なぜ前に聞かなかったのか? 11
無粋に尋ねる必要もない。研究部が聞き込みに行った後、ヨウ先輩はスマホに保存してある何かを卓球部の面々に見せたのだ。おそらく証拠にはなる。でも、スマホの持ち込みの方で揚げ足を取られてまうのは確実だった。おそらくバスケ部に交渉しに行くつもりだったヨウさんは譲らず、井ノ上先輩がスマホを預かったのか奪ったしたのち絹谷先輩が預かり、彼女もまた逃げ回ったのだろう。そうして卓球部全員で2人を探しに回ったのだ。
ヨウ先輩は受け取ったスマホをすぐに操作する。「研究部にも、今だけナイショ」と小声で言ってスマホの画面を見せた。何と予定表を写真に撮ったものだった。
午前A面 : 午前B面 | 午後A面 : 午後B面
男バス→卓球 : バレー(~11:00) | 男バス→ : 女バス→
女バス→卓球 : 男バス→バレー | バレー→ : 卓球→
男バス→卓球 : 女バス→バレー | バレー→ : 卓球→
卓球練習試合 : バレー | 男バス→ : 女バス→
女バス→卓球 : 男バス→バレー | バレー→ : 卓球→
男バス→卓球 : 女バス→ | バレー→ : 卓球→
卓球 : 男バス→バレー | 女バス→ :
お盆休み期間
卓球 : バレー | 男バス : 女バス
男バス練習試合: 女バス練習試合 | 卓球 : バレー
見方としてはバレーがバレー部、男バスが男子バスケ部、女バスが女子バスケ部、卓球が卓球部が割り当てられていたということだろう。そして、右向きの矢印の隣に卓球、またはバレーの文字が入っているところは赤字で書かれている。パソコンで打ち出したときに訂正箇所が分かりやすいようにしたのだろう。
仮谷先生と太田先生はヨウ先輩に写真を撮るのは違反、ということを指導している傍ら、先輩方はまあ研究部だから、と言った。
まず、今日が一番上の段だ。これによる元々男子バスケットボール部とバレー部が午前中に入っていたことになる。しかし、訂正が入っているので男子バスケ部の代わりに卓球部が入ることになっている。
お盆休みの前にはすべて男子バスケ部、女子バスケ部に訂正が入っている。どうやらこの1週間は体育館練習はない予定になっていたらしい。なぜこんなに訂正が入っているのだろうか。
一番上の段、今日の使用予定はA面がバレー部、B面がバスケ部となっている。けれど、バスケ部が訂正されて卓球部になっているから、今日の割り当てはバレー部と卓球部、ということになる。
「これって、いつ撮ったものですか?」
「3日前」
ヨウさんが答える。つまりその時点では体育館の割り当て表を訂正されていた。けれどもバスケ部は来た。
「昨日は来てないからわかんないけど、一昨日までこれだったはず。ね、万衣子」
「そうだったね」
井ノ上先輩と絹谷先輩が確認しあう。
「もしかして違うから捨てちゃったんですか?」
牧羽さんが聞くと、2人の先生から解放されたヨウ先輩が「そう」と答えた。再び指導が彼女に降りかかる。
「ということは今日ヨウ先輩が取っていってゴミ箱に放り込んだのは訂正前。前日まではこの訂正前と訂正後の2枚が貼ってあったんだ」
おそらく訂正前の割り当て表をはがすことなく、上から訂正後の割り当て表を貼ったのだ。そうすれば上から貼ってある訂正後の方をめくらない限りは2枚あると気づかない。紛らわしいから捨てればいいものを。しかもおそらくマグネットで留めてあった。間違って訂正後の方が剥がれたら正しい情報が分からなくなるじゃないか。
「太田先生、昨日貼ってあったのは、どちらだったんですか?」
指導が終わった太田先生に聞く。
「ごめん、貼ってあるなー、しか見てなくて」
「どちらでもいいじゃないですか、そんなこと」
そこにやってきたのは、増田教頭先生だった。
「ま、増田教頭先生」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか、太田先生。これでも研究部の顧問なものでね」
セリフとは真逆で、引き連れているのは卓球部1年のよいこたち8人だった。ただし、今は全員顔が引きつっている。
「蓬莱君、何か聞きたそうな顔してますね」
バレたか。
「彼らは何かしたんですか?」
「さあ。校長室の壁に張り付くというトレーニングをしていたので引き連れてきたまでですよ。ついでにこちらからも聞きたいことをたっぷり聞けたので不問にしますが」
盗み聞きしてたわけか。太田先生が「まったく」とつぶやく。
「さあ、卓球部もお行儀いい子たちですし、今日は帰宅させましょう」
顧問2人がため息をついた。
「研究部の方は、そうですね。もう少し仕事してもらいましょうか」
増田先生は手招きをする。何も言わずついていくことにした。
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