第82話 二日目・朝

「うわ……チヅルちゃんが作った料理が本当に美味しい」


 【料理】スキルを取得したチヅルさんの手料理を恐る恐る口にしたミルキーさんの第一声がこれである。


「ミルキー……まあ、いいわ。確かに今まで美味しいものを食べさせてあげられなかったしね」

「チヅル、それはスキルがあるのにまともなものを作れなかった私たちも同じだ。気にすることはないと言っただろう」


 チヅルさんが作った野菜たっぷりのポトフ風スープを美味しそうに頬張るキッカさん。自分から【料理】スキル担当を選んだだけあってチヅルさんの料理の腕前はなかなかだった。もちろんその美味さの要因にコンダイさんが手塩にかけて育てたリイド産の野菜たちの力があるのも忘れちゃいけない。


「とても美味しいわ。CCO内の味覚システム自体に問題があるのかと疑っていたけど、むしろ高度過ぎたのかもね」


 匂いや口当たりまで確認しつつ味わっているのはエルフの魔法使いであるレイチェルさん。眼鏡キャラ、スレンダーボディの見た目に違わず理知的な性格っぽい。


「うん、美味しいよ。チヅル、ありがと」


 はむはむという音が聞こえてきそうな雰囲気で料理を食べているのは、小柄な体格でロリ風に見えてしまう人族のロロロさん。

 そして、食べながらチヅルさんに親指を立てて見せているのが長身スレンダー巨乳の狐獣人魔法使いのエレーナさん。チヅルさん曰くあまり喋らないけど表現は豊かな人らしい。

 この5人にリーダーのチヅルさんを加えて女性だけのパーティ六花、ということになる。

 

「ありがとう。とにかく私はコチさんのおかげで【料理】スキルを取得できたし、これからはそれなりの物を食べさせてあげられるわ」

「それは本当に助かる」

「だねぇ、正直言うとチヅルちゃんを揶揄う楽しみよりもメシマズの方がしんどかったからね」


 どこまでも口の減らないミルキーさんに小さくため息を漏らすチヅルさんだが、相手にしていると話が進まないと思ったのかミルキーさんを無視して六花のメンバー全員に話しかける。


「とにかく、これでわかったでしょ。生産関係に詳しいコチさんたちに指導を受ければ、私たちもちゃんとした生産活動ができるようになるわ。いままで生産系はハズレと言われてきたCCOだけど、だからこそここで技術を身に着けておくのは利益になると思う」

「私は賛成よ。もともと【彫金】はここでやりたかったことのひとつだったから」

 

 チヅルさんの方針にレイチェルさんが賛意を示すと、ロリで人見知りっぽいロロロさんもこくこくとうなずく。


「私も賛成だ。貴重な技術を無償で教えてくれるというのに断るなんてもったいない。自分の武器は自分で作りたいしな」


 キッカさんが鷹揚にうなずくと、その隣でエレーナさんも力こぶを作る素振りを見せながらにこにこと笑う。


「ミルキーもいいわね?」

「はーい。異議なしでっす」


 スープ皿に顔をうずめるようにして料理をむさぼっていたミルキーさんが、顔を上げるとシュタっと敬礼をする。


「と、いうわけでコチさん。よろしくお願いします」

「はい、短い時間ですけど皆さんが楽しく物作りができるように一生懸命教えますので、頑張りましょう。こちらで準備しておきますので、六花の皆さんもお食事が終わって準備ができたら声をかけてください」

 

 六花のメンバーにそう声をかけると私自身もパーティメンバーに方針を伝えに行く。


「おう、コチ。これおかわりくれ!」

「勝手にやってください」

「うほ! いただき!」

「にゃ! アル、ずるい! 私も!」


 チヅルさんと同時進行で自分でも作っていたポトフ風スープが入っていたお皿を掲げるアルの前にスープを寸胴ごと置く。その途端に寸胴に飛びつくアルとミラの姿を見てこめかみに幻痛を感じつつ、残りのメンバーに今日の予定を告げる。


「って感じで、親方はキッカさんに鍛冶を。ファムリナさんはレイチェルさんに彫金、ミルキーさんに木工を教えてあげてください。私はチヅルさんに料理、エレーナさんに調合、ロロロさんに裁縫を教えます」

「わかりましたぁ」

「やる気がないと判断したら放り出すぞ」


 ファムリナさんがほんわかと答え、親方が厳しいことを言っているが、そもそも彼らはチュートリアルを担当していた人たちな訳で教えるのが嫌いなわけじゃない。むしろ面倒見はいいほうなのでなんだかんだ言ってもうまくやってくれるだろうから心配はしていない。


「アカとシロは昨日と同じで、ミラとアルを連れて村の人たちの探索をお願いするね。捜索ポイントは昨日モックさんから教えてもらったところを、近い方からしらみつぶしにしてほしい。何か問題があったり手が足りなくなったらクロの幻体を通じて連絡してくれればなんとかするから」

「ま、手応えは今一つだけど戦えるからまあいいわ」

「わふ、了解」


 はっきり言って捜索部隊の頼りはミラとアルではなく四彩のアカとシロだ。彼らには申し訳ないけど、しっかりとミラとアルの手綱を取ってほしい。


「ウイコウさんとアオはひとまず周辺確認と食材の確保をお願いします。ただ、状況によってお手伝いをお願いすることもあると思うので出来れば近くにいて頂けると助かります」

「それでは周辺を確認したあとは釣りでもしていよう。釣れなかったときはアオくんに助けてもらえばいいから、今度は釣果を期待してくれていいよコチくん」


 リイドでは魚のいない水路で釣り糸を垂らすしかなかったけど、今度はちゃんと釣りとして楽しめる環境のせいだろうか、ウイコウさんにしては珍しくちょっと浮かれているっぽい。


「はい、期待しています。魚はおかみさんへのお土産にもなりますから、なるべくたくさんお願いします」

「我に任せるがよい」

「えっと……ほどほどにね、アオ」


 普通なら気にする必要はないんだけど、海滅と呼ばれていたアオが水の中で本気を出したら本当に魚が絶滅しかねないから一応釘を刺しておく。


 さて、あとはあそこで醜い争いを繰り広げている二人をなんとかすればイベント二日目が本格的に開始だ。

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