第3話 あ、目とかさ

 俺は自分のことを『俺』と言う



 彼女は『私』だったが、だんだんと『うち』に変わっていった。



 なんてことない同僚の1人。晴美さんと行く予定だったらしい。ドタキャンされてなぜ俺を誘うんだろう。たしか彼氏さんとやらもいたはず。どうして俺だったのか聞いた。



「うーんそうだなぁ。目、とかさ」


「目?」


「なんか誘ってほしそうだった」


「ぜったい嘘だ」


「うそうそ、なんとなくだよ。理由なんてないよ」



 茶化した彼女はご飯ものも食べ始めた。あとでそれも食べよう。俺はアイスもケーキも食べまくる。あと和モノも食べたい。ストレス溜まってなのかなあ。



「今度のシフト見た?ひどいよね」


「ほんと、死んじゃうんじゃないかな」


「俺あんまり人のシフト見ないけどさ、今月特に独身組ひどい」


「ほんとほんと!私だって好きで独身でいるんじゃないのに」



 ケーキを食べながらそんなことを話す。元々話すのに困るような気まずい関係でもなければ、俺自身女子と話すのは苦手ではない。相手が拒否しなければ。だからこの時間を楽しんでいて、甘い物好き男子の俺としてはとても充実していて、だからこそ何も気づかなかった。


 俺は人の趣味を邪魔しないことをモットーにしてる。好きなものも嫌いなものも違うし、時間も空間もむりやり共有するものではないとすら思う。つまりは俺はテキトーで、空気が読めない。


 満腹の帰り道、お天気お姉さんの言葉を思い出した。



「あ、雨だ」



 傘はお互い持ってなかった。

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