ようこそ! 奇譚倶楽部へ

天水しあ

第一章「いつもとは違う日」

第1話「招待状」

「はあ終わった」


 今日もつつがなく、ここまでたどり着いた。


 あとは靴を履き替えてチャリに乗って正門を出れば、二年目になる変わり映えのない安定の一日が終わる。

 最上段のちょっと固い下駄箱の扉を、いつものように少し力を入れて引っ張った。ガコッという聞きなれた音。

 それにシャッ、という聞きなれない音が混じる。


 あたしの頬を掠めて、何かが足元に落ちた。


 見れば、白い上履きに臙脂色の何かがのっかっている。


 カード? 


 思いながら上半身だけ傾けて手を伸ばす。拾い上げたそれは、角のキッチリした封筒だった。

 封をしているのは銀色の丸シール――ではなく、なんか紋章っぽい模様が刻まれた――これ、もしかして封蝋ってヤツ!? 


 何この中世ヨーロッパ世界! 

 何このファンタジー設定!


 しかし。


 そこへランニング中の野球部が通りかかった。

 開け放たれた玄関扉から「三高―っ! ファイっ!!」という野太い声がホールに響き渡ってくれたおかげで、何の容赦もなく現実世界に引き戻された。

 あたしは「ははは」と力なく笑うことで、足浮いちゃうんじゃというくらい期待に胸高鳴る自分を鎮めつつ、ゆっくり封筒をひっくり返した。

 アイボリー色の宛名部分には『invitation』と流暢な筆記体が綴られていた。あれ? 告白じゃない? ちょっとガッカリ。だけど。


「招待状……?」


 こんなの、高校生活――いや、生まれて初めての経験なんですけど。


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