なぜ前に聞かなかったのか? 8

 聞いて回ってみても芳しい返事はない。要するにわざわざ職員室の黒板なんか見ていない、ということだ。野球部が使っているという教室も覗いてみたが、入るのを辞めた。宿題が終わってから突撃しよう。とりあえず自分の仕事が終わってしまった俺は、体育館に向かうことにした。バレー部やバスケ部にもしかしたら割り当て表を持って行った人がいるかもしれないし。

 野球部が使っている教室を離れると、明かりのついている教室がもう1つあることに気付く。中を覗くと牧羽さんがイスに座っていた。牧羽さんに見つかったので、中に入る。

「サボリ」

「やることは終わったし。野球部は声かけられる雰囲気じゃなかったから。というかそっちこそ」

 牧羽さんは「シッ」と人差し指を唇付近に立てた。牧羽さんの説明が小声で始まる。この教室はバレー部が昼食を摂るために取ったのだという。しかしまだ早いので、コメントを書いてもらっているそうだ。終わった人は試合のビデオを見ているらしい。ちなみにこちらも収穫ゼロ。

「じゃあ、これで全部だから」

 バレー部の部長らしき人がコメント用紙を持ってくる。

「本日欠席者等はいませんか?」

「いないよ。これからみんなで練習試合に行くから」

「万田中でしたっけ」

「そう。あ、これ多目的ホールの近くに貼るんでしょ。見たよ。ついでに卓球部に体育館を開けたこと伝えておいてくれる? なんか会議中っぽかったから声かけづらくて」

 部長はもといた席に帰っていく。万田中ならここから自転車で30分程度。確か1時からだから昼食にも早すぎるし、練習をするにも中途半端、というわけか。

 2人で教室を後にすると、自然と足は体育館に向かっていた。お互い目的は同じ。バスケ部のことが気になっているというわけだ。

 入り口のドアをそっと開けると、澄香となぜか篤志がいた。白いTシャツにハーフパンツの男子生徒、ショッキングピンクのTシャツにハーフパンツの女子生徒、2人が男女バスケ部の部長であろう、と話をしている。

「どうした?」

 隣にいた篤志に聞く。

「小倉さん、コメントの催促してるんだけど、聞いていても、後でね、の一点張りだから僕が援護射撃してた」

 篤志は直接こっちに来たわけか。

「作文の件は?」

 牧羽さんが尋ねる。バスケ部の部長2人がこちらを覗きこんでいる。

「作文と標語を提出してないとその部活に活動停止命令を出すって話。太田先生に頼まれたじゃない」

「そうだな。そっちも伝えるべきだが――」

 そういって篤志が振り返る。

「それ、どういう意味?」

 ショッキングピンクの方が歩み出る。

「バスケ部は作文と標語の提出率が悪いらしいですよ」

 部長2人が目くばせした。奥の方ではドリブルの音が止まっている。どうやら練習を止めてこちらのことをうかがっているようだ。不安そうな表情を浮かべて、中にはコソコソと内緒話まで始めるような部員もいた。

「帰って」

 ショッキングピンクの生徒が言うなり、澄香を押し出す。つられて俺たちも追い出された。ピシャリという言葉が当てはまるように扉が閉められてしまった。

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