第14話 お互いの想い

 図書室に籠って、気が付いたらもうお昼を過ぎていた。物思いに耽り、考え事に没頭すると、時間の流れは砂時計の様に短い間隔で早く流れる様だ。

 ずっと座りっぱなしでいるのは初めてだ。立ち上がり身体を伸ばすと背骨や肩から「ゴキッボキッ」と音が鳴った。ずっと家の中にいた為か、少しばかり気分が重い。外に出て新鮮な空気を吸いリフレッシュをしようとリンは部屋を出た。

 「きゃーーー!」

 「凄い回るーーー!」

 「目が回るーーー!」

 「もっと早く回ってーーー!」

 「勘弁してくれ、俺が目を回しちまうよ」

 外に出るなり、子供達と一緒に遊んでいるファミーユの姿が目に入った。自分の両腕に二人の子供を掴ませ、その状態のままグルグル回ってる。正直、リンには何が楽しいのかわからなかった。

 玄関先に座って、リンはその愉快な光景を眺め続けた。しばらくして回るのが終わると、子供達は目を回したのかふらふらしているがとても楽しそうに笑っている。ファミールも若干ふらついているが楽しそうだ。

 こちらを見つめるリンの視線に気づいたファミーユが傍に近づき隣に座った。子供達が「今度は僕も!」「私も回る!」とせがむが、ファミーユはやんわりと「後でしてやるから」と言い聞かせ、子供達は少し不満そうにしながらも今度は鬼ごっこで遊びだした。

 「・・・いつの間にか仲良くなったんだね」

 「ただ一緒に遊んでいただけさ。何となく、何も考えずに過ごしてみたかったんだ」

 「フルールは一緒じゃないの?外に出たはずだけど」

 「フルールなら海を眺めてるよ。教えといてなんだが、今はそっとしておいてやってくれ」

 「わかってるよ。誰にでも、一人になって考えたい時はあるもの」

 「考えたい時か・・・・・・お前、ずっと家の中にいたみたいだけど、何してたんだ?」

 話すべきだろうか?抵抗はあるが、自分の事は誰かに相談したかった。子供達の真実は、誰にも話したくはない。

 「ねぇファミーユ・・・私、文字が読める様になってた・・・」

 「・・・読めないんじゃなかったのか?俺も文字なんて読めないぞ」

 「多分、あの遠くに見えた建物を見た時の頭痛で、読める様になったんだと思う。マーレも、フルールも読めない文字が、私だけ読める・・・」

 疎外感、自分だけ違うと言う孤独。自分がわからない。正体不明の記憶の存在が、自分の存在を不明瞭にしている。家族に囲まれていながら周囲を崖に覆われている。鎖で雁字搦めに縛られている様だ。

 「・・・自分が誰なのか、わからない。家にいた時は、皆のお陰で気にしない様にしていたけど、ここに来て、その思いが再燃したの。 

 私って、誰だと思う?どうして、私だけこんな記憶があると思う・・・?どうして文字が読める様になったんだと思う・・・?」

 こんな事を聞いたところでファミーユにわかる訳がない。それでも、誰かに聞きたかった。答えが欲しかった。

 「・・・なぁリン。俺は自分の性格や人格に歴史がないんだ。産まれた時からこんな喋り方でこんな性格だ。俺には過去はない。もしかしたらこれが素の俺かもしれないが、正直気持ち悪いんだ。自分の人格があらかじめ決められているみたいでな」

 「・・・・・・」

 「俺はお前じゃないから、正直な話し何とも言えない。『リンはリンだ』なんてそれっぽいセリフを当然みたいに言うのはごめんだ。

 だけどな、言っちまうと俺達はまだ産まれて間もないんだ。マーレだって一年ぐらいだろ?ここの子供達よりも俺達は幼いんだ。自分が無いように感じるのはきっとお前だけじゃない。

 今の性格や人格に過去も歴史もない。だったらこれから生き続けて、自分を作って行けばいいんだ。俺はそうしようと思ってる。お前はどうする?」

 「ファミーユって・・・意外と前向きだよね」

 「後ろ向きな事ばかり考えてどうする?物事をいい方向に進ませたいんだったら前向きに生きるべきだ。楽観的になれとまでは言わないがな」

 何処となくウインドに近いものをファミーユに感じた。

 「私は・・・まだどうなるのかわからない。だけど、この記憶に関して調べて見ようと思う。多分・・・全て私のものだと思うから」

 デメテルに会って聞けばよかった。多分今なら家の中にいるはずだ。だが、二の足を踏んでしまう。知るのが怖い。真実を恐れてる。海の向こうを恐れた時、あの建造物を見た時の凄まじく嫌な感情、勇気がなかったのだ。

 勇気、勇気、何かをする時には必ず勇気が必要だ。例えそれがどんなに小さな事であってもだ。何時でも決断は出来るが、機会は何時までも待ってはくれない。覚悟を、決めなければならない。

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