第8話 M700、召喚の儀

 マヨネーズの一件から暫くして、4歳に。

 その間、エリーによる錬金術レッスンは恙無く進んだ。

 俺の錬成の腕前は難易度中の下程度の代物なら問題なく行える程度であったが、如何せん体格がまだ出来上がっていない為、釜を操る為の腕力・持久力が不足している。よって店売りで実用できるほど大量のポーションが生み出せず、引き続き座学に徹している。


 とはいえ、体力がないからといって実技を捨てている訳ではない。

 俺自身気になっている事もある。

 初錬成の時に見た、あるMOD機能。


 錬金術の拡張機能とは、本人の資質によって稀に得る事が可能。

 その成果物は極めて珍しく貴重なものらしい。


 それを聞いて俺は納得した。

 そりゃそうだ、こんなものがあってたまるかと思う。

 俺の視界に躍り出た文字列は、こう綴られていたのだから。


《スカベンジア/ディーラーシステム》


 それは俺が愛したゲーム、その最大となるセールスポイント。

 世界中のシューターを虜にした無数の銃器生産・自由な改造機能。


 メニュー画面は開けない。〈収納〉は使えない。

 だけども俺は、錬金術経由でなら、異世界でも銃を持ち込めるらしい。

 

 はたしてこの世界における、この特異な錬金釜を最初に考案したのは何者なのだろうか。

 寧ろ疑問に思うべきはこの世界か?

 レベル、ジョブ、スキルは一通り揃っていてゲームのようだ。

 いやまぁ、どんなVR機器でも生理現象まで忠実に再現できるものはないから、既存のVRシステムを利用したデスゲームって線は薄い。ライトノベルや小説投稿サイトにありがちな、異世界のいかにもな世界観であると認識した方が良さそうだ。


 この世界では日々ヒトと魔物の戦いが繰り広げられており、戦士や魔法使いといった戦闘職がまかり通っている。

 RPGのフィールドマップの如く、村や町の外に出れば日常的に魔物や賊に襲われたりする世界だ。

 戦いの手段をできるだけ確保するのは悪い選択ではないはずだ。


 ちなみに俺は現時点で若干3歳で『村一番の力持ち(ヒト族)』よりは強い。

 エリーと本気でじゃれあえる程度だからな。


 世紀末で頑張ってた時期があるので、邪魔するやつは指先一つでダウンできる。

 その上、火器を手にすることができるのなら、俺は中折式ショットガンと火炎放射器を両手に汚物を消毒できるわけだ。金貯めればバイクも買えるしな! 撃てない・持てない・手足届かないの問題は抜きにして。


 アレ? 何か弱くなってない?


 まぁなんにせよ俺は、何としてもこのシステムを使ってみたかったのだ。



 ◇



 エリーとコリンが外出し、錬金釜が完全にフリーになったところで俺は動き出す。


 既に錬金釜のMOD機能について尋ねてしまった手前、俺がMOD使いである事はとうにバレている。なので別に見られても問題なかったりするのだが、なにぶん扱うのは生き物の殺傷に特化した飛び道具――銃である。

 現実世界の実銃ならまだ安全性はあったかもしれないが、俺が創り出すのは恐らく『スカベンジア』クオリティの銃。もしアレがそのままで出てこられると暴発の恐れがある為、家族へのお披露目は見送らせてもらった。


 母の研究室にて、いつものように鎮座する錬金釜にそっと魔力を込め、しばらくぶりにメニュー画面を起動する。


「はいはい、ようこそっと」


 錬金釜とはいうものの、投影されるソレは実に馴染み深い現代的なGUI。起動から間髪入れずに、またしても存在をアピールする《スカベンジア/ディーラーシステム》を有効化アクティベート


