第7話「名誉の理由」
「…………」
驚くやら呆れるやら腹立たしいやらで無言なあたしをどう見ているのか、向坂くんは屈託ない笑顔である。
どこがクールよ! なんだかイライラしつつ、
「それは大変な名誉をどうも。でも入部するかどうかは、あたしの判断だよね? そもそも、何するクラブなのよ。奇譚倶楽部って」
すると向坂くんは、ふっと目を伏せてカップを手に取った。
ゆっくりとそれを口に運び、味わい――って何この、いきなりの沈黙!
風が起こるたびざあっと揺れるカーテンの音が、やけに耳につく。今までそんな音がしていたなんて、全然気づかなかったのに。
なんか、気まずい……。
あたしもうつむいて、カップを手にする。当然ながら紅茶は冷めていて、少し苦かった。
カチャリと陶器の触れる音がして顔を上げると、向坂くんがカップを置いたところ。慌ててあたしもそれに倣う。
飲み終えたカップを横にずらすと、向坂くんは机に両肘をつき、口元を隠すように指を交差させ、僅かに目を伏せて、言う。
「――不思議な話をね、集めようかと」
さっきまでの朗らかな声とは一転、幾分低い声で。
「――は?」つい怪訝な声を上げてしまったのは、声が聞き取りにくかった、だけではない。
「だから」向坂くんはパイプ椅子にもたれかかるようにのけぞると、左手で髪をかき上げながら、
「不思議な話をみんなで探して、それを教え合う。本とかで探してきてもいいし、実体験でも人から聞いた話でも構わない。そういうののんびり探して、それなりに集まったら……、そうだな、本を作って学祭で売るってのもありか。うん、いいなそれ」
――何その、明らかな付けたし感。
「……それなら、心霊倶楽部とかオカルト倶楽部とかって名前の方がいいんじゃない? 人も集まりそうだし」
「その名前だと学校が許可しないだろうって岩じぃが。あ、顧問は岩じぃがやってくれることになってるから。同好会だから本当は部室ないんだけど、旧国語準備室だったここを、週一回、特別に使わせてもらってるんだ」
岩じぃ!
その名を聞いたとたんに心がざわつくのを感じつつ、
「で? 何で、あたしを誘ったわけ?」
今度の質問の返答は、澱みなかった。
「吉野さん、暇――じゃなくて、余裕ありそうだったから」
今、暇そうだからって言おうとしましたよね!?
目で向坂くんを責めたが、彼はガタンと椅子を鳴らして再び両肘を机にのせると、前のめりにまっすぐあたしを見てきて、
「ホラ、新しい部活を立ち上げるってタイヘンじゃん。色々やってるヤツが忙しい合間に、とか、片手間に、なんて無理だと思うし、こっちだって嫌だ。その点、吉野さんは部活も入ってないし、バイトとか塾通いもしてないみたいだし、神田さんとの会話を聞いてても、なにかにどハマりしてるってわけでもなさそうだし、余裕ありそうだなって」
「……」
別に向坂くんだけじゃなく、周りには他の人たちもいっぱいいるわけで――だから聞かれて困るような話はしてないけど。してないけど! でも!!
そんなあたしの動揺を知ってか知らずか、向坂くんは楽し気に、
「ナニゲに面白いし――まさかあそこで新聞を持ってくるとは思わなかった。ムッとしたんだから、『さあ』って突き放せばいいのに。真面目だなって」
怒らせた自覚あるのか、って、わざとだったのか!
「でもなにより一番は――吉野さんが、ケータイ好きじゃなさそうだから、かな」
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