第41話 修行後

 楽しかった宴会の翌早朝、私は宿に乱入してきたアルに叩き起こされ、そこから地獄の修行が始まった……んだけど、それについてはあまり思い出したくないからまたの機会に。


 結局私の修行期間はチュートリアル期間も合わせてゲーム内時間で約300日だったので、リアルで8時間経過したと考えると約900倍くらいに調整されていた計算になる。

 その後、主観で一年近くをゲーム内で過ごした僕の体調を心配した運営から、お詫びメールと無料の健康診断の申し出があった。ただ、ログアウトしなかったのは自己責任だし、自分なりの診断では体にも精神にも特に問題がないと思われたので、もしなにかあれば相談させて頂くということにさせてもらった。

 どうも運営としては、チュートリアル限定で試験的に最大加速を運用していたらしい。ただ、さすがにそんなに長くリイドに滞在するようなプレイヤーがいるとはまったく思っていなかったらしく、僕がログアウトしたあとすぐに始まりの街への滞在制限が設けられ、倍率も調整されたようだ。


 連続ログインの制限時間と同時にひとまず修行を終了し、正式に〔見習い〕を選択したあと一度ログアウトした僕は、その対応に時間を割かれた。

 それが片付くとゲーム内時間で約1年を過ごしたことによる浦島さん状態を解消するため、リアルの情報を自己確認しながら整理しつつ軽くジョギングや筋トレをした。

 これにより知識と記憶の面では違和感が解消された。だけどリアルの自分の体の鈍さには辟易してしまった。〔見習い〕のステータスが低かったおかげで違和感が少ないはずの僕ですらこうなんだから、最前線のトッププレイヤーなんかはいろいろ大変だろう。

 そんなこんなで昼過ぎまでリアルで過ごした僕が、再びCCOにログインしたと同時にウイコウさんに課せられたある種の卒業試験が、例のグロルマンティコアの討伐だった。

 グロルマンティコアの情報は時間の制約から解放されたシェイドさんが、ログアウトした僕がリアルで7時間ほど過ごしていた間に見つけてきたらしい。通常のCCO内の倍率は確か3倍速だったはずだから、一日に満たない時間で、夢幻人がまだ誰も見つけていない情報をゲットしてくるあたり、シェイドさんもやはりチートな街の住人だった。



◇ ◇ ◇


「いやあ、久しぶりに大物と戦って楽しかったな」


 グロルマンティコアとの激闘(?)を終えリイドへ戻るとアルが満足気に漏らす。私はやられても神殿に飛ばされるだけだからいいが、大地人は死んだら終わりなんだからもう少し危機感を持って欲しい。


『どうせなら最初から呼んでほしかったですわ』

「ちょ、痛いよアカ。耳を啄まないでってば、最初から四彩の皆を呼んだら街の人のリハビリにならないし、私の試験にならなくなっちゃうから仕方なかったんですよ」


 戦闘大好きなアカは途中からの参戦が気に食わないらしく、他の三色は送還に応じてくれたのに、一色だけ送還を拒否して文句を言うためだけに私の肩に止まっている。


「今回は前に出て戦わない形になりましたが、後方からの戦況判断は的確でした」

「がはははは、弓での援護も威力はないが相手の嫌がる箇所や攻撃の出鼻を挫く場所をよく狙えていたぞ」

「そうですね、それに回復のタイミングも的確でした」

「わたくしとの連携も悪くなかったし、コチのひとまずの修行成果としては十分じゃないかしら。ウイコウさんには合格と伝えておくわ」


 レイ、ガラ、メリアさん、エステルさんの今回同行した面々から及第点を貰えたのはもちろん嬉しいけれど、自分では役に立てたとは思っていないので、手放しには喜べずちょっと複雑な気分だ。


「コチ、そんな顔しないで。あなたにその選択をさせてしまったことは申し訳ないと思っているわ」

「あ、すみませんエステルさん。〔見習い〕を選択したことについては、まったく後悔していないので気にしないでください。私が考えていたのは、せっかく鍛えてもらったんだからもう少しできることがあったんじゃないか、ということですから」


 私の表情が優れないのを見たエステルさんに気を遣わせてしまったことを謝罪する。思い切って前に出て戦えば、本当に死ぬ思いで何度も何度も繰り返して練習したおかげでレベル5まで上がった【死中活】を使って役に立てた可能性が……いや、ないな。あのクラスの敵にいくら【死中活】のカウンターが入っても私の攻撃力じゃたかが知れている。