 初期状態からロードと展開処理のイライラタイムを数秒で終えたらしい廃スペックな錬金釜から、ディーラーシステムでお馴染みの銃器選択画面が視界いっぱいに映し出される。

 懐かしい気持ちが、こみ上げる。


「おおっ、すげぇ。……殆どロックされてるけど」


 現在使用できる火器は三種類。

 ハンドガンとライフル、ショットガンそれぞれ1丁づつ。

 その品目から察するに、シーズン特典も無しのまっさらな初期状態だろう。

 少なくとも、一身上の都合で取り逃がしたユニーク以外殆どをアンロックし、自分のカスタムブランドを立ち上げて武器商人プレイしていた俺の廃人データではない。

 流石に世界を跨いでアカウント同期はしてくれないんですね。


「まぁいいや。取り敢えず使えるのはガバメント、M700、M870か。

 それ以上はアンロックに――幾らだ? あ、こっちの金貨でもいいんですね。錬金釜に直接投入すると。ハハッ、イカれてんな。はい。大きくなったら稼ぎます」


 まさかの現地通貨による決済に対応。クレジットカードやコンビニ要らずだ。そんな無駄な神対応するところが『スカベンジア』クオリティといえばそうなのだが、そんな事なら元のデータ使わせてと切実過ぎる涙を禁じ得ない。“9x19mm Parabellum”弾なら100K単位であるのになぁ。


「まぁ当面はこれで頑張る訳だが――うん、十分過ぎるな。コルトとレミントン。良いじゃない、実に有名どころなメーカー製で撃てるやつだよ」


 哀し過ぎる評価基準である。

 初期の箱出しガバメント? これ何気に新品の純正品だぜ。

 最高じゃないか、快調に撃てるし。

 ジャムった? スライド吹っ飛ばない? 今日はツイてる! 幸福で完璧だ!


 そんな調子で、拾った銃て戦う危険性をその身をもって体験させてくれる優しい世界だ。拾ってバラして売って『買いましょう』。本ゲームのお約束である。

 因みに近未来枠のレーザー銃はそこそこ強いが、うっかり過充電すると爆発する恐れがある。ログアウト中にアジトが焼け野原にされるのだ。そのせいで数百メガクレジット分の商品とコレクションが“おじゃん”になった哀しい男は、『リチウムイオンバッテリー使ってんじゃねぇよクソが!』と叫んだそうな。


 それはさておき。


「ガバメントはピストルだけど45口径、俺の体格にゃ無理だな。M870ショットガンも駄目だなぁ、弱装ショットシェルでもよろめく自信がある。となると、M700――22口径モデルを選択すれば子供でも撃てるかな」


 22口径は安価で低威力がウリの、小型獣を狩猟する為の実包として愛される。ミリタリー界隈で馴染みやすく言えば“5.56×45mm NATO”弾クラスの弾丸であり当然ヒトであれば普通に殺傷できるのだが、撃ち損じて人を怒らせる事で有名な“.22 Short”のせいで22口径そのものが不遇な扱いを受ける場合もある。

 『アサルトライフルでもクマを殺せない』という逸話は恐らくこの22口径弾薬の存在があるからであり、そもそも大型獣を相手にする弾薬は30口径クラス以上とされる。軍用実包で30口径の代表格というと、やはり“7.62×51mm NATO”弾か。少なくとも北米圏の森林に住む野生動物をこのクラスだけでギリギリで倒しきれる。


 つまり何が言いたいかというと、“7.62×51mm NATO”弾を使用するHK417やSCAR‐H、M14などを持ち出せばヒグマだって殺れる……かもしれない。軍用銃は基本的にFMJフルメタル・ジャケットしか撃てないからね。綺麗に体組織を貫通して、大したダメージを与えられないまま逃げられるかもしれないけど。


 そして、話を戻そう。

 22口径のライフル弾はヒト殺れる程度には強いのでM700(“.223 Remington”モデル)を採用します。


 4歳児が長モノなんて扱えない。もっと低威力なピストルを選択すべきなのではないかと指摘されそうだが、今使えるピストルは“.45ACP”を採用するコルト・ガバメント。

 45口径の拳銃弾は強い。22口径ライフル弾では手も足も出ないクマを相手に、こいつ片手に勝利を収めたという記録まである。それくらい近距離の拳銃弾は威力がありバカにならない。デザートイーグルの50口径までいくと“7.62×51mm NATO”クラスのパワーを近距離限定で叩き出すグリズリーキラーに化けるのだ。そんな頭のおかしい大口径オートの世界、俺だって実際に体感したい。

 そんなのだから、なにぶんコレは反動がキツい。しっかりとインストラクターの指導を受ければ女性でも撃てないことはないが、あまりに非力だったり経験の浅い射手が発砲すると手と額を痛める恐れだってある。

