第103話 四日目

 イベント四日目。というか、あれだけいろいろあったのにまだ四日目なのか。


 現実で社会の流れに流されるように日々を過ごしていると、気が付くと一週間が終わっているなんてことはよくあるんだけど……それだけこの世界での一日が濃いってことかな。

 裏を返せば、それだけこのゲームにはまっているということになる訳で、まさに運営の思うツボなんだろうけど、すでにそのツボにはまることが全然不快じゃなくなっている。


「坊主、今日からちょっと気合入れていく。お前はとにかく素材を集めて来い」


 朝食後に後片付けを終えた私に声を掛けてきたのはドンガ親方だった。


 鍛冶用のハンマーを肩に担いでゆらゆらと揺らしている親方はなんだか浮かれているように見える。多分、今まで使ったことのなかった素材を使えること、なんでも自由に作れてやりたいようにできるのが楽しくなってきたのだろう。

 昨日話を聞いていた限りでも、武器や防具の作成は当然として、農具や衣服、さらに柵の強化から物見台代わりの矢倉の建設、住民用の小屋まで建てようとしていた。


「今朝アルたちから連絡があって、すでに救助した住民を連れてこっちに向かっているので、戻ってきたらそちらの対応に追われると思います。それまでで良ければ集めてきますよ」

「それで構わん。取りあえずファムから木材の要望が出ている。新素材を中心に木材をを優先的に集めてくれ。そのついでに採掘ポイントがあったら鉱石も頼む」

「わかりました。じゃあ行ってきます」


 親方とファムリナさんにも明日あたりからなにかが起こる可能性が高いことは伝えてある。それもあっての要望だと思うので、やりたいことができるだけのものを準備するのは私の役目だろう。


 にわかに活気づいている拠点を嬉しく思いながらクロを連れて拠点を出ると、拠点の周囲を囲む柵から均等にスペースができる様に木を伐り、伐採した木を拠点内に置く。加工はファムリナさんとモックさん、そしてミルキーさんがいれば充分だろうから枝を落とした状態のままだ。


 その間に私は周囲を探索して、ライくんとルイちゃんに教えてもらった新素材を中心に採取と採掘に専念する。本当はポーションを追加するために癒草なんかも集めたいところなんだけど、拠点の周囲はミスラさんの治療のためにカラムさんが取り尽している。


「まだ少しは手持ちがあるけど、ミスラさんの治療薬を調合するときに必要になる可能性を考えると今は使えないんだよね」

『どうやら、猫娘の方はもうすぐ帰ってくるわよ』


 肩から聞こえたクロの声に空を見上げると、いつの間にか太陽が天頂を越えていた。採取なんかのために意識を下に向けたまま森の中にいると時間経過がわかりにくい。

 まあ、チュートリアル後に解禁された時計機能を使えばいいんだけど、その機能がない状態で1年近くリイドで生活していたから太陽の位置で時間を計る癖がついちゃっているんだよね。


「ミラってことはライくんたちのお父さんか。到着する時には私も拠点にいたいかな。アルはあとどのくらい?」

『あっちは同行者を背負いながらだから夕方になりそうね』

「そうか、確かお爺さんだったっけ。じゃあ、一度拠点に戻って食事を取りつつミラを待って、それからもう一度素材集めに行こうかな」

『そうしなさいな』

「そうするよ。教えてくれてありがとう、クロ」


 情報提供してくれたクロにお礼を言うと、取りかけだった緑息草を採取してインベントリに入れてから腰を伸ばしたあと拠点へと向かう。


「そう言えばミラたちの帰還自体は問題ないんだよね」

『赤鳥が付いているのだし、問題はないんじゃない? それに助けた村人もそれなりに戦えるようよ』

「それは良かった、それならマチさんたちに無事に着きそうだって教えてあげてもよさそうだね」


 一応昨日の段階でマチさんにハンマさんが無事だったことは伝えていた。だけど、今の森では道中何があるかわからないので、子供達にはまだ伝えず、本当に喜ぶのは再会してからと決めていた。


「よし、そうと決まれば早く拠点に戻って教えてあげよう」


 マチさんやライくん、ルイちゃんが喜ぶ姿を想うと自然と足が早まる。


『あなたの家族でもないのに、おかしなものね』

「いいんです、家族が引き離されるというのは辛いものですから……ライくんたちにそんな想いをさせなくて済むと思うだけで私は嬉しいです」

『……そんなものかしらね、わたしには家族なんていないからわからないわ』

「なに言ってるんですか。私は四彩やリイドの皆、全員家族だと思っていますよ」

『え? ……そ、そうなのね。じゃ、じゃあ、わたしも引き離されないようにしっかりと、つ、掴まっておかないといけないわね』

「はい、走りますから離れないでくださいね」



『…………なんか、それは違う気がするわ』





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はじまりの街第2巻が6月10日に発売になります。


早いところはもう一日二日早く店頭に並ぶかもです。


なろうの活動報告に新しいキャララフ公開第一弾、第二弾もありますので、是非ご覧ください。


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