第18話「孤軍奮闘!?」

 週末は部屋に引きこもり、図書館で借りた件の三冊を読んだ。


 本を読むのは嫌いじゃないけど、古典の勉強しか思えない、ちょっと固めの馴染みのない文章。うっかり寝ちゃったり、サラッと理解できる漫画に逃げたりしたけれど、それでも何とか読んでいくうちに、少しずつ文章と話のパターンに慣れてきて、なにより話が意外と面白くて(ありそうというお話から荒唐無稽なものまで幅広)、次第に読むペースも上がって、日曜の夕方までにはなんとか読み終えることができた。


 よし、これで話を振られてもなんとか答えられそう!


 夕食後、あたしは達成感と安堵感に満たされながら、月曜日の授業セットに、本三冊を鞄に詰めた。奇譚倶楽部の一員として、順調じゃないですかあたし!

 でも。


「どうするんだろ。江上くんのこと」


 思わず声になった。

 ちょっと考えてみると向坂くんは言っていたけれど、江上くんのあの様子を見る限り、一筋縄ではいかないような……。

 それにしてもあの二人が知り合いだったなんて。

 しかも、何かありそうな感じだった。中学で有名って言ってたよね、向坂くんのこと。

 何かの大会で優勝とか、イイコトして表彰されたとか、そういう明るめな話じゃなさそうだった。


 だとしたら――。


「やめよう!」

 無人の部屋で、あたしは大きめの声を上げる。

 そりゃ生きてたら、いろいろあるわけだし。あたしだって、人に言いたくないことはあるし。


 いいよ別に、あたしに関わりないのなら、なにがどうだって。

 

 きっと明日、向坂くんは江上くん対策を披露してくれるだろう。

 やっぱり早く学校に行こう――思いながらあたしは膨張した鞄の金具を無理やりとめて、部屋のドアを開ける。そうして食器を重ねたトレイをテーブルから、雑に畳んだパジャマをベッドからすくい上げると部屋を出て、塞がった両手の替わりに足でドアを閉めた。

 

 だけど――月曜日、向坂くんと話すチャンスはなかった。


 いつものように友達大勢と賑やかになっているから――ではなく、休み時間のたびに机に突っ伏していた。

 具合が悪いのかと思ったけれど、授業中もコクコクやっていたので、単に寝不足らしい。


「おまえ、寝すぎだろ。大丈夫かよ」

 三限終了後、向坂くんの後ろの席の男子が、たまらずとばかりに肩を叩いた。あたしは礼奈としゃべりながら、背中に全神経を傾ける。


「いやちょっと、週末忙しくて……」

「おいおい、何に忙しかったんだあ」


 含みのある声に「ははは」と軽い笑い声で応えると、向坂くんは再び机に突っ伏したらしい。体調不良じゃないことに安心しつつ、そんなに江上くんのことで悩んでいるんだろうか……何か手伝えないんだろうか……思ったけれど、でも今は寝かせてあげるのが一番なんだろうな、と結論したあたしは、礼奈の話に笑顔で頷きながら、ちょっとだけ笑う声を潜めた。


 結局火曜日もそんな感じだった。そして放課後。


「じゃあ吉野さん――また明日」

 幾分シャッキリした向坂くんは、HRが終わるなり鞄をひっつかんで立ち上がり、あたしにだけ聞こえるくらいの声でそう言い残して、慌ただしく教室を出ていった。


 そして水曜日。倶楽部の日である。


 部員になって初めての部活動の日(正式には同好会だけど)、まともに話をするのも図書室以来、ということであたしは、いつものように部活前の礼奈の時間潰しに付き合ってダラダラ会話をしながら、さっさと教室を出て行く向坂くんを背中で思いっきり意識していた。

 三十分後、走って本館に向かい、警備員のおじさんに挨拶してから階段を駆け上がると、誰でもウエルカムとばかりに旧国語準備室のドアは全開だった。


「ゴメン、遅くなって――」

 声を上げながら教室に駆け込んだあたしの口と足が、パタッと止まった。


 机に向坂くんが突っ伏していたから――ではない。

 味気ない焦げ茶色の長机に似つかわしくない、カラフルなモノが散乱していたからだ。

 あたしは机を凝視しながら、そろそろと近づいていき――何これ。カード? ハガキ?


 ――でもって、美少女!?

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