第45話 冒険者ギルド
とりあえず偽装完了。
コンセプトはチュートリアル後にテイマーに転職したという設定。テイマーか召喚士じゃないと四彩獣を連れ歩けないし、召喚士は上位職だから事実上一択。称号、記録はばっさりと落として、加護はひとつならチュートリアル中に貰えた人も多いと予想してひとつ残す。
そして転職時の5スキルは適当にバランスよく。最後の【調教】は職業スキルなので別枠。私自身は【調教】を取得していないが、テイマーの職業スキルを覚えていないと怪しすぎるので追加した。【召喚魔法】があるからと思って習わなかったけど、【調教】も今度ニジンさんに教えてもらうか……ただ、あの人いろいろ面倒くさい人だからなぁ。必要に迫られてからでいいか。
「それじゃあ、私はそろそろいくわ。なにかあったら遠慮なく連絡してね」
「わかりました。この指輪も助かります、本当にありがとうございました」
「いいのよ、またね」
シェイドさんは小さく手を振って微笑みながら、軽く投げキッスをして人混みに消えていった。やれやれ、シェイドさんの神出鬼没ぶりにはこれからも驚かされそうだ。
「さて、まずはポータルを登録しないと」
ポータルの本体は噴水の中央にある水晶柱だが、登録や使用は噴水の東西南北にある石碑に触れることで出来るらしい。ということで南側の石碑がちょうど空いたので、そこに手を触れると視界にポータルメニュー画面が開く。ポータルの登録自体はこれだけ終わり、あとは今後ほかの街のポータルを登録すれば、有料だけどイチノセに簡単に戻って来ることができる。
「復活場所は…………あれ?」
念のためリスポーン地点を確認しようとしたところで私の指がとまる。なぜならリスポーン地点の設定画面がグレーアウトして操作が出来なかったから。
えっと……つまりイチノセしかリスポーン場所がないからってこと? いや、違うな。それにしたってリストくらいは出てきたっておかしくない、でも私のメニューは項目自体がグレーアウトしているんだから。
『無知蒙昧。なにを迷うことがある、お前はまだ〔見習い〕なのだろう?』
「あ! ……そうか」
アオに言われて気が付くとは……確かに私は〔見習い〕。そして見習いはデスペナルティがない。それは、死亡の直前にリイドの神殿前に強制的に転移させられるからだ。
ということは……私はどれだけ遠くの街に行っても死亡するほどの攻撃を受けたらリイドに戻るってことか……微妙だなぁ。現状リイドにはポータルがないから戻ろうと思ったらイチノセから歩いて帰るしかない。だけど死に戻り(死んでないけど)をすればリイドに直帰できる。それはメリットといえばメリットだけど、どっちにしろ死んだ場所に戻るにはリイドからイチノセまで歩いて、ポータルで転移して最寄りのポータルに行くしかない。これは近いうちに簡易ポータルを買って、リイドに設置しないと駄目だな。
問題は簡易ポータルって確かホーム専用の設置アイテムだった気が……リイドの街って私のホームとして認められるのか? まあ、いずれにしろ懐に余裕が出来たらの話か。
という訳で、やっと
イチノセの冒険者ギルドは一階は大きなロビーとずらりと並んだカウンター。各カウンターの上には担当業務を表示した看板が吊るしてあって、どこか銀行の窓口を思わせる。
「登録はリイドで済ませてあるから、買取か依頼の窓口かな。依頼票は……あった」
振り向いて入口側の壁をみると……あるある。さすがに本来の意味での始まりの街。お手伝い系の街中で小金を稼げる依頼から納品依頼、そして魔物の討伐依頼までいろんな依頼があって、目移りしてしまうけどいま欲しいのは……。
「あった! 良かった、これですぐにご飯が食べられる」
『納品依頼:F
癒草×10
期限:なし
報酬:300G』
『納品依頼:F
浄化草×10
期限:なし
報酬:400G』
現状、私が持っているのは道中で摘んできた癒草や浄化草。ゼン婆さんに持ち込む分もあるけど、当座の資金として使う分くらいは持っている。でも、南の草原でも採取できるようなものだからか報酬が安い気がする。さっきの串焼きが一本50Gだったから、だいたい500円くらいとして、報酬は3000円と4000円。これくらいなら依頼のために納品しないでリイドに持ち帰った方がいいか。今回の本命はこっちだ。