 “.45ACP”は連続射撃が過ぎると普通に手が痺れる――つまり末端の毛細血管にダメージが入る程の衝撃があるくらいなのだ。


 そもそも4歳児という身体でピストルを保持できるかわからない訳だし、それなら両手胴体を使ってしっかりと保持できるショルダーアームが最適だろう。

 いざという時は肉体強化を使えばいい。


 いやまぁ、今の俺が銃扱ってる時点で十分アレだが、米国にて提供されている子供向けライフル『私の初めてのライフル』で有名なクリケットや他製品でも“.22 Long Rifle”が採用されている。同じ22口径でもモノが違うが、全く無知な子供でもショルダーアームの形態を取ればコレらが撃てる。

 “5.56×45mm NATO”弾のアサルトライフルは十分反動あるって? あれは22口径でも強い部類だし、立射でフルオート射撃するからでしょう。秒間10発ぐらいのレートで撃てば、そりゃ銃口上がりますよ。

 だから委託か伏射プローンで単発だけ、これなら安心。


 そんなわけで、ちょっと背伸びして撃ってみても問題はなかろう。


「とにかく、レミントン・アームズ・M700! キミに決めた!」


 ポンポンポーンと景気良くボタンをタップし、M700召喚の義に移る。

 これが『スカベンジア』なら、システムアンロック済みの銃は1丁無料でガシャンとガンラックに放り込まれ、幾らロストしても、ゲーム内クレジットの消費で手軽に買い直す事ができる。序盤でロストしちゃったら、このアンロック済みの銃を頼りに、自らの亡骸から遺品回収に出向く羽目になるのだ。あれはキツいものがあった。


 まぁなんだ、M700と他二丁の銃が無料で支給されるはずである。

 恐らくお鍋の中からドワっと。うん、大丈夫かコレ? インチキじゃないよな。


 そんな心配をよそに、錬金溶媒はさも当然のように輝いた。

 どうやら本当に錬金釜で火器を創り出す事ができるらしい。

 あっはっは! ナニコレ、3Dプリンタなんて目じゃないぜ。


「まさか本当に――レミントン・アームズ社様、謹んでお詫び申し上げます」


 思わず各方に謝罪しながら、尚も錬金釜に棒を突き立てかき混ぜる。

 常日頃から眺めているエリーの錬成風景とは違う、異質な魔分発光に目を細めながら、それでも気分の高揚を抑えきれない面持ちで手を動かす。

 やがてその発光も落ち着きを取り戻し、釜の中でコトンという音を立てて錬成は恙無く終了した。


 透明感のある錬金溶媒の中に沈んだ、一抱えするような大きな箱。

 そう、箱。錬金術のお約束。

 さぁ、みなさんご一緒に――


「――箱ごときちゃったぁぁーーっ!!」


 そこにあったのは、WEBに掲載される画像で見た事のあるような化粧箱。

 レミントン・アームズ社の純正品である事を示す、アメリカンテイスト溢れるM700のパッケージが錬金釜の中で威風堂々と鎮座していた。


 本来、『スカベンジア』のディーラーシステムから銃を購入したところで化粧箱など付いて来ない。先程も述べたが、裸の状態でガンラックに放り込まれるだけだ。

 そこに錬金術の『容器ごと出てくる』仕様が出しゃばってこの有り様だ。

 突っ込みどころ満載だなぁ、オイ!


 尚、化粧箱は厚紙製と見受けられるが、錬金溶媒によってふやけた様子はない。

 アレは兎に角、錬金成果物に干渉しないらしい。仕事人だな。


 いつまでもこうしてはいられないので、釜を倒さないようにズリズリとM700を取り出す作業に移る。水かさから若干はみ出ててるから火傷しないで済んだが、なにぶん、体格が足りないので苦労させられた。

 こうしてやっとの事で取り出したM700、続きましては開封の義だ。


「VR空間で実際に手に持つだけでも興奮したのに、箱から出すとなるとテンション爆上がりですね。クリスマス・プレゼントを開けるような、童心に返る気分です」


 異世界の神め、ニクい演出をしやがる。


「わっ、パンフに説明書! こんなものまで付いてるのか! 後で読もっ!

 小分けパックに発泡スチロール――錬金術ってば何でもアリですね。

 そして会いたかったよM700ッ! 何だこれ、マット加工?

