翡霊刀


 何も、この司祭を探し求めたわけじゃない。

 ただ人の気配を辿り、出会えば殺し、また探す。

 そんな殺戮を繰り返した終着点に、見覚えのある禍々しい司祭がいただけだった。


 そこへ至る道中は、死屍累々。

 感情に任せて力を振るい、何の障害もなく辺りを血に染めた。まだ自分と変わらないくらいのもいたし、泣きながら兵士を解体する女性もいた。


 それらを全部、人の形だったのが信じられないくらいに壊して、ぶちまけて、否定し続けた。


 やがて、あり得ないはずの心音を錯覚する。

 

「ッ、…………うるさいな……」


 また1人の心臓を握りつぶしながら、オレは心音の方へと歩みを進めた。邪魔な連中は軒並み狩り尽くしたのか、知覚領域内に人の気配はない。代わりに、人だったものの放つ血と死の香りが充満し、理性を妖しく溶かす。


 進むうちに大樹の葉は枯れていき、足音に葉の砕ける硬い音が混ざりだす。そして獣じみた嗅覚と、それすら凌駕する超感覚めいたものが、この先にある多くの死と芳醇な香りを探りあてる。


 この頃には、心音は無視できる程度をとっくに超えていた。


「————グ……ぅ……るさ……はあッ、ハぁ……ワれル……!」


 動かないはずの心臓が拍動し、ザラザラジャリジャリしたガラスの血液を循環させる。

 そのヤスリは身体を巡って助走を得て、無様なほど無防備なオレの脳へと殺到した。


 偽りの痛覚が悲鳴をあげる。

 人間性オレが削られる音と、未だ強まる心音。堪らず耳を抑えても、自分のナカから響くソレからは逃れようがなかった。


 いや、そもそも両方の耳を抑えることはできない。オレの右手が人間だったものを掴んで離さないのだ。

 何が気に入ったのか、コイツはトドメも刺されずについてきていた。苦痛に歪んだ顔は、道中に訪れた死が安らかさとは対極に位置するものであったことをうかがわせる。


 意図して持ってきたんじゃないから、当然これをやったのが自分だなんて自覚も芽生えない。

 捨てようかとも思ったが、コイツを見せたときの敵の親玉がどんな反応を示すかと思うと、握力は緩むことがなかった。


 そうして一心拍ごとに増す苦痛に呻きながら、オレはヤツを見つけた。

 木々の枯れ果てた森に空いた穴のような場所で、ヤツを視界に入れた瞬間、全ての元凶があの司祭なんだと一瞬で確信した。


「————見 ツ ケ タ」


 心音が響くたびに揺れる視界。消える雑音。

 口角が吊り上がるのも、まるで意識になかった。

 歓喜にも似た嗜虐心が荒れ狂う。


 すぐ耳元で、飢えた獣の吐息が聞こえる。興奮もそのままに、オレは邪魔な死体にもつを投擲していた。 


 とんでもない速度で嘘みたいな回転を伴ったソレは、人体に当たればどうなるのか。そんな単純な思考すらままならない。

 もう苦しめるとか加減とかの発想すら浮かばない。


 しかし、揺れる視界で当てるのは至難の業で、結果としては投げたモノは大きく狙いを逸れて、赤いペンキで巨木を染めるだけだった。


「ハは————」


 構わない。不愉快なアイツをぐちゃぐちゃにするのに、わざわざ離れてやる必要はないんだ。


 道中奪った腰帯。そこに提げた得物を握る。

 そして全力で駆けた。

 地を蹴るたびに、ガラスの落葉が砕けて散乱する。けたたましい音に司祭が反応するより前に、その身体を青い刀身が捉えていた。


 勢いを止めることなく、全速力と全膂力で振り抜く。


 ————コトは一瞬で終わった。


 声をあげることもなく、千々に飛ぶ肉片。

 理外の加速に人外の力を一身に受けて、人体程度の強度が意味かたちを保てる道理はない。


「——ア」


 冷静になったのは、そんな豆腐の破片が四散するのを見届けてからだった。

 黒く粘ついた灼熱かんじょうも鳴りを顰め、あれだけうるさかった心音も弱まっている。


