第2話「おかしな一日」

「吉野さん帰るのー?」


 自分でもひくくらいビクッとしてしまい、ごまかそうと笑いを浮かべて振り返ると、先月からクラスメートになったばかりの女子が、にこにこして立っていた。


 名前、えーと確か……。


「そう。中川さんは今から吹奏楽? 大会近いんだよね、頑張って」

「ありがとう。吉野さんも気をつけて帰ってね」

 笑顔でお互いの反応を探り合いながら、あたしたちはクラスメートとしてあっさり過ぎずツッコミ過ぎず、無難にお別れした。

 ほうっと息を吐き、辺りを見回す。朝の時間ほど混みあってはいないが、それでもひっきりなしに人はやってくる。


 ここは人目がある。


 あたしは急いで靴を履き替え、玄関を出る。

 男女入り乱れて賑やかなグラウンドを右手に、スカートのポケットに滑り込ませた封筒から左手を離さず、一直線に自転車置き場を目指した。


 幸い、自転車置き場に人気はない。あたしは、安心して自転車のカゴに鞄を入れて、中を探った。


 取り出したのは裁縫セット。


 こんなに上品な手紙があるのに、ペーパーナイフを持っていないのが残念すぎる! せめて手でちぎるのはやめたいと思い、ちゃちなハサミでチョキチョキと封筒を切った。


 中にはカッチリした読みやすい字がまっすぐに並ぶ一枚のカード。


 白地に美しい青いインクは万年筆? もしかして羽ペンとか! ワクワクしながら青い文字を目で追った。


『吉野 希実さま

  放課後、本館二階の西角教室までお越しください。

                      奇譚倶楽部』


「きたん、くらぶ?」

 思わず眉が寄った。そんな部活、聞いたことない。


 それに本館って、確か大正時代に建てられて老朽化が激しいからって取り壊し予定だったのに、レトロ建築物を愛好する卒業生たちが強行に反対したおかげで話が一向に進まず、今は『地域と歩んだ学校の歴史』とかいう写真パネルが飾られ、形ばかりに一般公開されている記念館扱いの建物アレのことだよね?

 今の正門(南門)からもっとも遠い旧正門(北門)側に建っていることもあり、あたしを含め、ほとんどの人が行ったことがないんじゃないだろうか。古い建築物にありがちな幽霊話もあるみたいだし。


 悩むことしばし……。


「まだ明るいし、行ってみるか」


 あたしはカゴから鞄を取り出して、自転車置き場から離れた。帰宅する人の波に逆らって、校舎とグラウンドの間のアスファルトの道をスタスタ進んだ。


 それにしても――今日はヘンな一日だ。だって昼休みも……。


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