 ディティールが凄い! プレ○テ7かよっ!」


 目の前に現れた本物のM700を、俺が亡くなった西暦二〇二三年では未だメーカーから音沙汰なしな某家庭用ゲーム機の次世代型に例えて称賛する。

 尚、『発泡スチロール』も『プレ○テ』も問題なく現地語に翻訳可能だ。何故だ。


「んっ、重っ。箱出しでも十分重い? 3キロちょい? そんなモンかなぁ。

 マウントはあるけど、初期スコープは無いみたいだね。何倍にしよう」


 俺が召喚したのは、どうやらプラスティックストック採用の近代型のようだ。

 個人的な趣味としてはスナイパーライフルは木製ストックの方が好ましいのだが、体格がしっかりするまでは軽い方が持ち運びに楽だろう。ディーラーシステムを利用すれば、買い直すまでもなく問題なくカスタム変更が可能だ。お金いるけど。


 カスタム……。


「スコープ、スコープ。エルフ補正でアイアンでもいいけど、スコープ欲しいなぁ。

 カスタム画面から買って装着する訳だけど、錬金釜から作るのかな」


 開きっぱなしのディーラーシステムから、M700のカスタム画面を眺める。


 『スカベンジア』における銃のカスタマイズは、従来のFPSゲームや他VRシューティングゲームに広く採用されているようなスロット制ではなく、銃本来の機械的拡張性・金銭的余裕・自らの肉体STR値が許す限り幾らでも装着できる。

 ゲーム的に説明するとややこしいが、つまるところ簡単に要約すれば、サバゲーのエアソフトガンのようなカスタマイズが楽しめるわけだ。金にモノを言わせて調子に乗って付けまくると戦闘中に息切れして『誰だよこんなゴテゴテにカスタムしたバカはっ!!』と自らの行いを棚に上げて逆ギレする羽目になるところも実にそっくり。

 重さというパラメータが、ゲームシステムを成り立たせているのだ。


「今、初期の1500クレジット《USドル相当》あるわけだから――んはは、少ねぇなぁ(笑)――まぁ中遠距離程度のスコープなら余裕で買えるね。

 あとは当然、弾もっ――何だっけ?」


 まさかの対応する弾薬をど忘れ。

 同製品でもバリエーションが多い『スカベンジア』あるあるである。

 当然、互換性のある弾薬を買わないと使用できない。たまにやらかして悶絶する。民生品の狩猟用弾はもちろん、NATO弾とロシアンショート弾とかな!


「223レミントン! バーンズ弾頭! 5箱購入こーにゅ

 スコープは4倍ありゃ足りるよね。223用のBDCが付いたコレで!

 あと余ったお金でバイポッドとスリング!

 残高、50クレジット! う〜ん、惜しいッ!」


 銃の追加購入する気が無いことをいい事に、何故かぴったり使い切ることを目指す俺。本当は精度と耐久性を確保する為の『エクステンド・パワーバレル』も買いたかったが、今回は見送ろう。

 弾に、スコープにバイポッド、スリング。初期投資としてはこれが妥当か。


 鼻歌交じりにタップ、タップ、タップ……。

 カート・タブ買い物カゴにぶち込まれた、それらをポーンッと精算する。

 次の瞬間、錬金釜が光り輝いた。


「やっぱ混ぜるんですね……」


 何処までいってもブレないこの世界の錬金術。

 釜の中での組み立てろとか言われないだけマシだけどね!


 こうして出来上がった弾薬、マガジンのパッケージ。

 うず高く積み上がった箱を前に俺は一言。


「あれ? スコープとバイポッドは?」


 あとスリング。コイツはまぁ別にいいんだが……。

 出し忘れかと思い、釜の中を注意深く覗いても何もない。

 購入漏れを疑い、履歴を見ても処理は正常に行われている。

 まさか飲まれた? 古い自販機じゃあるまいし!


 購入履歴から飛んだスコープの詳細ポップアップから『装着』ボタンを押す事も試したが、グレーに暗転していて押すことすら叶わなかった。むむむ。


「無いのはシステム的に装着するタイプのやつだね。

 これは一度アジトのガンテーブルに置くか、ロケーション出た時ならストレージに放り込んで、ウィンドウから装着するからこの場合――」


 『スカベンジア』の基本的なゲームシステムを振り返りながら作業場をグルグルと徘徊していた俺だったが、ふと足を止めて例のアレに注目する。

 俺はそのストレージに相当する力はない。〈収納〉は使えない。

 この世界、俺の能力から鑑みた、俺だけのガンテーブルは……。


「――やっぱり、釜?」


 やっぱこうなる。

 ブチ込むの? スナイパーライフルをお鍋で煮るの? グツグツぅ〜、って?

