第10話「迫真」

 一階の受付に鍵を返して、一緒に庭を歩いて、駐輪場まで行く。

 そこでの会話で、あたしたちは隣の学区であること、学校の西門から音羽田川の土手に出て、川にかかってる渡橋を彼は渡り、あたしはそのまま直進して、十五分くらいでそれぞれ家に着くということを知った。


「急ぐ?」

「別に」

「じゃ、渡橋まで一緒に歩こうか。並んで走ると危ないから」


 向坂くんは随分な大荷物を器用に前カゴに入れると、ゆっくり自転車を押し出した。あたしもその後に続く。


 土手に人影はあまりなかった。

 五時過ぎ、帰宅部が通るには遅く、部活動者が通るには早いというこの微妙な時間帯、たまにすれ違うのは、犬の散歩をする人たちくらいだ。

 彼の左手には音羽田川、私の右手には等間隔に植えられた桜の木がある。

 春には赤ちょうちんが吊るされて、花見客でそこそこの賑わいを見せるんだけど、メーワクなことにゴミが大量に発生するため、「クリーン大作戦」なんて名目で後片付けをさせられるという悪しき習慣が三高にはあった。


「吉野さん、クリーン大作戦やったことある?」

「ない。あれってくじ引きでしょ? クラスで二人しか選ばれないじゃん」

「まあね。俺はそれ去年当たりましたけどね」

「うっそ。クジ運いいねえ」

「お褒めの言葉ありがとう。――ホント冗談じゃねえよな。自分で片付けられないなら花見なんてやめろってマジ思う。いい大人が、ガキに後片付けさせることなんとも思わないんかね? いっそこの桜、切り倒せばいいんじゃね?」


「それは――奇譚倶楽部長とは思えないお言葉」

「何で?」


 今日一日、色々な意味でひたすら圧倒されていたあたしが、向坂くんに教えることがあるなんて! すっごく驚いて、じわじわ嬉しくなる。

 あたしは浮かれすぎないように気をつけながらも、嬉々として、


「だって桜の木って、切ると祟られるって言われてるじゃん。死体が埋まってるなんて小説もあったし。霊が宿る木なんじゃないのかなあ。よく分かんないけど」


「それホント?」

 いぶかる声。よーし、私はひそかに喉の調子を整えた。


「――あ、あそこ! ホラ!」


「なにいきなり。大きな声出して――」

「あの桜の木の下、人が立ってる。長い髪の、若い女の人! ピンクのワンピース着て、こっちを見てる! ホラ!!」


 ガッチャン! 


 凄い音に振り返ったら、向坂くんの自転車が地面に倒れてる。

 ってか、多分投げ出されてる。


「ヤバいカップ!」

 私は慌てて自転車を止めて、向坂くんの前カゴにあるバッグを取ろうとしゃがみかけたら、いきなり肩を掴まれた。凄い力で。

 顔を上げると、向坂くんが怖いくらい真剣な目で私を見下ろしていた。


「どこ!」

「何が?」


「女の人、どの桜!」

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