 身体が急激に冷却されていくのが、秒刻みで理解できた。


「なにしてんだ、オレは……こんな一瞬で……」


 苦しめて殺すと誓ったはずが、訳も分からない衝動に流されて、呆気なく終えてしまった。今さら拷問なんて、笑い話にもならない。こんな破片を集めても意味もない。


 そもそもが司祭だったのかすら判別不能だ。突貫したときは気づかなかったが、辺りは肉と血に彩られている。蠢いていた肉塊らも、司祭を爆散させたときの余波で一帯に散らかっていた。

 鼻腔をくすぐる香りは、この場がどれほどの臭気に侵されているかを容易に推測させた。


 このときになって、ようやく修道女の存在に目がいく。


「っ、アンタは……」


 なぜこんな場所にいるのかは、固く握られた武器から察せられる。不思議に思ったのは、なぜ1人なのかということだ。


「他の人間は? チームで動いてただろ?」


 どこか呆然とした様子の修道女は、オレの問いが自分に向けられているものだと遅れて気づいたらしい。

 ハッとした表情を浮かべると、今度は悲しそうな、悔いるような……そんな苦しげな色を瞳に浮かべながら、その細い指をある方向へと向ける。

 

「————みなさんは……そこに、います」

「…………………………………………」


 視線の先には、銀の球体。

 嫌になるくらいに見覚えがあったが、うんざりするほど納得もした。場違いにも、本来ああして使う魔法だったのかと納得してしまう。捕まった時点で生殺与奪は司祭に委ねられる、凶悪で悪辣な金属球。

 オレのときは檻として用いたが、今回は棺桶として用いられたらしい。


 鮮血に染まる球体は、術者を失ったにも関わらず、未だ貪欲に獲物を咀嚼していた。魔力源が司祭ではないのかもしれない。


「解放してくる。あれじゃ埋葬もできない」

「あ————」


 縋るように持ち上がった修道女の手を一度だけ強く握ってから、オレは死してなお兵士を辱めている球体を、そのに気をつけながらこじ開けた。

 中身は、見て最初に浮かんだのが『破裂』という単語だったような有様だった。


 力だけでなく慎重さが求められる作業は、予想外に時間を奪った。全部を済ませるまでに、体感で30分は費やした気がする。

 作業に集中しながらも、内心では修道女……レティシカが名前だったと思うが、彼女への同情を覚えずにはいられなかった。


 この犠牲者とレティシカの関係は、少なくとも殺された班員とオレとのものよりは長く深いものだったと思う。それが自分以外全滅。場合によっては、目の前で殺された可能性すらある。

 今その胸を握り込み、精神を殴打する衝撃はオレなんかの比じゃないだろう。


 作業の合間に盗み見たレティシカの姿は今までの印象と打って変わって、まるで道に迷った少女のような危うい脆さを感じさせた。

 本来なら一刻もはやくカラキリたちに合流すべきところを、わざわざこんな手間を買って出ている。

 それはやっぱり、同じ痛みを感じたからこその同情と、レティシカの弱々しい姿がそうさせたんだと思う。


 兵士の身体をとりあえず横に並べる。どれも胴体部分はひどい有様なのにも関わらず、顔だけが人相を残していた。

 閉ざされた瞳からは、透明な液状のものが溢れている。本来なら眼球内にあったはずのそれは、涙に代わって無念を訴えているに違いなかった。


 仲間たちが並んだのを見るや、レティシカは一転して芯を取り戻したようにしっかりとした足取りで兵士たちに歩み寄ると、懐から青い粒子の入った小瓶を取り出す。


「みなさんの身体を置いていては、何かの糧として利用されかねません。ここで簡易ではありますが、火葬儀式によって彼らを天蓋園へと送り出します」


 言い終わるより早く、レティシカは淀みのない慣れた手際で準備を進めていく。テキパキと亡骸を囲むように何かの印を地へと刻む。そして聞いたことのない祈りの言葉を紡ぎながら、青い粒子を兵士らの額と心臓へふりかけた。

