第3話「はじまり」
「明日って東京、晴れるかなあ」
昼休みの図書室。いきなり頭上から降ってきた意味不明な問いかけに、あたしはペラペラと眺めていたタウン情報誌から顔を上げた。
六人がけ閲覧机を挟んで正面に立っていたのは、隣の席の
とはいえ、反対隣は去年も同じクラスだった仲良しの
要するに、席替えしたら挨拶すらも怪しくなりそうな、非常に薄い仲だった。
だから思わず辺りを見回した。だけどやっぱり、周囲には誰もいない。
やっぱりあたしに話しかけてる!
信じがたく思っているあたしの目の前に、彼は座った。だけでなく、「だから」と身を乗り出してきて、
「明日、東京、晴れるかな、って訊いたの」
物分かりの悪い君のために、わざわざ言い直してあげてるんだよ? とばかりに文節ごとに区切って、ゆっくりと。
なんだこいつ!
生まれも育ちも日本海側、まして気象予報士でも予言者でもない、一介の女子高生にそんなことが分かるか!
と、言い返したくなったがグッとこらえ、あたしは黙って席を立った。
入り口にある新聞コーナーから今日の朝刊を抜き取り、席に戻ってヤツの目の前で広げてやる。
お天気コーナーを指差してやりながら、
「明日の東京晴れみたいだよ。よかったねー」
最上級の笑顔までくれてやった。しかし、ヤツは困ったように口元を歪めると、
「いやあの、ケータイとか見てくれればよかったんだけど、な。あ、でもサンキュ」
何そのとってつけ感謝。てかそのひきつり気味の笑顔、あたしをカンペキ馬鹿にしてますよね!
だったら自分で調べろ! 次第にヒートアップしていく自分を必死に押さえつつ、
「あたし、ケータイ鞄に入れてるから」
「なんで?」
「だってガッコにいるんだから絶対連絡とれるじゃん。それにあたしのケータイ、古いから重いんだよね。持ってると肩凝ってくるし」
嘘だけど。
でも別に、本音を語るほどの仲良しじゃないし。
「……ふーん」
何その、胸にイチモツ感バリバリな冷やかな笑顔。
さりげなくオシャレな黒縁メガネに、寝癖なんて見たことないサラサラヘアーと身だしなみにも気を使っていて、いろんなグループの端っこにいて、どの授業であてられても答えに詰まったりするのを見たことがないくらいには優秀で、そこそこ整った面立ちなのもあいまって、騒がず孤立せず目立たない無難な人――というのが彼の印象だった。ついさっきまでは。
だけど今、右の口角だけあげてるその顔、時代劇に出てくる悪徳商人みたいなんですけど!
しかもタイミングよく、メガネのレンズがキラッと光る。
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