第42話 旅立ち

「コチ君、全員とカード登録は終わっているね」

「勿論です」


 街に着いてドンガさんにドロップアイテムを全部預けたあと、日中は大体神殿に滞在しているウイコウさんにグロルマンティコア討伐の報告をした。パーティメンバーの口添えもあり、無事に卒検に合格した私が次に何をしたらいいかを尋ねたところ、以後は夢幻人らしく自由に行動してくれればいいと言われた。


 リイドとして、いろいろやってみたいことはあるらしいが、それに私がいる必要はしばらくないらしい。時期が来たら協力を求めることもあるとは言っていたけど、この街の人たちに私の力が必要になるような場面なんてそうそうないだろう。

 つまり私のチュートリアルが、いま完了したと考えればわかりやすい。


「なにかコチ君に役立つ情報があればすぐに知らせるし、コチ君の冒険に私たちの力が必要になったなら遠慮なく連絡して欲しい。カード登録がしてあればいつでも連絡ができるからね」

「わかりました」


 チュートリアルが終了して開放されたシステムは


・カード登録(フレンド登録)

 関連してフレンド間での通話、メール機能など

・パーティ機能

 関連してパーティチャットなど

・マップ機能(オートマッピング)

・時計機能(リアルとゲーム内時間の同時表示。倍率の表示)


 の4つ。いずれもVRMMOには欠かせない機能だ。


 カード登録は身分を称するカードを互いに重ねることで登録することからこう呼ばれるが、ようはフレンド登録のこと。夢幻人の場合は基本的に冒険者ギルドカードがこれにあたる。大地人の場合は様々で、商人ギルドカードだったり住民カードだったりすることもある。


 パーティ機能はパーティを組むことのできる機能で、自分を含めて6名までのパーティが組める。パーティ内ではチャット会話もできるし、ドロップアイテムの公開設定のオンオフなんかも設定できる。 


 マップ機能はその名の通り地図の機能で、街やフィールドで自分が行った場所が記憶されていく。またマップ上にメモを残すことも可能で、クエストの情報や、待ち合わせの場所なんかを登録したりもできる。


 最後は時計。チュートリアル中はリイドの時間しか表示されていなかったけど、今度からはリアルとゲーム世界の時間が同時に表示されるため、アラームと合わせて使えば現実の時間を忘れるということはない。さらにダンジョンなどに入ると時間加速が3倍を超えることもあるので、そのときは倍率が表示される。時間が両方表示されていれば必要ないと思うだろうが、その倍率でダンジョンの攻略にかかる時間を予測できたりもするらしいので意外と役にたつらしい。


「いまさら遠慮なんてしませんよ。ばんばん連れ出してこき使いますから覚悟してくださいね」

「もちろん構わないとも、楽しみにしているよ」


 ウイコウさんと顔を見合わせ、互いにニヒルな笑みを浮かべつつがっしりと握手をする。


「よし、じゃあイチノセの街へ行ってみようかな」

「リイド以外の街は久しぶりだぜ、楽しみだな腕が鳴るぜ」


 ウイコウさんと別れて神殿を出ると、アルがにやにやしながら肩を回す。


「いや、イチノセにはひとりで行きますけど?」

「なぁ! なんだってぇ! てめぇ、俺を置いていくつもりなのか!」


 いやいや、なんでそんなに驚く必要があるの? もともとリイドからイチノセまではチュートリアルが終わった初心者でも安全に到達できる道なんだから、私ひとりでもなんの問題もない。それにイチノセにはリイドの人たちの顔を覚えている人も多いだろうから、いきなり騒ぎになるのも避けたい。暑苦しく詰め寄ってくるアルがうざいので、ちゃんと理由を説明してやる。

 

「ぐぅ……確かに」

「コチさんの言う通りだぞアル」

「そうね、わたくしも残念ですけど、コチが正しいわ。わたくしくらい美しいと夢幻人の記憶にも焼き付いているでしょうから」


 常識人のレイは冷静に私の意見に同意してくれる。エステルさんの言い分は自分で言っちゃうのはどうかと思うけど……間違ってはいないか。でも、私が初めてお店に行ったときみたいに机に突っ伏して適当な対応をしていたら、まともに顔を見ることができた人はいない可能性もある?

 

「俺はしばらくミラと修行にでもいってくる。だが、用があるときは呼ぶがいい。共に駆けつけるぞ新人」

「そのときはよろしくお願いします」


 いつまで経っても新人と呼ばれるのは直らないのだろうか、と思いつつも一緒に行こうとか誘われると死ねるのでさらっと返事をしておく。あ、ちなみにメリアさんは神殿でお別れしてきました。


「ちぇ、しゃあねぇな。ちゃんと遠出するときは呼べよ、コチ」

「はいはい、頼りにしてます」

「それとひとりで行くのはいいけど、きちんと護衛に四彩を一色連れていきなさいね」

「それも、過保護な気はするんだけど……了解。アカ、一緒にくる?」

『そうね……あのへんはわちしが戦うような相手はいないから行かなくていいわ』


 エステルさんの注意喚起に、ちょうど肩にいるアカに声をかけるが戦うに値する相手がいないだろうとのことで拒絶された。お前はどこの格闘家なんだと問い詰めたいところだが、気乗りしない相手を無理やり連れ回すことはしたくない。


「了解。とりあえず強そうな敵と戦うときに呼ぶようにするよ」

『そうしてちょうだい』


 アカはそう答えると私の肩を蹴って飛び去ってしまった。さて、じゃあどうしようか。開始二カ月も経っているから、従魔や召喚獣を連れている夢幻人もそれなりにいるはずだけど……あんまり目立たないようにしたい。クロやシロはまんま見た目が犬と猫だから目立たないと思うんだけど、クロもシロも毛並みや存在感が普通の犬猫とは比べ物にならないから、逆にコアな犬好きや猫好きに捕まりそうな気がする。となると。


【召喚:蒼輝】

『ん? さっきぶりだな。なにかあったのか?』

「せわしなくてごめん、アオ。ちょっとお願いしたいことがあるんだけどいいかな?」

『我が契約者はお前だ。遠慮せず命ずればよい』


 こうして私は、ようやく第一の街イチノセへと向かうことになった。

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