 青い燐光が流れる。それはいつしか熱を持ち、揺らめいて青い炎となって亡骸を一瞬で消してしまった。

 煙もなく、後に残る灰もない。

 燐光は天への道標となって、余さずみんなを連れて行った。星の様な残光だけが、数秒間瞬いていた。


「……………………」


 その神秘的な光景に釘付けになりながら、なぜだか理由もなく胸が痛む。自分が感じた“羨ましい”という感情。その理由が分からなくて、視線は消えた燐光を求めるように空から動かなかった。


 キッカケが無ければ、そうしていつまでも固まっていたのかもしれない。どこか遠くへ旅立とうとしていた意識が戻ってきたのは、人の倒れる音が聞こえたからだ。


「オイ!」


 糸が切れたように、力なく崩れ落ちたレティシカに駆け寄る。こうして見てみると、修道女の身体は限界を超えていたのがすぐに分かった。


 呼吸は浅く、額には球のような汗。触れてみるとその熱さに驚かされる。手首は腫れ上がり、折れてたり脱臼している指。ここだけでなく、脱がせば全身似たようなことになっているのかもしれない。

 これを耐えて儀式をやり切るなんて、薄ら寒くなるほどの精神力だ。


「良くて重傷、悪くて致命って感じだよな……はやく運ばないと死ぬんじゃないか……⁈」


 今のレティシカは治癒術も医術もさっぱり素人なオレでも冷や汗が止まらない容態だった。弱まりつつあるとはいえ、相変わらず拍動する禍々しい魔法陣が気にはなったが、オレはレティシカを慎重に抱えると、朧げな記憶を頼りにみんなとの合流を目指した。


 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -



 アトラが森を進んでいる一方で、両雄の戦闘は未だ決着せずにいた。


 カラキリの刃は幾たびもゼリアへと肉薄する。だがその度に、不可解な何かに妨げられてしまう。その何かに隙間はないかと、一通り全ての角度から一太刀を浴びせかけて、カラキリはそんな隙間などないのだと認めた。

 ならばと、今度は陽動や牽制を複雑に駆使し、敵の意識の外からの斬撃を試みた。もしも見えない盾を展開するといった能力ならば、これで攻略できると踏んだのだ。


 しかしこの試みも成果はなかった。敵に多少の動揺を与え、攻撃の頻度を減らすことには一役買ったが、その程度。致命の一閃を与えるには、到底足りない。


 だが、歯噛みしていたのはむしろゼリアの側であった。鉄壁の守りによる圧倒的な有利を持つはずのゼリアだが、彼の予定ではすでに決着は付いているはずだったのだ。

 そもそも、ゼリアの任務は司祭と儀式を護ることである。たった1人にこれほどまで時間を割いて良い理由は全くない。

 ならば目の前の剣士など無視して良いかというと、そうもいかないのだ。ゼリアには分かっている。この剣士を止められているのは、自分の能力あってのものだ。

 自分以外にこの剣士を止められる者など、おそらく司祭以外にあり得ない。しかしその司祭は現在敵部隊と交戦中。これほどの戦力を合流させるのは危険だった。


「ちょこまかウザってーな!」


 未だ敵を叩き潰すに至らないのは、カラキリの足運びによるものだ。動きに緩急がありすぎる。急停止と急加速。居ると踏んだ場所におらず、来ると思った剣撃は来ない。動きがまるで読めないのだ。軌道が読めない以上、“装甲”で叩き潰すことはできない。


 ゼリアは敵が自身を無視して司祭を急襲しないことに安堵し、カラキリは敵が自身を無視して班員らを追わないことに安堵する。結果、彼らは押すことも引くことも叶わず、互いの隙を探り合っていた。


