第2幕 “狗頭の迷宮”編

第10話 予感

 メルギルドの公都と王都を繋ぐ街道、“ニコの凱旋道”。

 人類史第3紀の黎明期、“真相ニコ”が人々に新天地を提供をする際、自ら先導して数万にも及ぶ家臣や軍団を引き連れて踏み固めた道とされる。

 いまや“王国”の物流を司るこの重要な公道は、煉瓦によって舗装され、等間隔に魔分発光体による灯が設置されていた。

 魔獣や賊による被害から国の重役を安全に護送すべく、定期的に領軍や騎士団、同胞団、冒険者による武装階級に位置する者による間引きや警羅が実施されており、一定区画毎に発生する通行料さえ目を瞑れば、この道は何よりも安全と言えた。


 そう、安全であるはずなのだが――


「畜生共がッ! 何だってこんな時に出やがる!」

「……ティファお嬢様の御前なので、そのような言葉遣いは慎んで貰いたい」


 夕焼けに照らされた街道。

 “凱旋道”のど真ん中、丁度“常夜の森”に程近い地点にて、数台の馬車からなる一行が、十幾数じゅう‐いくすうにもなる狗頭の魔人に囲まれていた。


「アァん!? っせぇ、クソ執事! 腰ィ痛めるから引っ込んでろ!」

「その大事ィ〜な、お嬢様とやらは耳塞いで待たせときゃいいのよおバカさん」

「その間オレらがタマ賭けて犬っころをとっちめちまえばいいんだ」

「そうだよ。ん? ――ッチ、窓空いてらァ、閉めとけよな!」

「俺の計算が正しければ、その馬車には矢避けが付いてる。早いとこ閉めるッス」

「そうだ! おうい、バドの姐御ォ! アンタはこっち来てくれェ!」


 応戦するのは6人の男たち。

 言葉遣いはお粗末なものだが、身に纏う装備は彩色豊かで妙に小綺麗な印象を受けるものの、細かな小傷や歪みが使い込まれているであろう凄みがあった。

 

 コボルド達に囲まれても戦意は失われていない。

 執事のボヤきに口汚い言葉の応酬をするが、仕事はするらしい。

 当然のように武器を携え、コボルド達に一歩も引かず命懸けの戦いを挑むだけあって、その胸に抱く冒険者としての矜持を感じ取れる。口が悪いのは彼らなりの愛嬌なのだろう。

 その『ティファお嬢様』の護衛隊長であるバドは、仕事をしつつもちゃっかり協力を請うしたたかな冒険者に眉をひそめつつ――まぁ自分が出るのも道理だな――という認識のもと、馬車の中で震える護衛対象に話しかけた。


「お嬢様。馬車から出ないように。後はアレらと私が何とかします」

「ひぐっ、バドぉ、一緒にいて、側にいて!」

「え、いやぁ、それは、その、ご遠慮ください」

「――ふええぇん……! バドの意地悪ぅ!」

「……そこのメイド、シートを拭いておくように」


 魔物に囲まれ、失禁する程の恐慌に見舞われたティファのグズりを回避しつつ、愛用のバトルハンマーを手にコボルドに向き直るバド。


 コボルドは単体では特別強力では無いが、徒党を組む事が驚異であり、上下関係による社会性を獲得することでその能力と外見を大きく変える『ヒエラルキー型変態性魔人』に分類される魔物だ。ゴブリンやオークもその仲間、というより大体の亜人がこちらに含まれる。

 今、バドや冒険者達と戦っているそれら全てが、戦闘員としての役職を与えられたある種の精鋭であり、俗に“素コボ”と呼ばれる有象無象とは比べ物にならない戦闘能力を有する。

