第102話 休息の夜
多くの情報を得て大きく事態が動き出した三日目の夜は、私とチヅルさんが作った料理を囲みつつ魔物素材や新素材で何を作るかという相談をメインに今までになく和やかなムードで過ぎていった。
本来なら気を抜けるような状況とは言い難いけど、人数が増えてきて会話が増えたということもあるし、なによりもライくんたちのお父さんの無事がわかったことが全員に安堵感を与えたことがこの和やかさの理由として大きい。
子供達の手前、毅然と振る舞っていたマチさんがハンマさんの無事を聞いて思わず涙をこぼしていたのがなんとも印象的だった。
明日からの予定について話した内容としては、今ある素材を使って作れるものを片っ端から作っていこうということになった。武器や防具はもちろん、農具や、拠点防衛用の設備、それに人が増えてきたので雨風が凌げるような簡単な小屋も計画に上がっている。
さらには、入手した食材の汚染処理や調理方法をトルソさんに教えてもらって食料の備蓄にも取り掛かるし、イベント後も村の人たちが暮らしていくことも考え、拠点内に畑を作ることも検討している。ここまでくると討伐イベントというよりは村づくりイベントのようだ。まあ、短い時間でどこまでできるかは分らないけど、これから何かが起こることが想定される以上はできる限りの準備はしておきたい。
「じゃあ、私たちはもう休むわね」
「はい、お疲れ様でしたチヅルさん」
「…………」
夕食が終わってからもなんだかんだと話をしている他の人たちを眺めながら、一緒に後片付けをしていたチヅルさんが六花のメンバーを呼びに行こうとして足を止めた。
「? どうかしましたか」
「……コチさんの仲間は凄いわね」
「え? あ、はい。自慢の仲間ですよ。皆に比べて私の力がまったく釣り合っていないので申し訳ないですけど」
「私に言わせればあなたも大概だと思うけど……」
小さく息を漏らしながら呟いたチヅルさんの言葉はよく聞き取れなかったけど、なんとなく呆れたような雰囲気はわかる。ん~、別に嘘は言ってないんだけどな。
「ま、いいわ。そうじゃなくて、村の人の探索とか、生産スキルの伝授とか謎の解明とか、全部頼りきりで申し訳ないと思って」
「ああ、いいんですよ、そんなの。むしろ本当は皆で協力してやるイベントを独占しているとも取れますし、こちらこそ申し訳ないです」
「それこそどうでもいいわよ。正直、この辺の魔物と戦ってみて、私たちの実力じゃ森の奥までは厳しいと思っていたし……それに、そんなことに拘って救助が遅れてしまうことを考えたら……ね。ライくんとルイちゃんのご両親を無事に助けてくれて本当に良かったわ」
「はい」
最初に大地人のことをNPCと言っていたチヅルさんだけど、キッカさんの言っていたとおり、言葉の選択を間違えただけでNPCだから何をしても大丈夫なんて思う人ではなかったのがわかってちょっと嬉しい。
「私たちは私たちに出来ることで協力させてもらうわ。皆もいろんなものが作れるようになってものづくりが楽しくなってきているみたいだしね」
「はい、頼りにさせてもらいます」
チヅルさんは私の言葉に小さな微笑みを返すと手を振って、メンバーのところへと歩いていった。
おそらく明日アルたちが救出した村人をそれぞれ連れ帰れば、いろいろ状況が動き出すはず。そうなれば今日のようにのんびりとした夜を過ごすことは出来ないかも知れない。でも、私の中のやってやるという気持ちが折れることはない。
「さあ、明日は忙しくなるぞ」
満天の星空を見上げて腰を伸ばしつつ気合を入れた。
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早いところはもう一日二日早く店頭に並ぶかもです。
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