『納品依頼:E
グラスラビットの毛皮(白)×10
期限:なし
報酬:3000G』
【兎の圧制者】を取得するほどに乱獲した結果、インベントリへ大量に放り込まれているグラスラビットのレアドロップ(笑)。街の人たちの装備を作るのに利用しつくしてもまだ使い切れていないこいつを有効活用するときがやっときた。ちなみに私が着ている外套もグラスラビットの毛皮(白)を素材にして作られている。
「すみません、依頼を受けたいのですが」
依頼票を剥がして依頼の受注・報告のカウンターで、ちょうど空いたところがあったのでそこへギルドカードと一緒に提出する。
「はい、依頼担当エリナが承ります」
応対してくれたのは、エリナさんという栗色の髪を短く切りそろえたボーイッシュな人族の受付嬢さんだった。営業スマイルなのかも知れないけど、元気な笑顔とはきはきとした話し方で第一印象は高得点。ミラは着ていなかったけど、どうやらギルドの受付嬢専用の制服があるらしく、あまり露出の多くないきちっとした服装をしている。普通はこういうときは胸元が開いたりした色気のある服装をしていそうなものだけど、ゲームなんだからNPC(大地人)に何をしたって構わないと考えるような馬鹿な夢幻人が出ないための対策なのかもな。
「はい、確認しました。夢幻人のコチ様、依頼はグラスラビットの白毛皮の納品で間違いないですか」
「はい、間違いないです。あ、毛皮はいま手元にあるのでそのまま納品までお願いします」
「そうなんですね、それは助かります。グラスラビットの白毛皮を用いた製品はイチノセの人たちがちょっと奮発すれば買えるちょうどいい贅沢品なんですが、あまり入ってこないんです」
入ってこない? グラスラビットは南の平原に行けばいくらでも湧くし、レアドロップとは言っても普通なら10羽も倒せば1枚くらい……あ、なるほど。
10羽で1枚なら依頼を達成するためには100羽か。夢幻人にとってグラスラビットの経験値は美味しいものじゃないし、依頼のために100羽もグラスラビットを狩るくらいなら他のエリアでレベルを上げたほうが断然効率がいい。
「この街に来たばかりの夢幻人さんだと数枚売ってくれることはあるんですけど、依頼達成の10枚をまとめて持ってきてくださる方はあんまりいないんです」
「10枚じゃないと駄目な理由とかあるんですか?」
「はい、外套やマントなどを作成するのに最低10枚はないと駄目なんです。買ったものを保管しておけばいいんですけど、作成に使用した毛皮の狩った時期がずれればずれるほど完成品の質に影響するみたいなので……その点、夢幻人さんたちは素材などを保管しておく術がありますから」
「なるほど、確かにグラスラビットの毛皮は大きなものじゃないですからね。だとすると、依頼品の10枚だけじゃなくても買い取っていただけたりします?」
「え、本当ですか? もしお売りいただけるのなら勿論買い取らせて頂きます。単品での買い取りは本来150から200というところなんですが、依頼とは別に10枚以上お売りいただけるのなら全部300で買い取らせて頂きます」
それだけ品薄ならばと、私のインベントリを圧迫している毛皮たちを買い取ってもらえるかも知れないと思って聞いたんだが、エリナさんの食いつきが想像以上だった。だけど依頼がないときは200にしかならない毛皮を300で買ってくれるというならこちらとしてもありがたい。
「じゃあ、売ります」
「ありがとうございます! それでどれくらいお持ちなんでしょうか。そ、それ次第では私も今年は白兎のコートが買え……(ハッ)ん、んっ! 失礼いたしました。それではこちらにご提出ください」
「いえ、お気になさらず。エリナさんもきっといいコートが買えると思いますよ」
つい本音が漏れてしまったことを、顔を赤らめて慌てて取り繕うエリナさんは結構可愛い。私を苦しめたこの白毛皮がこの街の皆さんのお役に立つのなら、全部買い取ってもらおう。
私はインベントリを操作すると全部の毛皮をカウンターの上に……
「ふぇ! え? え、えぇぇぇぇぇぇぇ!」
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