第101話 お手柄

「なんとなくわかってきたね」


 カラムさんの話を聞いた私たちは、少し疲れた様子のカラムさんにヒールをかけてから彼にお礼を言って部屋を出ます。意外と長く話をしていたらしく、空はすでに茜色に染まりつつある。


「はい、おそらく村人たちがドラゴンと呼んでいた『なにか』は実在します」

「そうだね。そのなにかが今回の騒動の原因であることは間違いなさそうだ。問題は今まで村人たちを助けてきたはずのなにかが、なぜ今になって村人たちを襲うのか」 


 私とウイコウさんは拠点の柵を点検しつつ拠点内を歩きながら、カラムさんから聞いた情報を整理していく。


「時間的なものなのか、何かきっかけがあったのか。私たちはそのなにかを元に戻せばいいのか、それとも倒せばいいのか……」

「……異界の神からの神託を見れば『倒せばいい』と読み取れるがね」


 ウイコウさんの言う通り、イベント告知メールには封じられし魔物を討伐せよと書いていあった。この封じられし魔物というのが、村人たちの言うドラゴンと同じものという可能性は高い。でも……


「もともとは村の人たちの先祖を助けてくれた存在を倒してしまっていいのでしょうか」

「難しいところだね。村人たちに被害が出ている以上は倒すことは前提にせざるを得ない。それ以外になにか解決策があるとするならば、知っている可能性があるのは今も眠り続けるミスラ女史か……彼女が助手をしていたという史学研究者」

「あ、そういえばいましたね。でもその人って多分今回の事件の中心にいた人ですよね。無事でいるんでしょうか」

「そうだね、その辺りを確認するためにもまずはリュージュ村の【調合】を担当していた人を助け出し、ミスラ女史を回復させることだろうね」

「アルとミラたち次第ですか」

『コチ、その二人からほぼ同時に連絡が入っているわよ』

 

 私の肩の上でずっと目を閉じていたクロが絶妙のタイミングで声を掛けてくる。


「本当ですか! 表示をお願いします」

『はいはい』

 

 クロが顔を洗いながら尻尾を振ると、私の目の前に二つのウィンドウが開く。アルとミラに預けてあったクロの幻体からの映像だ。


「コチ、俺の探索範囲は全部見て回った。見つけたのはひとりだ」

「コォチ、こっちも終わったよ。あたしの方も見つけたのはひとりだったけど」

「あ」

「アルレイド、ミラ、それぞれ見つけた人の名前と職業、健康状態を教えてくれ」


 二人の言葉を聞いたウイコウさんが、私の隣からひょいと顔を出すと二人に質問を投げかける。割り込むように会話に入ってくるなんてウイコウさんらしくない。きっとウイコウさんもこのタイミングでの連絡になにかを感じたのだろう。


「うお、びっくりした。いきなり出てくんなよ、ウイコウ」

「……確かに心臓に悪いかも」

「……そんなに驚くということは、何か疚しいことがあると判断するが、いいかね」

「にゃあ! ないない、なんも悪いことしてないってば! え、えっとあたしんところはハンマっていう鍛冶をしていたらしい獣人のおじさんよ。魔物との戦闘で受けた怪我が酷くて動けなかったみたい。今はコォチの薬で問題ないけど、しばらくは動かせないかも」


 鍛冶師でハンマ? それって多分ライくんとルイちゃんのお父さんだ! 生きていて良かった……怪我が酷かったってことは発見が明日以降になっていたら危なかったかも知れない。


「だあ! なんでそうなる! 俺らはちゃんと探索してたっつうの! 俺んところはソウカっていう薬師の爺さんだな。村人に逃げる様に言われて森に入ったらしいが、結局体力が保たずにずっと隠れていたらしいぜ」


 おぉ! こっちも待ち望んでいた【調合】担当の人だ。二人共お手柄だ。


「ウイコウさん!」


 私の呼びかけにウイコウさんは僅かに微笑むと力強く頷いてくれた。


「だが、要救助者二名の状況と今の時間を考えるとすぐに連れてくるのは得策じゃないだろうね」

「あぁ……確かに夜の森は危険ですね」


 私も独り立ちして、早々に夜の森で大立ち回りを繰り広げてしまった経験があるので危険性は十分知っている。


「アルとミラにはある程度の食料と予備の結界杖を渡してあります。一晩休んで明日戻ってきてもらうようにします」

「うん、それがいいだろうね」

「はい」


 アルとミラにそのことを説明すると、二人共そうなることを予期していたらしく素直に了承してくれた。まあ、また徳利を一本ずつ渡すことになったけど、今回の二人の働きから言えば正当な報酬だ。


「よし、これでミスラさんが助けられるかも知れない。ミスラさんが助かれば詳しい事情が聞けるだろうし、私たちが本当にやらなくてはならないことも少しははっきりするかも知れませんね」

「そうなるといいね。だが、アルレイドたちが帰ってくるのは明日の午後になるだろうから、その間に私たちも出来ることをやっておこう」

「はい」


 採取や採掘もまだまだ必要になるかも知れないし、拠点では集めたドロップ品などを使っていろいろなものを作る計画も動き出している。なので、私たちが手伝えることはいくらでもある。

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