第2話 五将会議

 大和皇国の主都・西宮さいぐう。この地を中心として現在の大和の政治が行われている。

 皇国の政治は東側のように国民の選出した者が国のトップを担うのではなく、皇族の姫"すめらぎ"を頂に仰ぎ、その下に各貴族家の家々や国民の中から選ばれた者達がついているというような形態をとっている。

 そんな政治体系を持つ皇国であるが、政務を行ういくつかの機関、その中でも公に開示されている中で特に独立した権限を持つ集団があった。それが、


――五神将


 皇族家を補佐する貴族家、その中でも"中央"と"四方位"を意味する字を冠する五聖十五家、


「北」の、北山きたやま北条ほうじょう北杜ほくと

「南」の、南澤みなみざわ南城なんじょう南原なんばら

「西」の、西条さいじょう西野にしの西郷さいごう

「東」の、東条とうじょう東雲しののめ東郷とうごう

「中央」の、中村なかむら中臣なかとみ中林なかばやし


 その各方位の家から選ばれる五人の者達を通称"五神将"といい、すめらぎの命の下に彼等が国のまつりごとを取り仕切っている。

 ちなみに、その15家を合わせて31もの貴族家があるが、今は割愛する。



 さて、このような体制については一部の民主主義運動家が異を唱えているのもまた事実である。

 五神将というのは、貴族家の中から輩出される5名から構成される地位のことで、それぞれ麒麟、玄武、白虎、朱雀、青龍の通称で呼ばれる。

 その名の所以は、SSS級の魔物である麒麟、玄武、白虎、朱雀、青龍との盟約によって契約が行われるためだ。


 権力もそれなりにあり、主に表政府の統括を担う他、各貴族家を監視する役割も持つ。

 しかし、その権限の強さ故に貴族家という括りから外れることとなる。さらには、その最大の役割は有事の際の軍事指揮権であり、各々が卓越した武を持つ(それが将と言われる所以でもある)。


 過去に一度、大量発生した魔物をすめらぎの命を受けた彼らの指揮の下、早急に討伐がなされたこともあった。

 その他にも色々とあるが、力の上下関係が密接に関わってくるこの時代、国民には概ね受け入れられているのが現状だ。

 一部騒いでいる運動家の言い分も結局のところ、「権力が個の家に集まってるのはずるくない?」といった話であり、今現状の政治に関してはあまり強気に出ていないのである。


 そして現在、真也と海近がちょうど指導室で反省文を書かされている時刻。




「――これより五将会議を始めます。全員揃いました?」



 暗い部屋の中心に正五角形(正確には星のような形であるが)の机が設置されており、各辺の場所に4人が座っている。

 1人は先ほど会議開始の宣言をした少女。ショートより少し長めで、この暗い部屋の闇に溶け出しているのではないかと思うほどの黒髪が目立っている。

 五将会議とは、緊急時を除く月一で開かれる五神将の会議のことであり、専ら最近は政治状況の把握と東側の動き、魔物対策についてが話し合われている。



「一応全員揃ってはいるのですが…」



 そう答えたのは、黒髪の少女の右正面、赤い椅子に座る神秘的な銀髪を持つ少女である。黒髪の少女とは対立的な髪の色であるが、こちらは感情がものすごく乏しいような表情をしている。