 それだけの権限を与えられる上位存在が現れたというのは、自領の脅威であろうとバドは考える。


 何にせよ、お嬢様と共にこの情報をいち早く、ティファの父であり自らの主である“シルバーレーム卿”の前に持ち帰る事を優先すべきだろう。

 よって彼女が戦う事は確定事項だった。


「――ハァ!!」


 だから迷いなく振るう。

 柄の先端に付いたアダマンタイトの塊が、コボルドの脳天に襲い掛かる。

 刃が無いにも関わらず、対象の肉体は勢いと重量に圧壊。

 哀れな肉塊は真っ二つも同然となった。


「さっすが姐御ォ! ハーフオーガは伊達じゃないってね!」

「黙って手を動かしなさい」


 冒険者の拍手喝采に随分な態度で応じ、次なる獲物に打ち掛かる。

 “コボルド・ウォーリア・エリート”を始めとする、コボルド種の第三次発展体以上に分類される個体が徒党を組んでいるのは些か異常であるとバドは内心訝しんでいた。


 何にせよ殲滅することに意義はない。

 そして、容赦もしない。一片たりとも。


 1つ、また1つと犬の形をした肉の塊を量産するバドと冒険者。


 彼らは精鋭であった。

 凄腕の戦士を中心とした構成に、経験豊富な射手と魔道士。


 対してコボルドたちは戦士一辺倒。

 白兵という手段しか能を持たなかったコボルドは、人間の戦士との攻防の最中、遠距離から確実に打倒されていった。


 数を組んでも、上位個体であろうとも。

 その人間たちの前には雑魚でしか有れなかった。

 問題なく、当たり前のように雑魚として処理されていた。


 そんな現実を前に、残された一体の大きな狗頭が吼える。


 ――ウォォォォォンン!!


「何だァ?」

「あら隠し玉? させないわっ――シャァオラァ! そこ動くんじゃねェぞ!」

「俺の計算が正しければ、ろくでもない事になる。仕掛けるッス!」


 隊長格であろうコボルドの異変に臆する事なく、冒険者は動いた。


 その場にいた槍使いが即座に武器を放り、コボルドの足を縫い留める。

 射手が素早く弓をつがえ、関節という関節に矢を突き立てる。

 魔法使いが溜めに溜めた雷の魔法が、コボルドの体組織を灼く。

 やがてそれが終わると、控えていた戦士たちがとどめを刺した。


「ったく、手間かけさせやがって。――熱っ!」

「ぷっはぁ、ダッセ」


 槍使いが、コボルドの遺体から槍を引き抜く。

 剣士からヤジが飛んだので、軽く投げて脅す。


「っせぇ! にしてもさっきのアレ、何だったんだろうな」

「うおっ、何だァドジ野郎。ビビってたってぇ訳かい?」

「あーはいはい。そういう事にしてくれ。で、アレなに?」


 冒険者たちが知る限り、あの隊長格は見た事がなかった。

 問題なく倒せたが、死に際の咆哮に何の意味があったのか。

 彼らの議題はそこであった。

 

