「でも、ファミーユ、あなたは」

 「言わなくていい。俺もわかってる。生き残ればそれで問題ないだろ?」

 この世に生を受け正しい己の役割を見つけ出せる者がどれだけいるだろうか?多くは横道に逸れ、諦めてしまう。ファミーユはそれを見つけてしまった。だからこそリンは慙愧の念に堪えない。

 「・・・ごめんないさい」

 「おいおい今はそんなしみったれた事を言う場面じゃないだろ?家族を助け出す為に全力を尽くす場面だ。だったら熱く前向きにいようぜ?

 それに、俺は仲の良い大切な家族がいてくれるだけで充分幸せだよ。だから一家団欒を味合わせてくれよ」

 思わず苦笑してしまう。それと同時に心が軽くなる。こんなにも暖かい気持ちになれるのは、ファミーユの人柄によるものだろうか?何処となくウインドに近いものを感じる。

 「行こうフルール。ウインドを助け出すのよ」

 「えっ!?でもリン」

 「ファミーユなら大丈夫。私達の弟を信じましょう」

 フルールはそれでも心配そうだったが、意を決してリンと共にミミルの塔を登り出した。それと同時にファミーユも入り口を突き破りエントランスに飛び込んだ。その瞬間一斉に銃口が向けられる。

 「投降しろ。お前は完全に包囲されている」

 ファミーユは静かにユニット達を見渡した。命令に従うだけの使い捨ての命、余りにも悲しく哀れ。ファミーユは溜息を吐いて首を振った。

 「命の使い方を間違ってるな。・・・答えはNOだ。せめてお前達が次産まれた時自由に生きられる事を祈るよ」

 一斉射撃が始まると同時にファミーユは近くのユニットの群れに突進した。銃弾のいくつかはファミーユに当たったが大した事はない。軽く身体にめり込んだだけだ。

 そのままユニットの群れを裂く様に突進する。引き裂き、抉り、吹き飛ばし、次々とユニットを殺していく。二階にいるユニットには仲間を投げつける事で攻撃した。砲弾の勢いで飛んでくる仲間の直撃を受け血潮と臓物が壁と床に撒き散らされる。

 ユニット達は至近距離での射撃は出来ず、ナイフを持ってファミーユに斬りかかってくる。鋭利で長大なナイフ、しかしファミーユには掠り傷しか付けられない。ファミーユはナイフの斬撃など気にも留めずナイフで斬りかかったユニットを爪で切り裂いた。

 「わかっちゃいないな。こういう武器はこう使うんだよ!」

 奪ったナイフでユニットを頭から下にかけて真っ二つに両断した。

 「綺麗に斬れるが、自分の爪でやった方がしっくりくるな」

 そんな軽口を言っていると後頭部に強い衝撃を受け思わず膝をつく。振り返ると物陰に狙撃銃を持ったユニットが潜んでいた。

 「おいおい勘弁してくれ。まだ禿げたくはないんだよ」

 ファミーユの投げたナイフがユニットの頭部に命中しそのまま壁に磔にした。

 「この方が使いやすいな」

 ナイフの斬撃を躱しつつ、二階にいるユニットの狙撃に注意を払いつつファミーユは次々にユニットを屠って行く。戦力では相手が圧倒的に上回っているが、能力の質にも差があり過ぎてどう見てもファミーユの勝利は見えていた。だが、無策で兵を配置する程バアトは考えなしではなかった。

 (?)

 まるで膝が抜ける様な脱力感、目を回したかの様に視界が揺れる。

 「あくまで生け捕りがお望みかい?俺の肉体美を晒したら芸術品扱いされちまうな」

 ユニット達がナイフで斬りかかってくる。ファミーユは斬撃ごとユニットの身体を貫き盾にする事で攻撃を防いだ。まるで水の中にいるかの様に身体が重い。斬撃を躱しけれないと判断したが故の行動だ。

 その時二階窓ガラスを割って何者かが飛び込んできた。そのまま素早く動き二階にいたユニット達を次々と殺していく。その動きには一切の無駄がなく、見惚れてしまう程しなやかで美しい。二階にいたユニットを全て始末するとその人物はファミーユの場所まで跳躍した。

 「全く、怪我の治療をしていたんじゃないのか?」

 傍に降り立った人物はマーレだった。身体に多少の切り傷や弾痕があるが、当人は全く気にした様子を見せない。

 「こちらで銃声が聞こえたものでな。家族が襲われているかもしれないと思い駆け付けたんだ」

 「いいのか?インパの奴を放っておいて?」

 「私は物ではない。インパもそれはわかっている。何より、家族が危機の時に助けようともしない者がどうして他者を救えるのと思う?」

 「やれやれ、かっこよくお姉ちゃん達を守ろうとしたのに手助けされるなんて、俺もまだまだ甘ちゃんだな」

 「こんな状況でよくそんな軽口を言えるな」

 「その方がいいだろ?こいつらの新しい門出を祝うんだ、笑いの一つでもなきゃ笑顔で見送れないしな」

 マーレはそれに答えず僅かに笑みを浮かべ、ユニットとの戦闘を再開した。

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