「シィィッ!」


 ゼリアの黒剣が受け流され、姿勢を誘導される。そして息を吐く間も無く、ほぼ同時に複数回の衝突。“装甲”が目にも止まらぬ連撃を防いでいた。

 ゼリアがそれを認識した瞬間には、すでにカラキリは正面から姿を消している。立て続けに8ヶ所、まるで違う方向で“装甲”が反応する。

 これまでにないほどの攻勢。ゼリアは敵にまだこれだけの余力があったのかと、驚愕せずにはいられなかった。


 両者の勝敗は決してないが、互角というわけではない。常に動き続け、それでも尚付け入る隙を見出せないカラキリと、敵が疲労して隙を曝すのを待っていれば勝てるゼリア。度々驚かされ、苛立ちを隠さないゼリアではあるが、しかし確実に追い詰められているのはカラキリなのだ。

 それを理解しているからこそ、ある意味でゼリアは安心して胸中を態度に表せたのだろう。


 今の連撃もまた、カラキリなりに考えあってのことだ。目の前の男が見えない盾を展開するのだとして、それがさまざまな角度へ対応するのは理解した。そして意識の外からの斬撃にも対応した。

 その上で、今度はその盾の数に限りはないかと考えたのである。


 ほぼ同時に、意識の内外からの連撃。消耗は激しくとも、カラキリは盾の同時展開できる数は有限であるという仮説に活路を見出したのだが————


「……ふうぅぅぅ……………………これは……鎧か」


 カラキリは冷徹に、自身が賭けに負けたことを認めた。無茶な戦い方を続け、疲労も蓄積していた。そんな状態でさらに激しい攻勢に出れば、今の拮抗状態すら保てなくなることも分かった上で、それでもリスクを受け入れて勝ちを目指した。そして失敗した。


 もう一介の剣士としてのカラキリに、状況を打開する手はない。ここから先は、国太刀としての戦いになる。

 打開策はあった。ただ、それを使う場合、大陸での旅は思い描いたものではなくなってしまうだろう。大きく計画を修正せざるを得なくなる。

 のんびりと1つの町や場所に長居することはできない。しかし逃走という選択肢を持たない時点で答えは決まっている。


「————あ?」


 翠の刀が鞘に収められるのを、ゼリアは呆気に取られて眺めていた。絶え間などなかった攻撃も、否、それどころか動きすら絶えている。

 そこまで認識して、ゼリアは内心で悪態を吐いた。いよいよ敵は自分を無視し、森の深部へ迫るつもりなのだと思い至ったのだ。これまでの戦闘で見た敵の踏み込みの速さから、恐らく1度距離を離されれば、ゼリアは敵に追いつけない。

 ならばと、ゼリアは〈装甲思念〉による圧殺を解禁する。“装甲”による攻撃を凌がれた場合、いよいよ早期決着が絶望的になると予感しながらも、ゼリアにはこの手段以外に敵を止める力がない。


 このときには既に司祭が吸血鬼に斬り飛ばされてから時間が経過しているが、そんなことなどゼリアには知る由もない遠い地の事情だ。


「“謀れ————”」


 カラキリの静かな呟き。

 ゼリアは次の瞬間の敵の行動に驚愕した。敵は逃走するのではなく、正面から踏み込んできたのだ。今までゼリアが欲しながら、遂に訪れなかったはずの好機。これ以上ない位置関係が、ウソのようにアッサリと実現する。

 一瞬でさまざまな戦術が脳内に浮かび、いつくもの候補から、彼は最も確実な手を選択した。

 

 正面からの斬撃を防いだ瞬間に、左右から圧殺。

 ゼリアの横を通り抜けることはできないよう、可能な限り広い“装甲”を創造し、頭上を越えられないよう天井を設ける。これで逃げ場はない。

 強いて言えば敵の後方のみ“装甲”がないが、進行方向の真逆へ瞬間的に移動することは出来ないはずだし、高度な知性を持った生物が自身と“装甲”の間にあった場合、存在が極めて不安定なるという性質が〈装甲思念〉にはある。

 つまり、ゼリア正面と左右、そして天井を設けたこの構えが最善の手だった。


「フッ————!」

 