「やれやれ、未だに東の三家からは"青龍"が選ばれないのかよ・・・。」



 黒髪の少女と銀髪の少女の間の、黒い椅子に座った少年がぼやく。



「言っていても仕方ないだろう? 選ぶ権利は我々側にはない。聖獣が一角、"青龍"様が選定なさるのを待つしかないのだから。」



 少年を諌めたのは、黒髪の少女の隣に座る、茶髪の凛とした雰囲気を纏う少女である。



「香織ちゃんの言う通り、こればっかりはなんともしようがないわ。それにほら、まだハーレム状態が続くと思ったら良かったんじゃない? 男の子的に♪」


「おい結美…、俺はそっちに関しては割と"どうでもいい"。それよか政務が滞る方が問題だ。」


「何を~~~!!」



 少年に"結美"と呼ばれた黒髪の少女はぷんぷんと頬を膨らませて少年の言い方に物申していた。



「はぁ…。どうでもいいからさっさと会議始めよう。詩乃、純一もいいな?」


「イェス。」


「あぁ。」



 少年と銀髪の少女は、香織と呼ばれた茶髪の少女にそれぞれ同意した。



「はいはい、わかったよもう…。」



 黒髪の少女がそうつぶやき終えると、その表情は真剣なものとなる。


「では改めて。五将会議を始めます。」


――終始無表情な銀髪少女、"朱雀"・南澤詩乃みなみざわ しの

――4人の中でただ一人の少年、"玄武"・北山純一きたやま じゅんいち

――凛とした侍のような茶髪少女、"白虎"・西条香織さいじょう かおり


そして、

――会議開始前後で丸っきり雰囲気が変わった黒髪少女、

"麒麟"・中村結美なかむら ゆみ


一人"青龍"の欠員はあるものの、これが現在の日本帝国を引っ張る表向きのトップの面々であった。



「ゴホン。では、最初の議題は昨日の魔物の件ね。資料は各パネルに送信するわ。」



そう言うと、結美は机に埋め込まれているタッチ式のパネルを操作して、資料データを他の人のパネルにそれぞれ送る。



「昨日の夕刻、17時35分頃。各指定禁止区域エリアからだいぶ離れた住宅街から1本の通報が警察にありました。通報内容は、通報者がその住宅街を歩いているとき、大型犬のような動物がいたらしく、よく見ると頭が二つあったとのことでした。通報を受けた警察からの連絡を受けて退魔士が数人で駆けつけたところ、通報にあった魔物を発見、すぐさま討伐を行ったとの事です。また、民間人の怪我人や被害報告は無し。現在その住宅街には、七武人1人とその配下達を何人か出して警戒にあたらせています。」



「…魔物は獣種、通称"オルトロス"。ランクはCと、ちょっとやっかいな魔物ですね…。」



 詩乃が自分のパネルに送られてきた資料を見ながらそうつぶやいた。



「そうか? ランクCとはいえ、うちの下っ端でもそこそこ魔物討伐経験があれば一人で討伐できる魔物だぜ?」


「純一、それはあくまで魔物討伐経験があればの話だろう? 問題なのは出現場所が住宅街であることだよ。」


「それの何が問題なんだ?」


「考えてみろ、その住宅街に魔物討伐経験者なんていると思うか?」


「あ~……。」



 純一は、戦闘経験が当たり前だという前提で考えてしまっていたらしく、"ただの"一般人が住む場所で魔物が出現したということを完全に考えていなかった。



「まったく、自分の組織ばっか見てないで、たまには民衆のことも考えなよ…。」


「…はいはい。」


「さて、純一が今度城下町に下りるのはさておき…」


「ちょッ…」



 このとき、さらっと純一の城下見回りが決まったのであった。



「具体的な対策について早急に決める必要があります。一応、今できることは資料にも書いてある通り、例の住宅街にいくつかの部隊と研究チームを駐在させるということしか思い浮かばないのが現状だけれども。」


「う~ん……ちなみに、今のところ発生原因は不明なのか?」


「…はい。皆さんご存知の通り、魔物とは、ある条件化の下で異常魔力が耐性のない生物や機械等に取り込まれることにより発生するのが通説なのですが、今上がっている調査報告ではあの住宅街には異常魔力が検知されなかったそうなのです。」



 過去、様々な研究者達が調査をした結果、魔物は何らかの条件下で魔力耐性のない物または者が異常魔力を取り込んだ結果であるということが通説となっている。実際、異常魔力の研究をしていた研究者の内何人かは異常魔力を取り込んで魔物化し討伐されているのである。



