第57話 農業クエスト

<クエスト『農地開拓』が発生しました>

『農地開拓

内容:イチノセの農業区画を【開墾】して【農業】で作物を収穫する。

 報酬:クエスト受領時=1区画を無償でレンタル

クエスト完了時=レンタル部分を譲渡。

        区画の追加購入時の割引率上昇

       (評価によって最大50パーセント引き)

        評価による追加報酬あり』

<受領しますか? YES/NO>


 マニエラさんの話を聞いていたら突然現れたのがこのクエストだった。

 発生条件は『商人ギルドに【農業】と【開墾】のスキルを持って訪れる』ことかな?


「えっと、確認させてください。長らく使用する人がいなくて荒れ果てたこの街の北東区と北西区にある農業用地を開墾してすぐに使える農地にしてほしいということですか?」

「ありていに言えばそういうことです。あそこの農業用地は神託により夢幻人様にしかお売りすることが出来ない土地なのですが、このイチノセでは農地を購入して農業を行う夢幻人様はおられないようで長らく放置されています」


 ああ、なるほど。せっかくのVRMMOなのに魔物と戦ったりせずに、第一の街でいきなり農家ルートを選ぶ人はオープン開始勢の中にはいないだろうな。CCOがもっと有名になってプレイヤーが増えてくればそんな人も出てくるかも知れないけど。

 それに、チュートリアル後のスキル選択も問題だ。選択できるスキルが五個しかないのにあえて【農業】は選ばないだろう。普通は武器スキル、魔法スキル、身体強化系スキルが優先で生産系を取得するとしても【調合】や【鍛冶】などの冒険に役立つものだろう。


 それに、現在のイチノセで販売されている農業用地は荒れ地状態とのことだから、農地を買って栽培をしようと思った人がいても開墾の手間を考えたら間違いなく挫折するだろうことは、リイドで苦労した私にはわかる。

 実は作物を育てるだけなら、このゲームではそれほど手間はかからない。だが、畑に種を蒔ける状態にするためにはなぜか無駄に労力を使う。【料理】スキルに関してもそうだったが、こういうところがこのゲームの運営は意地が悪い。


「ちなみにレンタルしてもらえる区画というのは本来ならいくらくらいするものなんですか?」


 マニエラさんは取り出したファイルをぱらぱらとめくると、台上に置いたファイルを私に見やすいように180度回転させてくれた。


「もしお受けして頂けるのであれば、今回は北東区で北通りに面していて、さらに一番中心に近いこの区画をご提供します。こちらは道路側に店舗兼居宅が設置されていて、建物の裏に畑が二面分セットになっています。本来ならば大通り沿いの店舗付き区画は購入するとなると、店舗そのものの価値が高いため畑が荒れ地状態であっても100万Gはくだらない価値があります」


 見せられた資料には、長らく使われていないせいかくたびれた感じではあるが、それなりに立派な二階建ての建物が描かれている。レンタル中は建物の価値を損わなければ多少の増改築や改修は可。譲渡後は取り壊しすら自由とのこと。


 視界の端で表示されたままになっているクエスト受注のウィンドウをそのままに、マニエラさんの言葉を検討してみるが…………悪くない。というかむしろいきなりホームを手に入れるチャンス。

 開墾に時間を取られるのは正直痛いけど、リイドに一番近いイチノセにホームを構えることは私にとってデメリットにはならない。それに街から出られるようになったリイドの皆を目立たずに街の外で受け入れることができる場所が出来るのは大きい。さらに理想としてはリイドとホームを自前のポータルで繋ぐことが出来たらなおよし。


「期限はありますか?」

「いえ、特に定めませんが、一等地を無償でお貸ししているのですからある程度定期的に成果を上げて欲しいと思います」


 うん、それは当たり前だ。無償レンタルに胡坐をかいて農地開拓をしないままにされたらギルドはまるっと貸し損になってしまう。


「具体的には?」

「そうですね、最低でもひと月で畑1面分」

「1面ていうとだいたいどのくらいの広さですか?」

「拡張前の畑は10メートル四方です」

「へ?」


 え、それだけ? それに拡張前って?


「あぁ、まだこちらに来られたばかりでしたね。夢幻人様用の農地には六柱神様と名もなき至高神様のお力で農地拡張の加護が掛けられています。拡張をすると見た目は1面ですが、実際の農地面積は拡張が反映されます。これは1面につき最大で5倍までの拡張が可能です。ただし、拡張後の土地は基礎となる土地の状態が反映されますので荒れ地のまま拡張すると荒れ地面積が増えますのでお気を付けください。実際の拡張は神々より商人ギルドが権限を委託されていますので、拡張分の畑を購入して頂ければギルドで拡張の秘術を行わせていただきます」


 なんと御都合なシステム。これはプレイヤーの数は増えていくのに、街の敷地面積には限りがあるからイチノセで農家プレイがしたいプレイヤーをなるべく多く受け入れることが出来るようにするためのシステムか。空間拡張は【空間魔法】の管轄……つまり名もなき至高神というのはヘルさんのことになるのかな。


 いずれにしろ1面が10×10程度ならコンダイさんに鍛えられた私なら問題ない。クエストを受ければ料理を売る店舗も確保できる。私は視界の端のクエスト受注画面に手を伸ばすと「YES」をタップ。


「わかりました。その依頼お受けします」

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