 ゼリアの迎撃態勢が整った直後、カラキリは刀の距離まで肉薄していた。これまでになかった力み。それは予備動作として、ゼリアに刀身の正確な軌道予測を可能とさせる。

 右脇腹から侵入し、左鎖骨を寸断する致命の軌跡。しかし、それは永遠に訪れることのない閉じた未来だ。


 刀の鞘を握っていた左手が、輪郭を失う速度で突き出され、刀を置き去りに元の位置へと引き戻る。あまりの速さに、人の目にはまるで刀がひとりでに鞘から飛び出して見えるだろう。半ば抜かれた状態で滞空する刀は、微かに翡翠色の光を放っていた。

 コンマに満たない滞空時間は、右手が柄を迎えたことで終わりを告げ、翠の軌跡が目前の敵を切り伏せんとゼリアの予想通りに伸びて————————————



- - - - - - - - - -



「っ、……ぅ……あ?」


 ————勝利を確信していたゼリアは、なぜかうつ伏せに倒れていた。足の辺りには、未だ健在な敵の気配がある。即座に起き上がる。いや、起き上がろうとした。


「ハ……ッか……ぁ」


 力が入らない。全身が完全に虚脱し、どこにも力の起点が見つからない。どこに、何の力を入れれば動けるのか、生きれるのか、まるで分からない。

 息を吸うように使えた〈装甲思念〉も、息を吸うのもままならない今は一片のカケラすら創造できなかった。


(なにが……起きた? 斬られたか?)


 パニックを起こしていいはずの状況ながら、ゼリアはどこまでも冷静に分析を開始する。

 ゼリアの最後の記憶は、“装甲”が敵の刀を防いだときの感覚だ。そう、防いだ。間違いなく防ぎ、敵に一瞬の硬直を強いたはず。そして思考が圧殺へと切り替わる瞬間に、…………奇妙な光景を目にした。


(……とおり抜けやがった)


 ゼリアは数瞬前の光景を鮮明に思い出す。不可視の“装甲”に妨げられた刀。だが、防いだ刀をそのままに、朧げな翠の光が“装甲”を通過した。まるで減速せずに、刀がもし防がれなかったら通ったであろうはずの軌跡を描いて、この身を通過していった。

 そこまで思い出して、ゼリアは確信する。


(あれは刀だ……紫の以外にもういっぽん……さんぼんあったか? ……いや、ちがうな)


 間違いなく敵は1本の刀で攻撃したはず。だが別の刀が通過した。まるで防いだ瞬間に発生した幻影のような、あまりに不可解で理不尽な現象。


(わけ……わかん、ね……)


 答えに行き着くことなく、ゼリアの意識は遠のいて行く。敵の気配はもうない。走り去るその気配が司祭の方向とは外れていたことにだけ安堵して、ゼリアは意識を手放した。


 『翡霊刀』————それが理不尽を成したものの銘である。翡翠から削り出したがごとき美しい宝刀とは、この刀の一側面でしかない。その本質は、実体を持つ宝刀と、非実体の霊刀が同時に重なり合って存在しているという点にある。

 例えどのような鎧、盾、〈障壁〉で身を固めようと、それで防げるのは“宝刀”のみだ。“霊刀”としての翡霊刀は、そのような守りなどないものとして振る舞い、振られたとおりの軌跡を描く。

 防御不能の霊刀と、その依代たる宝刀が1本の刀として安定して存在を両立させている神秘の結晶が、『翡霊刀』という刀の正体だった。


 倒れたゼリアの肉体には、斬られた痕などない。しかしその生命活動は急速に衰え、ただ死を待つだけの生ける屍と化していた。ゼリア自身にこの状態から回復する術も、生命を維持する手段もない以上、あとは死を迎える以外に辿るみらいがない。


 故に、もはや呼吸すら消え入りつつある敵に構わず、カラキリは護衛なしに森の外へと向かっているはずの仲間の元へと急ぐのだった。

 そしてその道中、仲間のいるはずの方向から、森中に響く怪物の慟哭を聞いた。

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