「何って、単にビビってたんじゃねぇの?」

「気合い入れ直したとか?」

「それで死んだんじゃ意味ないわねぇ」

「ダセーダセー、似たもの同士じゃねぇか!」

「真面目に考えろや馬鹿共が!」


 近接職から小馬鹿にした言い分に腹を立てる槍使い。

 魔法使いが口を挟んだ。


「――まぁ、仲間ァ呼んだんじゃないッスかねぇ。俺の計算が正しければ」

「計算する要素ねぇだろ」

「その仲間、居ねぇけどな!」

「見捨てられてやんの!」

「待って、呼んだところで私たち狙う? 戦力の随時投入よん?」


 冒険者、フリーズ。

 復帰して、後ろを振り返り叫ぶ。


『――姐御ォ!!』

「お嬢様!!」


 幾らか下がって静観していたバドが、跳躍するように馬車に突撃する。

 影に溶け込むような毛並みの狗頭が、ティファを抱えて森に入ろうとしていた。

 その存在に、たった今気が付いた。


 風を切り裂くように疾駆したバドは、ある程度近付いた辺りで合点がいく。


「――無音結界かっ!」


 戦士系かと思われたコボルドの一団に、斥候系もいたらしい。しかも魔法持ち。

 非常にまずい事になった、“常夜の森”に入られれば探索は困難になる。

 ここはそういう森だ。人払いの結界がある。

 侵入するには領主から借り受けた『鈴』が必要だ。

 そんなモノは、無かった。


 ハーフオーガといえども、結界の対象内となる。

 シルバーレーム卿の家臣といえども、対象内。

 守り手たる、スノーエルフと魔女でもなければ。


 ほんの一瞬、見失えば、それは永遠に。


 ティファを連れて帰れない。

 バドの心に永遠の夜が訪れる。

 ここいらで伝わるお伽噺のように。


「――くっ、ゥゥ……!!」


 娘のように愛したお嬢様を失う恐怖を懸命に振り払い、全力で追い縋るバド。

 8歳の子供1人抱えているのに、“黒狗”の足取りは軽やかだ。“常夜の森”の影響を受けていない。

 対してバドは体の震えが止まらない。心臓を鷲掴みにされたような不安でマトモに身体が言う事を聞いていない。まるで呪いのようだ。


 それでも何とか追跡を続け、やや広まった場所に差し掛かったあたり。


 ――唐突に雷鳴。“黒狗”が崩れ落ちた。


「なっ?!」


 唖然とするバド。

 ティファは気絶しているようで、人形のように放り出される。


「危ないっ!」


 必死で手を伸ばそうにも届きそうにない。

 ティファの着地点。唐突に地面が凹み、蔦の網が出現する。

 それは飛んできたティファをすっぽりと収め、受け止めた。

 さながら天然のハンモックのようだ。


 一瞬だけ呆然とするバドであったが、すぐさま復帰。

 急いでティファを抱え込んで、容態を確かめる。


「生きてる……」


 無事。息をしているし、顔色も悪くない。

 何だったら腕の中で寝心地を確かめるように身をよじらせるくらいだ。

 ティファは無事だった。そうあってくれた。それでいい。


「それにしても一体誰が……」

 

 少なくともあの騒がしい冒険者ではない。

 執事とメイドは論外だ。彼らが非戦闘員である事はバドがよくわかっている。

 かといって通りすがりの他の冒険者や領兵は更にない。


 となると答えはわかったようなモノだ。

 “常夜の森”のエルフと魔女。

 この恐ろしい森に、当たり前のように存在し続ける彼ら。

 そう、彼らに違いない。


 そう思ってバドは捜索を開始する。


 目視では見つからなかった。

 聴覚を駆使したが、不明。移動していない?

 《魔力感知》でも見つからなかった。魔法を使っていないらしい。

 《気力感知》を使用。ある一定の武人でもないらしい。

 《敵性感知》、“黒狗”が持つ残りカスのみ。


 バドは隠し玉となるスキルを使った。


「……《キルゾーン感知》、《射線感知》、いた」


 その刹那、バドの視界全てを薄い赤で染める。

 どうやら飛び道具を扱うらしい、かの者は、じっとバド達を見つめていた。


 姿形は良くわからない。

 射線の長さから、100メートルもない場所にいるのであろう。

 でもハッキリとその距離感を掴めない。

 彼の体格、性別、種族。全てが曖昧だ。


 だが、かの者がバド達に武器を向けていることはわかった。

 常識外れの射程・射角・威力を持つそれを向けていた。

 この森の中、問題なく彼女達を殺しきれる何かを。


 もし、それが放たれたら、回避は望めない。


「こ、こちらに敵意はないっ! 武器をおろしてくれ!」


 空いた片手を上げて、交戦の意がないことを示す。

 かの者はそれでも武器を降ろさない。

 片手で何やら応答をしているようだが、言葉を発しない。


 バドは困惑した。


 何なんだ。

 敵意はない?

 では何でこちらに武器を向けている?


