銃と剣 59

「岡っち、潤一は?」


 岡崎が顔を上げれば、颯太が目の前に立っていた。

 相変わらずヘラヘラした顔をしてる奴だと、岡崎は思う。かと言って、岡崎は別に彼の事が嫌いなわけではない。


「知らね。職員室じゃねえの?」

「マジで? 時間かかりそう?」

「かかんじゃないの? 知らないけど」


 ぶっきら棒な対応はいつもの事だ。特に彼の機嫌が悪いとか、悪くないとかの話ではない。


「えー。マジかよ。岡っち、このオレンジジュース上げるから、潤一に今日一緒に帰ろって俺が言ってた事伝えといて」

「え、めんどくさい……」

「一言じゃんっ。あいつ俺のメール見ないからさ。ほら、オレンジジュースやるから。じゃ、頼んだっ!」


 そう言うと、颯太は岡崎にオレンジジュースを投げて寄こす。

 ……ん?

 岡崎は思わず両手で受け取ってオレンジジュースに違和感を感じる。思わず、廊下を走る颯太を追おうと、窓から顔を出せば、颯太が走りながら大声をだす。

 

「それ、熱いから気を付けろよっ!!」


 ……ホットオレンジジュース……。

 何でオレンジジュースをわざわざあったかくするのか。

 そしてこれは誰が飲むのか。

 そして次、志賀に会ったら絶対に殴る。

 岡崎はそう思いながら、潤一の机にホットオレンジジュースを置いた。

 しばらくして、潤一が席に戻ってくると首を傾げてオレンジジュースを見る。

 

「誰の?」

「俺からの差し入れ。毎日頑張ってる貴方に」

「急に上から目線の労い方だな。ま、いいや。ありがと」


 潤一はそのままオレンジジュースには触れずに持ってきたノートを岡崎に差し出す。 


「岡崎、お前のノートも一緒に貰ってきたぞ」


 どうやらオレンジジュースは明日の朝までそこに放置される運命だろうなと、岡崎はつまらなそうに手を差し出した。

 なんだよ。まったくもってつまらない結果だ。


「ありがと。あ、やべ、落書き消してなかったわ」

「何だそれ」


 潤一が岡崎のノートを覗き込んで、クスクスと笑う。そういえば、こいつ最近よく笑うなと岡崎は潤一を見て思った。


「あ、黒川。さっき志賀が来てた」

「あ? 颯太が? 何の用だって?」

「今日一緒に帰ろって。彼女かよ」

「やめろ、気持ち悪いし、でかいし、怖いだろ。あんな女いたら」


 本気で嫌な顔をしながら、潤一はノートを捲る。


「仲直りしたの?」

「だから、喧嘩なんてしてねぇよ」

「でも、前は志賀と話さなかったし、一緒にも帰ってなかった」

「……何だよ、急に」

「喧嘩してたって、認めさせたいだけだよ」


 頑なに潤一は颯太と喧嘩していたとは認めない。

 実際していないのだから、認めなられいと、堅い頭ではおもっているのだろう。しかしながら、昔からの付き合いである岡崎や刈谷等は、仲良し幼馴染コンビの仲が決裂してしまったと、内心とても心配していたのだ。

 彼らが特に何かをしたわけではないが、そこまで、やきもきとさせたのだから、せめて喧嘩したぐらいは認めて欲しい。


「で、今は仲直りして元通りって、俺と隼人を安心させるぐらいはしろ」

「何だ、お前と刈谷って俺達の事を心配してたわけ?」

「当たり前だろ。俺も隼人もお前らの間にあったいざこざは知ってるし、あれから全然お前ら喋んないし、若干、野球部だったあいつも俺も関係ないわけじゃないし。で、認めて謝ってくれるわけ?」

「要求が一つ増えてんぞ」


 岡崎と刈谷には悪いと思うが、潤一には謝る意思はこれっぽっちもない。

 だって、確かに、潤一と颯太は喧嘩なんてしていなかったわけだから。


「謝らないし、認めないし。だけど、元通りだから安心はしろよ」

「潤は頭堅いな」

「颯太の真似かよ」


 似てないなと、潤一は笑う。


「俺の方が、颯太の真似上手いわ」

「なんだそれ、どっから沸いてくんの? その自信。一度も似てる所見た事ないんですけど」


 潤一は岡崎のその言葉に一瞬、あっとした顔をすると、すぐさま悪戯っぽく笑みを浮かべた。

 

「その話なんだけど、訂正するわ。俺達、似てるんだよ。中身がさ」


 彼にあの時言われた言葉を思い出す。

 性格がいくら正反対でも、いくら、考えて方が違っても、離れていても。

 似ているのだ。一番、大切な所が。


「だって、親友だからさ」


 今日もきっと、彼は颯太とあのゲームの世界を駆けまわるのだろう。

 親友と、笑いながら。

 もう、あの世界に可哀想な辻斬りなんて、何処にもいないのだから。


 銃と剣 おわり

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