「まぁそうだよなぁ。異常魔力は空気中に留まるから、それが原因なら発見されるのが普通だし、そもそもその異常魔力が留まっている場所なのが禁止区域なわけだし…。」


「この件はイレギュラー要素になりうるということか。」


「そうね…。一応国内に散らばる領主にも連絡は取ったけれども、今のところそんなイレギュラーは起きていない、だそうよ。」



 つまり、このイレギュラーな魔物騒動が今現在確認されているのは皇都内だけなのである。



「はぁ…。これじゃ本当にあの噂が真実味を帯びてきそうね…。」



 溜息をつく結美。あの噂とは、東の共和国が魔物をけしかけて云々のことである。



「イレギュラーケースは今のところ、そう強くない個体ばかりなのが幸いして大きな被害を受けているという報告は無い。だが、イレギュラーにイレギュラーが重なる事もありうると考えて速やかに問題の解決をすることが得策であろう。」



 彼らは五神将、あくまで「将」であるため、魔物を前線で討伐・指揮する者であり、いくら政治的権力があるとはいえ、その生態(?)を調べるということはない。

 このように専門的な話は門外漢のため、あれでもないこれでもないといくら対策案を考えても結局はダメになるのである。



というわけなので、あれこれと話し合うこと1時間。



「…まぁ、とりあえずは警備と研究チームの派遣を早急にということでいいな? 警備の方は、"守護者ガーディアン"から増援を送るか。」


「そうね。あとは禁止区域の方もそろそろ討伐作戦を武家に通達しておく?」


「…その方がよさそうですね。私が聖協会の方から流しておきます。」


「討伐作戦の方は七武人の誰かに任せるとして、うちは帝都周辺地域をメインに行うことにしよう。」



 そんな感じで、今回の最大の案件であった対魔物事件についてはひとまず終了となった。



「次、東側の動きについて。香織、国境警備隊から何か報告は?」


「いや、特に何もないよ。東の三家からの報告では国境線付近で兵士同士の言い合いこそはあるが、言ってるだけの内はタダだしね。」


「はぁ…。これが、内憂外患ってやつね…。」


「フッ。若くしてしわだらけの結美の未来は想像が容易いな。」


「言ってなさいよ。」


「あははは。あ~苦労といえば……結美って来年うちの高校に入学するんだっけ?」



 ふと思い出したように結美に尋ねる香織。



「…えぇ、まぁ。」


「そして更に来年は詩乃が入学と。」


「来年は五神将の内の4人が"中央"に勢ぞろいか……。神田校長も大変そうだな。」



とそのときであった、結美が急に焦ったように何かを思い出した。



「あ!! 忘れてた!! そういえば今日……宮様からの御通達があったんだった…。」


「「この馬鹿モンッ!!」」



 純一と香織はもの凄い剣幕で結美を怒った。宮様というのは、皇(すめらぎ)の別の敬称である。

 皇からの通達は主に結美が取り持っており、五神将を召集して通達を開封・伝達する義務がある。なので結美が忘れていると色々と大変なことになってしまう。



「ご、ごめんってェ~!! 魔物のことで頭いっぱいだったんだよぅ…い、今すぐ読むからぁ…。」



 変なところでおっちょこちょいの結美にあきれ顔の3人であった。



「え、えっと、『大和皇国"すめらぎ"り五神将へ通達、次の勅命を承るべし。』」


「「しかも勅命じゃねぇかよッ!!」」


「ヒィッ!!」



 結美、実は内心超焦っていたりする。



「~~~!! …ぇ、えっと……え?」



 涙目ながらも勅命を読み上げようとした結美はその内容を見て硬直してしまった。怪訝に思った3人もその通達を覗き込むが……



「「「えッ!?」」」



 結美のみならず、それは3人ともにも驚きを隠せない内容であった。


――『一週間後の11月30日にて、各々五神将は世の臣民に其等の存在を示すべき事。』


 つまりは、五神将の素性が史上初めて表立って公開されることとなったのである。

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