第13話 特訓


「てめぇ! この野郎! コチ! ざけんな! こっちこいや!」


 リイド唯一の門の前で茶髪イケメンのアルが長剣と盾を振り回しながら、私に怒声を浴びせている。

 だが、雑音など気にせず集中を続けると長杖をアルに向ける。


【火弾】……【水弾】……【風弾】……【土弾】……【火弾】……【水弾】……【風弾】……【土弾】……【火弾】……【水弾】……【風弾】……【土弾】……

おっと、MPが切れた【瞑想】。


「おい! コチ! 無視すんな! てめぇ、また【瞑想】なんかしやがって、まだ続けるつもりだな! いい加減にしろ!」


 うるさいな、アルは。門番としての腕が鈍らないように協力してあげているんだから、むしろ感謝してほしいくらいだっていうのに。


 現在私は、エステルさんの指導のもとに制約のせいで門の近くから離れられないアルを的にしつつ魔法の特訓中だ。


 エステルさんに弟子入りしたあの日。すでに【瞑想】を取得済みだった私に驚いたエステルさんは、どうやって取得したかを私に問い詰め、その話でひとしきり笑ったあと、「さすが夢幻人ね。成長が異常だわ」とこぼして指導の舵をスパルタ方面に切った。

 つまり、「ひたすら撃つべし」である。


第一段階

スクロールを使ってスキルを取得するまで撃ちまくる(MPが枯渇したら【瞑想】)

【火魔法】【水魔法】【風魔法】【土魔法】を取得。

第二段階

覚えた魔法を撃ちまくりながら詠唱を短縮していく(MPが枯渇したら【瞑想】)

【詠唱短縮】を取得。

第三段階

短縮できたら撃つ間隔をできる限り短くして連発していく(MPが枯渇したら【瞑想】)

【連続魔法】を取得予定。←いまココ

第四段階

【連続魔法】で10秒あたりの発動回数を増やしていく(MPが枯渇したら【瞑想】)

【並列発動】を取得予定。

第五段階

【無詠唱】を取得するまでひたすら撃つ。


 ここまでがエステルさんが私に課した初級編の課題。各スキルについてのある程度の説明はあったが、細かい指導はなかった。

 エステルさん曰く、「コチみたいな夢幻人なら、これだけ大雑把でも十分よ」だそうだ。実際、この訓練を始めてから二日目で第二段階まで達成したが、その時間のほとんどは第二段階で費やした。チュートリアル状態のプレイヤーでもこれだけ取得が困難ということは、第二段階以降のスキルは上位スキルの可能性が高い。場合によっては特殊なクエストをクリアしないと取得できないようなスキルかも。


 ということで、ここから先はある程度時間がかかることが予想される。特訓を継続するのは決定だけど、また街の人を待たせてしまうことを考えると、チュートリアルクエストも進めながらのほうがいいかな。次のMPを使い切ったら店に戻ってエステルさんに確認してみよう。


「おい! 聞こえてるんだろうがコチ! おまえ今日はただで街に入れると思うなよ!」


 う~ん、アルがうるさい。エステルさんが動く的を狙ったほうが早く上達するって言うから、アルの行動圏外から一方的に魔法を撃っているだけなのに。どうせ私の魔法がアルを相手に当たるわけがないし、仮に当たったところでダメージなんてあってないようなもの。どうせ門番で暇しているんだから私の訓練に付き合ってくれてもばちは当たらないはずだ。





「ただいま戻りました」


 魔法屋の扉を開けて中に入ると、カウンターの向こうに座っていたエステルさんが、ちょっとだけ嬉しそうに表情を綻ばせる。


「おかえりなさい、コチ。でもあなた……いま神殿の方から帰って来なかった?」

「そうですね、街に入るときに的にされていたアルから襲撃を受けまして……応戦したんですが、さすがにまだ勝てなくて神殿送りです。【剣王術】を覚えて少しは打ち合えるようになりましたけど、やっぱり強いですね」


 エステルさんは私のために用意してくれていたのか、カップに淹れたハーブティーを手渡しつつ、くすくすと肩を震わせている。


「確かに『動く的を狙え、例えばアルレイドとか』的なことは言ったけど、まさか本当にアルレイドを的にするとは思わなかったわ」

「ありがとうございます。いや、でも実際いい方法だと思いますよ。なかなか当たらないし、当たってもほとんど効かないから、こっちも遠慮なく絶対当ててやるって集中できますし。事実、さっき【詠唱短縮】を取得できましたから」

