第2話 ばらばら理由
よく探偵小説では、助手は探偵と一緒に行動して探偵の手助けをする。でも私はあまりそういうことをしない。何気ない言葉でヒントを探偵に与えたり、素っ頓狂な推理を言って場を和ませたりもしない。
特に今回のような私が関係しない事件において、私は置物以下の価値しかない。
なので、私は特に何も考えず――言った。
「よくあるのは、死体を運びやすくするためとか、頭を持ちだして後で死体入れ替えトリックに使うとかですかね」
食事中とは思えない会話をしながら、私は先生の分の野菜を口に入れた。
「それは私も経験あるが、今回は違うだろうな」
先生は口元にデミグラスソースを付けつつ言った。私は自分の頬を指差してそれを知らせた。
「どうしてですか?」
先生はティッシュで口元を拭い、にやりと笑って答えた。
「資料しか見ていないが、犯行現場は変わっていない。そして頭は持ち出されていないどころか、死体は一つしか出ていない」
先生は淡々と私の意見を否定した。そんなことは日常茶飯事だったので、私はなんの躊躇いもなく「そうですか」と呟いた。
「難しそうなんですか?」
私はどれだけ考えてもそれ以上思いつかなかったので、やんわりと話題を変えた。
「いや、事件概要自体は実にシンプルだよ。この資料にはニ人の容疑者について書かれているが、これだけである程度当たりをつけられるしね。しかし――ばらばら殺人となると面倒なんだよ」
面倒、ということは、さっきの笹部刑事に対する非協力的な態度は報酬を吊り上げるための嘘だったわけだ。分かってはいたが、再度先生のあくどさを感じた。
「なぜばらばら殺人だと面倒なんです?」
「簡単に言えば、ばらばらにする理由が容疑者ニ人の誰にもないんだ」
私は食べ終えた食器をシンクに置いて、蛇口から水を出した。そしておもむろに、ばらばらにする理由について考えてみた。
「普通に被害者をとっても恨んでいたからではダメなんですか?」
「だとしたら、生きているうちに拷問する方が楽しいだろうさ。実際、この被害者は生きているうちに歯を全部抜かれたようだから怨恨という点は正しいだろうがね。しかし、拷問した後殺して、その上ばらばらにするというのは犯行に一貫性があるようでない」
「どうしてですか?恨んでいるからばらばらにするっていうのはあり得そうですけど」
私は昨今の暗い報道を頭に過らせながらそう言った。
「その場合は、死んでいるのに感情が収まらなくて何度も刺してしまうとか、そういう感じになる。しかし、人間の体を解体するには道具と根気が必要になる。その時点で感情の起伏は収まり、冷静になっているはずさ」
何度も刺すのは怨恨で、解体は作業。なるほど、と私はスポンジで泡を出しながら思った。
「ニュースでもよくあるだろ?山に捨てるためとか、燃やすためとか、ばらばらにする理由は大抵合理的なものなんだよ」
「つまり今回も何か合理的なばらばらにする理由があるかもしれない、と?」
「というか、十中八九そうだな。殺害は恨み、解体はトリックで間違いないだろう」
先生はまた資料を眺めながらそう言い切った。私はそこまで決めつけてしまっていることを疑問に思ったが、先生のことだからなにか考えがあるのだろう。
つまるところ、今回のテーマは「ばらばらの理由」といったところだろう。
まあ、私には関係ないけれど。
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