「なあに、これからだよ。これから! 実際おめぇは俺らともサシ1対1ならそこそこ戦えるくらいになってんだぜ。もっと自信持てよ! それにさっきの奴を倒してなんかいろいろ出たんだろ? それで装備やらなんやら強化すりゃいいじゃねぇか」


 アルは相変わらずお気楽だが、言っていることはそこそこ正しいとは思う。夢幻人の中に、この街の達人たちとまともに打ち合える人が何人いるのかという話だ。曲がりなりにも瞬殺されないくらいになれた私も、それなりに強くなっていると思いたいが周囲の人間が強すぎていまひとつ実感がない。 

 とりあえず、現在のステータスと新しく貰った称号や記録を確認しておこう。



名前:コチ

種族:人間 〔Lv 6〕

職業:見習い〔Lv 10/15〕

副職:なし

称号:【命知らず】【無謀なる者】【兎の圧制者ラビットタイラント】【時空神の名付親】【大物殺し】【初見殺し】【孤高の極み】【幸運の星】

記録:【10スキル最速取得者〔見習い〕】

   【ユニークレイドボス最小人数討伐(L)】

加護:【ウノスの加護】【ドゥエノスの加護】【トレノスの加護】【クアノス・チェリエの信徒】【チクノスの加護】【セイノスの注目】【ヘルの寵愛】


HP: 250/250

MP: 250/250

STR:10

VIT:10

INT:10

MND:10

DEX:10

AGI:10

LUK:107

SPステータスポイント:20

スキル

(武)

【大剣王術3】【剣王術3】【短剣王術3】【盾王術2】【槍王術3】【斧王術2】【拳王術3】【弓王術3】【投王術4】【神聖剣術4】【体術9】【鞭術5】【杖術6】【棒術5】【細剣術5】【槌術7】

(魔)

【魔力循環3】【魔法耐性7】【無詠唱】【連続魔法】【並列発動】【魔力操作】

【神聖魔法5】【火魔法9】【水魔法9】【風魔法9】【土魔法9】【闇魔法7】【光魔法7】【召喚魔法5】【付与魔法7】【時魔法9】【空間魔法9】【精霊魔法3】

(体)

【跳躍8】【疾走9】【頑強10】【豪力5】

(生)

【農業6】【畜産3】【開墾4】【伐採3】【採取8】【採掘6】【釣り3】【料理8】【調合7】【調合(毒)4】【錬金術5】【鍛冶7】【木工5】【細工5】【彫金5】【裁縫5】

(特)

【罠設置3】【罠解除3】【罠察知3】【気配遮断5】【索敵眼6】【鑑定眼7】【看破4】【死中活5】【孤高の頂き】【偶然の賜物】


 まずは種族レベルが5上がった。種族レベルは上がりにくいものらしいが、レベル1がユニークレイドボスを倒しても5しか上がらないのは悲しい。でもこれはパワーレベリング防止策のひとつみたいで、どんなに経験値を大量に得ても一回の戦闘では最大で5までしか上がらないらしい。

 ステータスに関しては、人間種族はランダムで上がると思っていたけど、どうやら全てステータスポイントとして割り振られるらしい。但し、人間は自由な割り振りができる代わりにポイントが他種族よりも少ない。具体的にはレベルアップごとに


人間 

 HP+10 MP+10 SP+4

エルフ

 HP+7  MP+13 INT+1 MID+1 DEX+1 SP+2

ドワーフ

 HP+15 MP+5  STR+1 VIT+1 DEX+1 SP+2

(ハーフや獣人はベースとなる動物などの系統によって細かく違うので割愛)


 こんな感じだ。これだけ見るとレベルが上がっていくにつれ、人間が不利になっていくように見えるが、人間は得手不得手があまりなくほとんどの職に就けるようになるし、他種族よりもレベルが上がりやすいので、プレイスタイルに合ったビルドがしやすいという利点があるらしい。いまのところ私はSPは振っていない状態。