 かの者は何かを覗くように、静かに首を下げた。

 その刹那、赤くに染まった殺界キルゾーンが収束。

 ある一点を暴力的なまでに真紅に染める。

 その中心を青い射線を通り、ほんの少し紫色に変化させていた。


「まさかっ!」


 バドがやや斜め後ろを振り返ると、そこには2体目の“黒狗”。

 一振りの山刀を横なぎにこちらへ振るおうとしていた。


 どうやらつくづくバドの索敵を潜り抜ける連中らしい。 

 回避は間に合いそうになかった。


 ――そして“黒狗”がまたもや崩れ落ちる。


 雷鳴と、びっ、という音と共にコボルドの頭に貫通した何かは、その内容物を引きずり出しながら地面へと落ちる。


 一瞬で終わった。

 あまりに綺麗で、無慈悲にすら感じられる死に様だった。


 かの者は構えを解く。

 そして世界が広がるように、その赤かった霧が晴れる。

 もう彼の“殺し”は終わったらしい。


 バドは呆けて、その飛翔していた何かの残骸を見やる。

 ひしゃげた金属塊だ。銅? こんなモノを飛ばしたのだろうか。

 しかもコボルドを一撃で仕留められるらしい威力で。

 信じられなかった。信じられなかったけど、有難かった。


「……ありがとう、本当にありがとう」


 バドは涙しながらも感謝を口にする。

 自分と、この娘を守ってくれた『死の使い』に感謝する。

 そして生きている事を確かめるようにティファを抱きしめる。

 涙が止まらない。


 もう一度、かの者の姿を見ようとするも、居なかった。

 ほんの少し目を離しただけなのに。

 跡形も無く消えてなくなっていたのだ。

 これもまた、お伽噺のように。


 ここは“常夜の森”。

 従者バドは、ティファを連れて外へ出た。

 街道へと戻り馬車に乗る。

 もうすっかり日も暮れていたが、心配はいらない。

 やがて朝は訪れる。


 バドの手に握られた2つの銅片が、それを保証してくれたのだった。



 ◆


 初めて銃猟に挑戦し、成功させたその日から更に2年。俺は6歳になった。

 銃さえ持てば中型獣程度であれば殺傷できるとはいえ、“常夜の森”は子供の足にはつらいものがある。

 万全を期して、正式に1人での外出許可が得られたのが5歳の中頃。この頃から“肉体強化”と“跳躍”の魔法を駆使して、日常的に森を歩く事が出来るようになる。移動術の訓練がてら、そうやって過ごしていた。

 M700ライフルも順調にカスタマイズしていき、念願の『フルーテッド・エクステンド・パワーバレル』をゲット。通常のパワーバレルより単発あたりの基礎集弾性が微妙に落ちるが、熱放射に優れた形状で連続射撃時の弾道のバラつきを抑える特性を持つ。

 掃除が大変そうだし、精度下がってる時点でスナイパーライフルとしては何だかアレだが、基本撃ちまくるゲーム内では使えるんだ、コレ。なので使い慣れてるこのパーツを選択させてもらった。

 せっかくのフルート付き銃身だが、前より少し長いので重さはほぼ変わらない。

 命中精度を上げるにはもっと強い弾丸を撃てばいい。初速と弾頭重量は重要さ。

 うーん、もっと現実的な効果を、撃って撃って確かめたいな。

 狩りに出かける際はキースの許可が必要なんだけど。


 まぁいいや。目的地ついたし。


「錆色の蟹さんありがとうっ!」

「ぎぎぎ……」 


 手のひらサイズの鉄鉱石を放り投げ、ステンクラブへ帰還を促す。

 俺は今、我が家から半刻程の時間をかけて“常夜の森”に住むスノーエルフの里を訪れていたのだった。

 凄い朝っぱらから。寝るのも遅かったし、おかげで少し眠むな気分だ。

 お勤め後は昼寝でもして帰ろう。


「おっ、キースさん所の倅じゃないか。何だいその格好?」

「こんにちはブッチさん。これは雪中迷彩外套スノー・カム・パーカ

 姿を隠すと、本当に目くらましする事ができる特殊な衣服の一種ですよ」


 『スカベンジア』では“カムフラージュ特性”というステータスが存在し、衣服に割り当てられたカラーとデザインによって、ある一定の地形情報に溶け込めるようサポートされている。この特性がうまいこと合致すると、隠密行動に分類される行動を取った際、システム的に相手プレイヤーの焦点フォーカス優先度が制御され、容易に敵に見つかりにくくなるって寸法だ。

 因みに上げすぎるとブラックホールよろしく歪な空間異常のような謎現象が起き、余計に存在感が上がってRPGやグレネードで吹き飛ばされる。運用方法はミノなんとか粒子がなんとやらだ。わざわざコレで遊ぶ馬鹿野郎もいたな。マック元気にしてるかな。いきなり蒸発したけど

