第52話 装備の秘密

 トレノス様から下賜された指輪は想像以上に凄い装備だった。アクセサリでINT+20は中級に届くかどうかというレベルの性能だけど、HPやMPの最大値を上げてくれる装備というのはかなり貴重品。それに込めるMPは10倍必要だけど最大でMPを700もストックできるというのは今の私にはありがたい。

 前線のプレイヤーだとHPMPは4桁を超えているだろうし、上級のマナポーションを使えば代用できるのでいまひとつと思うかも知れないけど、ポーション系は連続使用に制限があったりするので、ポーションに寄らない回復手段としてこれからも長く使える装備だ。


 しかもストックが多ければ多いほど水系の魔法の補正が増えていくみたいだし、満タンになった宝玉一個分のMPを使用することで攻撃魔法として放つこともできるらしいので、いざというときの隠し玉としても使えそうだ。

 素のステータスをほとんど伸ばせない私にとって装備の補正は生命線。ひとつでもいい装備が欲しい……けど、武器、上半身装備、下半身装備、靴については見習い装備限定の縛り付きなのでなかなか難しいところではある。

 

 ただ、この見習い装備。実はあの日親方が装備対策として考えがあると言っていた方法が、私のLUKさんとタッグを組んだ結果おおいに化けた。例えば現在の私の装備がこれ。


『見習いの長剣+5 STR+95 耐久∞』

『見習いのシャツ+5 VIT+36 耐久∞』

『見習いのズボン+5 VIT+36 耐久∞』

『見習いのブーツ+5 VIT+12 AGI+12 耐久∞』 

『軽鋼の籠手+3 VIT+50 DEX+41 耐久96』

『銀花のネックレス INT+16 MND+8 状態異常耐性(小)』

『白露の指輪 INT+20 MP+50 水魔法補正 ストック 解放』

『欺罔の指輪 INT+2 MND-1 ステータス偽装』

『白兎のコート+2 VIT+21 耐久64 耐寒(小)』


 御覧の通り親方の対策というのは、見習い装備をどんどん強化していくということ。これだけ聞くと至極当たり前の方法だが、ここで強化のシステムを思い出してみてほしい。


 強化はその武具に必要な素材と添加材を加えて【鍛冶】スキルの強化を使用。それに成功すれば武具が強化され、失敗したら性能はそのまま。ただし、成功しても失敗してもその武具の耐久値が減る・・・・・・。だから強化自体はルール上何度でも挑戦できるが、実際は耐久値によって試行回数が決まっていると言える。


 で、気が付いただろうか。+5まで強化に成功した見習い装備の耐久が未だに∞のままだということに。つまりこの見習い装備、性能自体はぶっちぎりで最弱だけど、耐久が減らないという特性があるので強化試行回数は無限ということになる。


 ただし+5より上は必要とされる素材の質も量も跳ね上がるため、リイドで取れる素材では質、量ともにまったく足りず現状は頭打ち状態。でも私のLUKさんがいい仕事をしてくれたおかげで、強化の失敗は一度もなく、しかも全部が『大成功』扱いで通常の強化値を遥かに上回る効果が出ている。


 検証組のまとめサイトによると、普通の強化成功は片手長剣だと性能値が元の約1.4倍(小数点以下切上げ)になるらしい。しかし、まれに発生する『大成功』が起こった場合は1.4倍された後に、さらに1.4倍されるらしい。私のLUKさんは、ここでかなりチートな働きをしてくれた。

 例えば見習い装備の性能値は長剣で3、短剣で2なので+5まで全部『成功』すると長剣は17、短剣は11にしかならない。ところが5回連続で『大成功』すると長剣は95、短剣は63まで性能が跳ね上がる。その差は実に6倍近い。しかも当然強化のデメリットである耐久値の減少はなし。


 これは親方にとっても嬉しい誤算だったみたいで、本当は時間をかけて何度も失敗を繰り返しながら大量の素材を注ぎこんで、強化値を最低でも+15くらいまで上げるつもりだったらしい。だけど+5の段階でそこそこの性能まで育ったので、そこまで無理して強化しなくてよくなった。おかげでその分の浮いた素材を、リイド住民の装備作成に回せるようになったので親方はほくほく顔だった。


 説明ついでに強化回数と耐久値に関して、ひとつ例をあげてみよう。イチノセで店売りしている鉄の剣。これは未強化状態でSTR+15、耐久200という街に着いた剣を使う夢幻人がとりあえず一度は購入を検討する装備。

 これを強化して五回連続して成功したとする。+5になった鉄の剣はSTR+83になる。しかし強化試行は成功しても一回行えば平均で2割程度耐久値が減る(失敗した場合はさらに減少率が高い場合もある)。つまり一回も失敗しなかったとしても鉄の剣+5の耐久値は66程度になってしまう。この数値はメインの武器として装備するにはやや心もとない数値。少なくともこれ以上の強化は成功しても失敗しても厳しいということになる。そう考えると見習い装備とLUKのコンボがどれだけ凄いかが良く分かってもらえるだろう。


 ま、結局のところ私は文字通り運がよかったという結論だ。リアルではそれほど運がいい訳じゃないし、ゲームの中くらいはそんなことがあってもいいんじゃないかな。


 そしてその装備の補正があったからこそ、適正レベルに到達していない私がこの森を狩場に選ぶことができたわけだ。

 ちなみに装備を身に付けた後のステータス値はこう。

 

HP: 280

MP: 520+50(570)

STR:12+95 (107)

VIT:12+155(167)

INT:12+38 (50)

MND:12+7  (19)

DEX:12+41 (53)

AGI:12+12 (24)

LUK:107


 一見してなかなかの数値に見える。でも私の場合はレベルアップによるステータスの強化がほとんど見込めないためここからの伸びしろが少ないから、この先は伸び悩んでいく可能性が高い。それは覚悟の上だったから構わないし、装備の強化が+6以上になれば強化幅がかなり大きくなるので、その分はそこで補えるんじゃないかと思う。


 つまり私の今後の目標は、活動範囲を早く広げて質の良い素材を大量に集めるってことになる。今回は森で採取をメインにしたけど、次は東の荒野の先にある山を目指すのもいいかも知れない。

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