第3話 私には分からない。
黒板に書かれた数式を眺めながら、私は欠伸をしていた。数学が大の苦手な私にとって、今のこの時間は退屈以外の何物でもなかった。こういう退屈な時間には、今日の夕飯の献立でも考えるのが一番だと私は知っているので、いつものように和食や洋食や中華のことを考えていた。
そしてふと、先生は今頃何をしているのだろうかという何気ない考え事が頭に浮かんだ。おそらく今頃は昨日話していた事件の現場にでも出向き、笹部刑事に得意顔で自分が気づいたことを語っているのだろうと考えると、なんだか可笑しくなって吹き出しそうになった。
私は口元を抑えて感情の起伏を落ち着かせると、先生が昨日投げかけた疑問を考えてしまった。私に関係ない事件のことを、私はあまり考えない。
だから今回のこの思考は、単なる連鎖的偶然に過ぎず、大した意味はなかった。
実際、何か思い浮かぶということもなく、ばらばらをどうやってトリックに使うのか皆目見当もつかなかった。
そもそも私には人を殺すという行為が理解できない。それは別に正義感からそう思っているわけではなく、私にとって人とは次々に死んでいき、次々に現れるものだから。
代替可能な、殺すほどの思い入れを込められるものではないから。
復讐心を抱くほどの何かを、他人に対して感じたことがない。
裏切られて傷つくほどの好意も、接していて感じてしまう嫌悪感も、私にはぴんとこない。
ましてそれが原因で殺すだなんて、あんな悍ましいものを作ってしまおうだなんて、私には理解できない。
私は意味のない思考に時間を費やして、勉学の時間をどぶに捨てた。授業の終わりを告げるチャイムが私を叱っているように聞こえた。
携帯電話を確認してみるとメールが一件届いていた。私は読む前から嫌な予感がしていたし、先生からだと分かっていた。だからため息を盛大に吐きながらメールを開いた。
『手伝ってほしいことがある。至急下記の住所まで来るように』
まだ二限目だというのに……この人は学校をなんだと思っているのだろう。しかしそれは、授業をどぶに捨てた私に言えることではなかった。
私はお腹を押さえながら立ち上がり、教室を出ようとする教師に声をかけて、早退することを告げた。
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