 次はスキル。ぱっと見ではレベルがいい感じに上がっているように見えなくもない。でもゲーム開始からリアルで二カ月ということは、どんなに長くログイン出来た人でも六カ月が最長。なのに私は途中ログアウトすらなく約10カ月もの間このゲームをプレイしていた。いくら熟練度が上がりにくいと言っても、このくらいは上がっていてもおかしくない。むしろそれだけやっているのに、まだ進化したスキルが【瞑想】から【魔力循環】のひとつしかないことを嘆きたい。ちなみに【詠唱短縮】は【無詠唱】を覚えたときに上書きされたので、厳密には進化スキルじゃない。


 ほかにもいくつか新しいスキルが増えているけど、予想通り器用貧乏な感じになっている。しかも魔法をたくさん覚えてもMPが少なすぎて威力のある魔法を使うとすぐ枯渇してしまう。だから【魔力操作】を覚えて魔力運用の効率を上げて消費MPを減らし、【瞑想】から進化した【魔力循環】で常に周囲の魔力を取り込み続けるようにしている。そのうえで未使用のSPはかなりの部分をMPに振ろうと考えている。じゃないとヘルさんの寵愛のおかげでスキルレベルがガンガン上がっている【時間魔法】【空間魔法】で覚えたほとんどの魔法がまともに使用出来ないという状態が解消されない。早く時間停止とか転移系の魔法をばんばん使えるようになりたい。 


 その他のスキルもここまで上げられたのは【10スキル最速取得者〔見習い〕】のパッシブ効果があってこそ。あとは祈りを捧げた後に、ステータスに追加された神様たちの加護の力も大きい。いま私が持っている加護は、【ウノスの加護】【ドゥエノスの加護】【トレノスの加護】【クアノス・チェリエの信徒】【チクノスの加護】【セイノスの注目】【ヘルの寵愛】の七つ。

 

 加護は各神様が司るものの熟練度が上がりやすくなったり、生産などの成功率に補正がかかるという効果ある。効果の程度としては


信徒(微)→注目(小)→祝福(中)→加護(大)→寵愛(特大)


の順に加護が強くなるらしい。これだけの加護があってもこの程度ということは、やはり〔見習い〕の成長率は遅いということだろう。


 称号やらはこんな感じ。効果なんかはゲームバランスが崩壊するようなものはないと思う。でも、縛りがきつければきついほど強い! みたいな感じになりつつあるので、それでいいのか? という感じ。


 そして……兎さんたちに関しては本当にごめんなさいとしか言えない。



称号

【兎の圧制者】

 兎種の同種魔物を続けて1000羽以上倒し、兎たちの心を砕いた者に与えられる称号。

効果

 兎種の魔物に対して特効(大)。兎種の魔物に高確率で<怯え>のバッドステータス付与。兎種の魔物の逃走率上昇(大)。


【時空神の名付親】

 時空神との親密度上昇。神々との遭遇率上昇、神々との親密度に補正。

 時間・空間魔法の熟練成長率特大(ヘルの寵愛と効果は重複する)


大物殺しジャイアントキリング

 魔物との種族レベル差が50以上ある低レベルプレイヤーがその魔物を倒す。

効果:

 自分よりレベルが高い敵と戦うときステータスに補正がかかる。レベル差が大きければ大きいほど補正値も大きい。


【初見殺し】

 ユニークモンスターを初遭遇時に倒す。

効果:

 初見の敵と戦うときステータスに補正がかかる。


【孤高の極み】

 ソロでユニークレイドボスを倒す。

効果:

 特殊スキル【孤高の頂き】を取得。さらにソロプレイ時にステータスに補正(大)。HP、MP自動回復(微)。


幸運の星ラッキースター

 LUKの値が100を超える

効果:

 特殊スキル【偶然の賜物】を取得。生産系の成功率・変異率上昇,失敗率低下。戦闘行為中に味方の行動成功率上昇,敵の行動成功率低下。


特殊スキル

【孤高の頂き】

ソロでの戦闘時間が長くなればなるほど発動時の攻撃力が高くなる。チャージは戦闘ごとにオートチャージ。


【偶然の賜物】

パッシブスキル。たまたまなにかを発見するかも?


記録

【ユニークレイドボス最小人数討伐(L)】

条件

 ユニークレイドボスを最も少ない人数で倒したメンバーに与えられる記録。

※ L(Limit)この記録が限界記録であることを示す。

効果

 レア以上のモンスターとの遭遇率上昇。レアドロップ率・ドロップ数上昇。

※ 限界記録のためLUKにボーナス(+10)

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