第56話 商人ギルド

 門が開いたので街に入れるようになったが、街に入る前に兎肉野菜炒めの試食をしてもらった結果、こちらもかなり美味しいという評価をもらった。ただ空腹度の回復率は30パーセント程度で今ひとつ。かと思ったら空腹度が減りにくくなるという支援効果バフが三時間ほど付くということで、こちらも最低500Gは取れるというお墨付きを貰った。


 三人にあるだけ売ってくれと頼まれたが、いろんな人に食べてもらいたいという想いもあったので、さすがに全部を売れない。三人には二種類の料理を三品ずつ計六品を半額の1500Gで売った。露天売りの準備が出来たら、売り切れるまで限定で販売する話をしたら必ず買いにいくから連絡してほしいと頼まれたので、三人とカード交換という名のフレンド登録をしてから別れた。


 彼らは護衛依頼でニノセまで遠征に出ていて、イチノセに戻ってきたところらしく、依頼の終了報告をしたらポータルでニノセに跳んで活動拠点をニノセに移す予定らしい。


 はっきりとは聞かなかったけど三人ともレベルは20前後らしく、これはイチノセの冒険者としてはやや高め。どうやらリナリスさんが「【料理】スキルを覚えるためのキークエストがあるなら絶対にイチノセになくちゃおかしい!」と言い張って聞かなかったためにイチノセ滞在が長引いていたようだ。


 まあ、実際は見当はずれな思い込みだった訳だけど、結果として私から情報を得て【料理】スキル取得の見込も立ったし、安全マージンを十分に稼げたことになるのでイチノセに留まっていたのも間違いじゃなかったことになるのかな。でも、そこにリナリスさんの食に対する執念を感じるのは私だけだろうか。


 とまあそのあたりはさておき、ひとまずギルドに報告に行ってから休憩で一度ログアウトするという三人と一度別れる。別れ際に自分たちのログアウト中に料理の販売をしないで欲しいと泣きつかれてしまったので、ゲーム内時間で昼過ぎくらいを目処に販売をする予定になった。

 これは露店での販売のやり方とかが分からないので、それを調べて準備をしていればちょうどいい時間になるんじゃないかなという見立てだ。


 という訳で、商売といえば商人ギルドだろうと推測して噴水広場から商人ギルドへ入る。噴水広場はイチノセを十字に割る大通りの中心で、北西の区画に冒険者ギルド。北東の区画に商人ギルド。南東の区画に職人ギルド。そして南西には冒険者にも商人にも職人にも該当しない人が登録する住民登録所がある。

 今回の目的地は北東区にある商人ギルド。ここで料理の売り方を教えて貰う予定だ。




「次の方どうぞ」

「あ、はい」


 商人ギルドに入るとちょうど受付カウンターが空いたらしく、すぐに声を掛けられる。カウンターに向かいながら周囲を一瞥すると、ロビーの作りは冒険者ギルドとあまり変わらない。大きな違いとしては冒険者ギルドだと食堂兼酒場になっていた部分が、コンビニみたいな感じの販売所になっていることくらい? あとは全体的に冒険者ギルドよりも雰囲気が落ち着いていて静かなところか。


「本日はどのようなご用件でしょうか」


 カウンターまで来るとそこには商人ギルドの制服なのか、ゲーム内ではあまり見ない襟付きの淡いピンクのシャツを着こなした、知的眼鏡のお姉さんが営業スマイルを浮かべていた。


「えっと、自分で作った料理を街で販売したいのですが、許可とかは必要でしょうか?」

「販売ですね。街の中で物を売る場合にはいくつか方法がありますが、ご説明いたしますか?」

「すみません、お願いできるでしょうか。昨日この街に着いたばかりで知らないことばかりなので」

「わかりました。それではひとつずつご説明いたします。まずはバザーです」


 それから知的眼鏡の受付嬢マニエラさんから教えて貰えたのは、バザー、委託、レンタル、新規購入の4種類。


【バザー】

 商人ギルドにアイテムを登録して商品を預ければ、各街の商人ギルドで登録されている商品をいつでも買えるネット販売みたいなもの。いろいろな条件付けもできるし、販売している最中にプレイヤーが拘束されないので人気のシステム。なによりどの街からでも買えるというのが大きく適切な値付けをすれば売れるのも早い。

ただし売却額の10パーセントは商人ギルドに引かれるので利益は減る。ちなみに買う側もシステムを利用して買い物をすると使用料を取られる。


【委託】

 街の中で商売をしている大地人、夢幻人に直接交渉して販売を委託する。この場合は委託を受ける側と報酬の取り決めをするので商人ギルドは関与しないらしい。これもプレイヤーが拘束されない方法ではあるが、売り場が固定されてしまうので大量販売には向かない。


【レンタル】

 商人ギルドが管理している店舗を借りて自分で店を開くこと。生産職のプレイヤーはこれで工房付の店を借りてスキルレベルを上げながらアイテムを売り、資金とレベルが上がったら次の街へと移動してまた店を借りるという人が多いらしい。

 街の中で出店を置けるスペースも決まっているらしく、そこは商人ギルドの管轄。屋台で店を出したいときもギルドに場所代を払って借り受ける必要がある。ちなみに屋台もレンタル可能。


【新規購入】

 自分で不動産を買って出店する。このとき特に営業許可のようなものは必要ないとのこと。自分で好きなように店を出すことができるが、不動産は持って移動が出来ないので先の街に進めるようになってくるといろいろ不都合がでそう。普通はある程度冒険をしていくつか街を巡り、気に入った場所に本拠地を定めてから、その街でホームとして購入するらしい。



 今回の私の目的は在庫の料理を売り切ることだから、バザーかレンタルがよさそうかな。継続的に売るなら委託や新規購入も有りなんだけど。


「失礼ですが、もしかしてお客様は【農業】スキルと【開墾】スキルをお持ちではないですか?」

「え? はい、ありますけど。どうしてわかったんですか」


 屋台でも借りようかと思っていた私に、マニエラさんが眼鏡をキュピンと光らせる。私のスキルは偽装されているので、【人物鑑定】を使われても分からないはずなんだけど。


「本当ですか! ……と、大きな声を出して申し訳ありません。ふたつのスキルをお持ちのお客様は初めてだったものですから。あ、どうしてというのは簡単です。初めて来られた夢幻人様には全員に聞くことにしていただけですので」

「ああ、なるほど」

「もし良ければなのですが、商人ギルドからお客様にご提案があるのですが聞いていただけますでしょうか」





<クエスト『農地開拓』が発生しました>

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