第4話 あ、目と傘

 傘ならないのも仕方ない




「ね、ユメ?聞いてる?」



 聞いてるよ。私は雨崎 侑芽うざき ゆめ。親の願いとは反対になかなか芽が出ない。夢を絞り出すとすればいつか小さな雑貨店をやりたいと思ってるくらい。


 私はけっこう雨の日が好きだ。雨の日にお気に入りのお店の二階席で下を見下ろせば、色とりどりの傘が見える。某有名映画みたいにめいいっぱい手を伸ばして縮めて傘を空に伸ばせば芽が出ると、子どもの頃本気で思っていた。街灯を使って踊ったりする、水たまりにダイブまではしないけど。


 そんな私が80%という降水確率にもかかわらず傘を忘れるなんて、わざと以外の何でもない。濡れても問題ない。雨は降っても降らなくてもどっちでもよかった。あの日のことをこの人に聞けたら、それだけでよかった。


 今日私がうわの空なのは昨日の返事を思い返しているからで、何も彼の姿を目で追ってるからではない。



『それ、俺じゃないと思うよ?』



 彼は苦笑いしてそう言った。そして雨の中を駅まで走った。それほど濡れずに別々に電車に乗り込んだ。


 しかし、嘘を疲れてしまった。突かれても別にいい。だって普通、雨の中ぽかんと口開けたまま目をつぶってるところなんて見られたくはない。むしろそっとしておいてほしいだろう。



「あ、目と傘で顔わかんなかったけど、ユメ昨日〇〇いなかった?」


「んー?いたけど傘持ってなかったよ?見間違いだよ」


「そっかあ?そうかも」



 言いながら自分にもそうだと言い聞かせる。

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