第2話 替えの利く体

 学校の始業のベルが鳴る一時間後、私はやっと雨の中から解放され校舎へと入った。


 この学校は私たち製造したての人造人間アンドロイドが、『外の世界』でも正常に作動するかどうか確認するための試験会場だ。


 ここでは思考回路の点検や行動のログを確認といったバグの検査から、激しい運動や細やかな作業といった動作の不備の確認を行っている。これを一か月間行い、満足のいく結果になった者だけ『外の世界』へ行くことができるのだ。


 『外の世界』とは私たちの住んでいる『人造人間特別試験区域』から壁を隔てた外に存在する世界のことだ。私たちは『外の世界』にいるヒトたちときちんと共生できるように、この『人造人間特別試験区域』にて少数のヒトたちと一緒に生活をしている。


 ヒトを傷つけず、ヒトの役に立ち、ともに尊重し合い生活をする。私たちが製造され一番最初に打ち込まれるプログラムだ。単純な作業では勝っている人造人間アンドロイドがヒトの職や地位、権利を完全に奪ってしまわないようにするためのものである。


 教室から帰ると女型の人造人間アンドロイドが体操服から制服へ着替えている。そういえば一限は体育の試験だったな。


 遅れてやって来た私に気づいた安藤時雨あんどうしぐれがたわわに実った胸をさらしながら私のところへ寄ってきた。


「遅れてどうしたの? いろはも来てないみたいだけど」

「いろはが車に衝突されてさ。回収業者に付き添ってたら遅れちゃって」

「大丈夫だった?」

「うん。全部のパーツを拾い集めておいたから、足りないことはないと思う。記憶のバックアップもちゃんととってあったしね」

「そうじゃなくて、車に乗ってたヒトは大丈夫だったの? けがはさせてなかった?」」


 ああ、確かにそうだ。私たちが一番に心配しないといけないのはヒトの安全であって、パーツの交換で修復できる私たちは体の心配などない。だからあの車の運転手も気にせず走り去ったわけで。そうだよな。


「けがはなかったと思うよ」

「それはよかった。いろはも業者が回収しに来たなら、明日にでも学校に来れるね」


 時雨は胸をなでおろし、手に持った制服に腕を通す。私は頭の中で単純な計算を繰り返していた。


 体の替えの利く人造人間アンドロイドと替えの利かないヒトの体。どちらがより命の重みがあるのだろうか。そんな問題はすぐにだって答えが出る。一万回、二万回と何度も計算し直したって、私の電子回路が出す答えに変わりはない。


 では一体どうして、何が引っ掛かっているのだろうか?


 そんなことを考えていると、時雨が私の顔を覗き込む。長い金髪を赤のカチューシャで留めた、金色の瞳の女の子である。胸がでかい。とにかくでかい。


 いろはのことについての思考が四万回目を迎えたとき、すぐに時雨について思考を移した。


「どうして同じ人造人間アンドロイドなのに、こうも体の造りが違うんだ!?」


 私のこの言葉に時雨は微妙に膨らんだ私の胸元を見て、考えるように唇に指をあてた。


 唇でさえも時雨のほうが肌つやがありプルプルしているように見えるのは気のせいだろうか。とりあえず今は歯ぎしりをして精神攻撃を仕掛け、彼女のお肌と美容をけがしてやろうと思った。

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