 嘘だろ? どこの世界にそんなアホな事やる奴が居るんだよッ!

 似たような事やったバカがここにいるよ!!

 てか錬金釜でコレ出したの俺だよコンチクショウ!!


「ええいままよ! 投入っ!」


 脳内セルフツッコミをしながら変な踊りをする俺であったが、このままだと埒が明かないので思い切って放り込んでみた。

 あぁ、購入したばかりのおニューなM700が錬金溶媒に沈んてゆく……。

 え? 何? アイルビーバック? 泣かせるじゃないのさ。うぅ……。


 いつまでも感傷に浸ってもいられないので、素早くMODを立ち上げてM700カスタム画面に移る。

 やはりアタッチメントの類は釜から装着するようだ。

 先程、暗転していた『装着』ボタンが復活している。


「スコープセット、バイポッドセット。……スリングもセット! 保存!」


 アタッチメントの装着を終えた俺は、そのカスタム内容を保存。

 ガンテーブルによるカスタムは、この保存を行う事でカスタムした通りの外見でアジトに飾られる。更にロケーションに駆り出す際、『マイセット』機能によって素早く装備を切り替える事が出来るのだ。

 保存しなくても良さそうだったが、この世界におけるアジトとロケーションの境目なんてわからないし、処理をすり抜けて二度手間になるのが怖いので一応やっておいた。


 今日で何度目になるかのかき混ぜを行い、程なくして装着完了。

 釜を覗くと、問題なくアタッチメントは取り付けられている。

 M700が裸の状態で出てきた為、取り出すのに苦労したがトングでスリングを引っ掛けて取り出した。

 水に浸かったスコープが心配だが、俺は今まで実績を示した錬金溶媒を信じる。


「やっと、完成した……っ!」


 俺の手には黒々としたスナイパーライフル。

 レミントン・アームズ社製『M700』ライフルだ。

 プラスティック製のストックにより雨風に対する耐性もあり、軽い。日照に弱い欠点もあるが、ここは“常夜の森”だから気にしなくてオーケーだ。寧ろ錆が怖いが、日々のお手入れでカバーしよう。

 使用弾薬は“.223 Remington”。優れた弾道性能とロープライスを実現した農業関係者の強い味方。リトルな害獣お友達にお仕置きするならコイツで決まりだ。“常夜の森”で通用するかは知らないけど、俺の“火矢”やマジ殴りよりは遥かに攻撃力があるだろう。無いよりマシだ!


 現物はあるものの、流石にこのまま実戦に出る訳にはいかない。

 スコープの調整作業が必要だ。位置と角度の調整、ゼロインとかね。

 アイアンでやってもいいのだが、実際に撃って安全性の確認作業も兼ねるつもりだ。

 流石の『スカベンジア』でも箱出し品は安定しているが、一応ね。


「取り敢えず暴発したら怖いので、家族に見せる前に具合を――」


 お披露目前の試射実験に移るべく、空マガジンをポッケに突っ込み、銃と弾薬の箱を持ってドアへと向かい合う。

 家族は置いてきた。実銃射撃に付いてこれそうにないからな……。


「「「…………」」」

「ぐ、ぐあいを……」

 

 ――またコレかぁぁぁ……! うわーん!


「うう。あのぅ、父さま、いつから見てました?」

「『レミントン・アームズ・エム何とか、キミに決めたっ!』のあたりからだね。

 ソレを何故か釜に入れ直した辺りでエリーとコリンも来た。なんか、すまんな」


 パパンそれ殆ど最初っから……。

 どうやら俺の奇行の一部始終も黙ってみていたらしい。

 今にも泣きそうな俺に、妙に申し訳なさそうな表情で受け答えるキース。


 途中参加したらしい母娘は『こいつマジか!!?』って顔をしていた。

 前のアレとは感嘆符の数だけ驚愕度合いも違う。困惑もしていた。


「えー、皆さん」

「「「うん」」」

「話し合おう。僕たちは話し合うべきです」


 洋画のカップルが口喧嘩する時に高確率で出てくるお約束の口上で、久方ぶりの家族会議が勃発した。

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