第5話 雨と傘
重ならないのも仕方ない
雨が降らなければ傘は邪魔もの。傘は雨がないとできなかった。雨と傘はそんな関係。
あの日あの時あの姿を見なかったら、そこに傘があったら気にならなかった。
あの時ばかりは雨が降っていても傘は邪魔だった。
〇〇〇〇〇〇
甘い雨が降っている。しとしとと口の中が濡れる。俺をもて遊ぶ。バケツをひっくり返したような飴が急に降ってきて、俺は痛みと驚きの中叫ぶ。これじゃムチだ。
「傘が欲しい」
このままではアメとアメで窒息してしまう。溺れてしまう、詰まってしまう。俺の手には骨組みだけの壊れた傘しかなくて。これではアメも防がなければ、飛べもしない。
〇〇〇〇〇〇
俺は置き傘を盗まれて、折りたたみ傘を出すのも面倒でそのまま走った。すぐ車に行き着いたけどなんだか窓に映る自分を見てまた引き返して少し人目を避けた建物の隙間に行き着いた。アメが冷たくて気持ちよかった。
まさかあの間抜けな場面を見られているとは思わなかった。何も理由はないのだ、ただなんとなくなのだ。強いていうなら疲れていたくらいなのだ。だから俺じゃない。あれはなんでもない。俺の苦笑いをどう見ていたんだろう。そしてなぜ彼女は俺にそんなことをいちいち聞くんだろう。やっぱり俺は鈍感な馬鹿野郎で気づかない。気が利かない。気をもたない。気をつけて、気らい、空気なんて読めない。俺にできるのはただ笑うことくらい。甘く笑うくらい。
「もし気会があったらまたね」
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