飴と傘

新吉

第1話 飴とかさ

 アメとムチ



 小さい頃はもっと簡単な話だと思ってた。アメはほめる、ムチは怒る。悪いことしたら怒られる。いいことしたらほめられる。でもいいことばかりはできなくて、だんだんアメは少なくなった。


 俺は悪いことをやめて口を開けてアメを待った。何もなし。いいことを頑張ったらアメを貰った。そしたらもっと頑張れと、ちょっとくらいじゃ貰えなくなった。ムチで叩かれるようになった。


 俺はまたアメがほしくて頑張った。だけどアメが増えたり、ムチが弱まる方法を知ってる人や、アメとムチなんかに縛られていない人に出会った。みんなうまくやっていた。


 俺はなんで飴なんかのために頑張ってるんだろうと苦笑いした。口の中は甘くて甘くて甘くて、虫歯だらけで。甘笑いだったかもしれない。


 だから俺は口を開けた。声が出ない。

 アメが降って来た。

 それが口に入る。


 傘はささなかった。




 〇〇〇〇〇〇


 飴とかさ、チョコとか好き?


 好きさ、好きだよ?


 というか甘いもの平気?


 あ、めっちゃ好き!


 そっか!よかった!!



「じゃ今度ケーキバイキング付き合ってくれない?」



 仕事終わりの駐車場で同僚に誘われた。



「あー楽しみ!」


「食べ放題ね、しかしすげえな」



 俺には縁のなかったお店で。きょろきょろしたりそわそわしてしまう。



「お、アイスもある」


「お腹冷やさないでね、風邪はやってるし」


「子どもじゃないんでー」



 パチパチと弾けるアメの混ざったアイス、けっこう好き。子ども舌だよ、笑うがいいさ。

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