第2話 雨とかさ

「雨とかさあ、いらないよね」


「だよねー」



 うち、けっこう好きだけどねと思いながらも気の抜けた返事をする。なんてことない小さな嘘が口からスルスルと出てくる。だからついこの前彼氏に振られたんだと思う。


 なんてことない普通の私。つまらない、そのとおりだ。友だちにだってそう思われてるんじゃないかと思う。私といる時間が無駄になるとか。でもそんなこと考えてるとバレたらひかれるから、私はキャラクターを作る。まあみんなやってるよね。バカな自分をさらけ出すことでネガテイブな自分とトントンにしてるつもり。おもしろい自分を作り上げてるつもりなんだけどなあ。



「聞いてる?眠いの?」


「そー、あんま眠れなくて、ストレスで狂い死にする未来しか見えないわ」


「あ、そうだ!ケーキ食べ行かない?」


「え?」


「甘いの嫌いだっけ?」


「ううん、好きさ!大好きさ!」


「じゃ決まり!ストレス発散しなきゃ!」




 と、言われたのにドタキャンされた。まあうちもやるから怒ってるわけじゃないけどさ。完全に頭がケーキ食べる気でいたから、なんだか落ち着かない。別にお店を予約していたわけでもないのに、どこかに行かなきゃ行けないような気すらしてくる。糖分ほしいのかな。


 タイムカードを上から下へ。暗証番号を解除して外に出る。今日も頑張った。さあ家に帰ろう。あ、雨降ってたの忘れてた。傘はない。そんな土砂降りでもない。青い車を目指して走り出す。



 誰かが雨に打たれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る