 どうやら異世界でも『スカベンジア』の“カムフラージュ特性”は通用するようで、俺は濃霧地帯でも汎用的に高い効果を発揮する便利な衣服として、この雪中迷彩外套スノー・カム・パーカを愛用していた。フードは付いているが、“parkerパーカー”ではなく“parkaパーカ”だ。語源を同じくするのだろうか。


「へぇ、凄い。珍しい魔法道具貰ったねぇ。でもだからといって1人は危ないぞ。

 なんだって近くに迷宮が現れたんだ。そのせいでみんな大忙しさ」


 叱られちゃいました。

 ええ、危ないようですね。何かヒトにバレたし。

 気象・距離・投影面積から推定するに焦点優先度が極低になるそれを。

 下手なギリースーツに勝るってのに看破された。異世界半端ない。

 殺気でも読んでるのか? アイエエ、NINJA?!

 まぁ、そりゃねぇな。思い切り後ろ取られてたし。『スカベンジア』と異世界が競合して変なバグでも起きたのだろう。詫び銃マダー?


 それにしても迷宮、か。身に覚えがあるな。


「ごめんなさい。にしても迷宮。穏やかじゃないですね。何が出るんですか?」

「コボルドだよ。俺らにとっちゃ弱いけど、子供たちにゃ、ちと危ないからね。

 当面の間、里の外で遊ぶのを禁止してる。君も気をつけた方がいい」


 やっぱりな。


「奇遇ですね。僕もそのコボルドの件でここに来たんですよ」

「そっちにも出たのか。うーわ、範囲広いなぁ」


 酷くうんざりした様子のブッチさん。

 魔物の被害を対応するのは彼らスノーエルフの戦士たちの仕事だ。

 いつも、お疲れ様です。


「あ〜、コボルドが出たのは森の外ギリギリ、“凱旋道”の近くですね。

 昨日の夕方、通りがかりで遭遇しちゃったので、こちらで対応しました。

 勝手に交戦したので、父さまに一言断ろうかと」


 そして昨日今日でここに来た。

 キースは戦士団の幹部で家を空けていた為、こちらから出向いたのだ。

 迷宮が出来たから昨日、帰ってこなかったんだな。

 魔物の被害は『ほうれんそう』大事っ。報告だ。

 上官の許可もなしに撃ったけど。軍隊では怒られるやつだね。


「森の外まで出たのか! 面倒くさぁ!?

 叱るべきか感謝すべきか、うーん、まぁとにかく協力ありがとう!

 そしてキースさんは首長館だよ。たっぷり怒られてきなさい」

「ブッチさん薄情です。もう湿布譲ってあげませんっ! もういきます!」

「たははっ、そりゃないだろう! またな!」


 ブッチさんと別れ、首長館へと向かう。

 普段は異民族など殆ど居ない領主館前だったが、どうやら今日は随分と騒がしい。

 スノーエルフだけではなく、何やら赤毛の男たちが大げさな身ぶりで何かを訴えているように見えた。

 俺は何事かと思いながら、遠巻きに近付く。

 そして、彼らの種族を看破した。 


「レッドキャップ?」


 ロールプレイングではお馴染みのレッドキャップ。

 残忍で快楽殺人を好む野蛮なゴブリンの上位種として扱われがちな彼らだが、この世界に限っては、ヒトに近い文明社会を持つため、人並みに無害とも言っていい。寧ろゴブリン達を率先して束ねて無害化してくれる為に有益に程近い種族だ。勿論、それなりに強力な上に群れるので戦争沙汰になれば人並み以上に脅威だが。


 レッドキャップ達は何やらスノーエルフの戦士と揉めているようだ。

 彼らはただただ、懇願していた。


「――巫女様がコボ共に連れてかれたんだ! なぁ頼む。助けてくれよ!」

「わかったわかったよ。落ち着いてくれマック殿」

「ハッ! 落ち着いていられるかよ!! アナグラん中だぞ!?」


 お貴族様(推定)の次は、レッドキャップのお巫女様と来ましたか。


 閉所での戦いは任せろ。地下鉄メテロで慣れてる。

 凸砂とつスナの本領発揮しちゃう? しちゃいますか?!

 俺は巫女そっちのけで、ダンジョンアタックの予感に心を踊らせていた。

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