第104話 継承者1
「あなた!」
「マチ! ライ! ルイ!
「父さん!」
「パパ!」
ひっしと抱き合う家族を見て、本当に間に合って良かったと胸をなでおろす。『僕』も両親が生きていたころは姉さんと四人で楽しい毎日だったっけ。残念ながら小学生の頃に死別してしまったけど叶うことなら僕も、もっとたくさん両親との時間を過ごしたかった。
だからこの光景を見られたことが本当に嬉しい。
「あ~、疲れた」
「ミラ、お疲れ様。はい、約束のお酒」
「やたっ! コォチ、つまみ! つまみは!」
「はいはい、どうぞ。今日はもうなにもしなくていいですからゆっくり休んで下さい」
インベントリから昨日釣った魚を焼いてほぐした後に、濃い目の味付けで炒めた野菜を混ぜたものを渡す。
「にゃはは、頼まれても今日はもう、はったらかな~い」
徳利とつまみの載った木皿を両手に、機嫌よく尻尾を振りながら立ち去るミラを見送ると、パタパタとクロとは反対側の肩に止まったアカに視線を向ける。
「アカもお疲れ様。本当に助かったよ、しばらくゆっくりしておいで」
『奥の方はまあまあ楽しめたし、別にいいわ』
アカが楽しめたってことはやはり森の中心付近の敵は強くなっているってことか。
『でもせっかくだし、ちょっと休むわ。いい敵が現れたら呼んで頂戴』
「はは、了解」
バトルジャンキーのアカもそれなりに疲れたらしく、く、と欠伸をもらし、屋根の上へと飛んでいった。
「あの、コチさん」
「はい。なんですか、チヅルさん」
再会の場面を堪能し、ミラとアカを見送った私に背後から声をかけてきたのは六花のリーダーチヅルさんだ。
「お昼の料理にこの森で取れた食材を使うために、トルソさんにいろいろ聞いたんだけど教えてくれなくて……」
「あ、そう言えば食材の処理の仕方を教わるんでしたね……って教えてくれないんですか?」
「教えてくれないっていうか……取りあえず来てもらえる?」
「はい」
困り顔のチヅルさんに連れられて、初日に私が設置してからそのままになっている簡易キッチンまでいくと日に焼けた肌と大柄な体格のトルソさんが腕を組んで待っていた。その風格は料理人というよりは鉱山夫のようだ。
「トルソさん、こんにちは。ハンマさんと合流出来たこともありますし、美味しい料理を作ってあげたいんですけどこの森の食材の料理の仕方を教えてもらえますか?」
「……」
声を掛けるとトルソさんは静かに腕組みを解き、アグリーエイプの肉を手に取り調理を始める。包丁の背で肉を叩き、肉を検分したあと一部を切り取って廃棄したり、何かの葉を敷いた鍋に入れ、鍋ごと湯煎したり……
あぁ、これはあれか。見て覚えろ的なやつだ。
「チヅルさん、どうやら見て覚えて欲しいってことみたいですよ」
「やっぱり?」
「はい、ただ見ている限りだとこの森の食材は毒抜きのような処理が必要みたいですね」
おそらく戦闘時に確認した汚染というのが関係していて、その処理をしないと食材として認識されないらしい。
「でも、それを教わっていたらお昼ご飯が遅くなるわ」
「ですね、私も手伝います。トルソさんはこの森の食材、チヅルさんは私が持ち込んだ食材で料理を進めて下さい。私は両方を確認しつつサポートしますので。その間にこの森の食材の処理の仕方を覚えたらチヅルさんにもお伝えします」
「……そうね、それで行きましょう。でないとうちのメンバーが、特にミルキーがうるさく騒ぎ出すと思うから」
ミルキーさんか、あの人はチヅルさんを困らせることが楽しくてしょうがないみたいだからなぁ。でも、それってきっと……
「甘えん坊なんですね」
「え? ……ふふ、よくわかるわね。ミルキーはリアルだととってもしっかりしているんだけど、その反動かここではあんな感じなの。私たちは長い付き合いだし、あの子の事情も知っているから、見た目ほど困らされている訳じゃないのよ。だからといって騒がれたいわけでもないから始めましょう」
「そうですね、ではトルソさんもお願いします」
「……」
それからこの森の食材の処理の仕方について学びつつ調理を続けた結果、結局準備に小一時間ほどかかってしまい、ミルキーさんが騒ぎ出し手チヅルさんが辟易していた。
お疲れ様です。
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第2巻が本日発売です!
書店で見かけましたら是非お手に取ってみてください^^
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