「あら、さすがに早いわね、というか早すぎだわ」


 もらったハーブティを口に含むと、ぬるめのハーブティから爽やかな香気が鼻に抜けていく。相変わらず美味しいな、これ。この街で売っているなら少し買い込んでいくか、作れる人がいるなら製法を知りたいな。そのためにも街の探索は欠かせない。


「早いといっても、次の段階はもう少し時間がかかりそうです。なので、エステルさんの課題と並行して次のクエストも進めていこうと思うんですが、構わないですか?」

「え? もう来なくなるの?!」

「え? いえいえ! ちゃんと毎日顔を出して、途中経過を報告します。でも半日くらいはクエストの進行に時間を使いたいっていうだけです」

「あ……そ、そうよね。あなたはわたくしの弟子ですもの、報告は大事だわ。うん」

「はい、もちろんです」


 私の答えにどこか安堵したような表情をしたエステルさんは、気を取り直したように頷く。


「わかったわ、確かにあなたはもう攻撃魔法を取得しているから次のクエストに行けるわ。ちゃんと訓練して報告に来るというなら、クエストを進めるのもいいかも知れないわね」

「了解です。確か次は薬屋さんでしたよね」


<チュートリアルクエスト4『魔法を覚えよう』を達成しました>

<報酬として100Gを取得しました>

<チュートリアルクエスト5『薬屋でポーション』を受領しました>


 お、クエストが進んだ。薬屋でポーション……をどうするクエストなんだろう? ま、いけばわかるか。


「じゃあ、さっそくいって『ナァ』ま……す」


 エステルさんに挨拶をして薬屋さんに向かおうとした私の言葉に可愛らしい音が重なる。なんだろうと思って音の元を探すと、カウンターの向こう側からカウンターの上に綺麗な黒い毛並みの生き物が飛びあがってきた。


「ん? あ、黒猫。エステルさんが飼っている猫ですか? それとも魔女に黒猫と言えば、使い魔的な?」

「……違うわよ。この子は魔力の強い場所が好きみたいで、私の店にちょくちょく潜り込んでくるのよ。でも、ここでは・・・・悪さはできないから問題ないわ」


 へぇ、猫なんていたずらをするのが当たり前だと思っていたけど、この黒猫はエステルさんのお店の中ではおいたをしないらしい。結構エステルさんに懐いているってことなのかな?


「可愛いですね、触らせてもらえると嬉しいんですけど……」

「……やめておきなさい。……猫はきまぐれよ」


 本当は凄く触りたいけど……エステルさんがそう言うなら我慢するか。あとで店の外で再会できたらこっそりもふらせてもらおう。

 黒猫は私たちを横目で伺っていたが、すぐに興味をなくしたように丸くなって眠り始めた。うん、猫っぽい。猫系の魔物もテイムできたらいいな。


「じゃあ今度こそ薬屋さんに行ってきますね」

「いってらっしゃい。ゼン婆によろしくね、場所は銀花亭の隣よ」

「はい、行ってきます」





名前:コチ

種族:人間 〔Lv1〕

職業:見習い〔Lv1〕

副職:なし

称号:【命知らず】【無謀なる者】

記録:【10スキル最速取得者〔見習い〕】

HP:100

MP:100

STR:1

VIT:1

INT:1

MND:1

DEX:1

AGI:1

LUK:97

スキル

(武)

【大剣王術1】【剣王術1】【短剣王術1】【盾王術1】【槍王術1】【斧王術1】【拳王術1】【弓王術1】【投王術1】

【体術1】【鞭術1】【杖術1】【棒術1】【細剣術1】【槌術1】

(魔)

【瞑想1】【魔法耐性1】【詠唱短縮】

【神聖魔法1】【火魔法1】【水魔法1】【風魔法1】【土魔法1】

(体)

【跳躍1】【疾走2】【頑強1】

(生)

【採取1】【採掘1】【料理1】

(特)

【罠設置1】【罠解除1】【罠察知1】【死中活1】 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る