銃と剣 58
「っ」
「あのさ、お前、勘違いしてるから」
颯太は殴った潤一の襟をつかみ、まっすぐと潤一を見る。
「俺は、弱くないよ。潤一、お前だって弱くない」
目を覚まして欲しかった。
「一言言ってくれれば、よかったんだよ。お前はいつもなんで、そうやって一人でなんでもかんでも抱え込もうとするんだよ。お前に、お前のチームに俺は要らないのかよ」
一緒のチームになんてなった事はなかったけども。
それは、酷く腹立たしい。
だって、相談してくれないとは、そう言う事じゃないか。
自分は、その頭数にも入っていないと言う事じゃないか。
「……だって、一緒のチームになった事、ないじゃん」
思わず、潤一がポロリとそんな言葉を口にした。
だから、笑ってしまうのは仕方がない事なのだろう。だって、颯太だってまったく一緒の事を考えていたのだから。
「いいんだよっ。これから一緒のチームに、クランになんだからっ! まずは手初めてに先輩達を倒そうぜっ! 二人でやれば怖くねぇよ。潤一が切れない所は、俺が撃つし、俺が撃てないところは、潤一が切ればいい。無敵じゃんかっ」
負けてもいい。何回だって、戦えばいい。
代りの奴が連れてこられたら、何度だって俺達で救えばいい。
二人なら、何でもできるに決まってる。
そう、颯太は泣き笑いながら潤一に手を差し出した。
「……お前一人が増えた処で、何が変わるんだよ」
潤一が顔を伏せる。
「……潤一」
「だって、お前トロいんだろ」
でも、そう、笑いながら潤一は颯太の手を取った。
「お前だってトロい時、あるじゃん」
「ねぇし。ほら、いつまで泣いてんだよ。さっさと行くぞ。今から先輩倒しに行こうぜ。ついでに今まで俺が稼いだアイテムもパクる」
「泣いてねぇし! しゃーねぇなぁ。付き合ってやるよ。あ、瓶爆弾だけは返してな。あれ、借りものだから」
「あっ、あれもしかして罠かっ!」
「気付くの遅っ、トロっ」
「は? おまえ方がトロいし」
そう言って、二人は笑い合う。
が、しかし。パチンと強く手の叩く音が二人の笑顔をピタリと止めた。
「はい、そこで友情育んでるお二人さん、ストップ。ちょっと、これが言うことなのか、詳しくお聞きしましょうか?」
二人が振り向けば、目を吊り上げて仁王立ちをしているFと、ため息をついているNの姿。
この後、作戦と違う行動をとった颯太はNとFにこってり怒られ、辻斬りだった潤一はその場にいた全員に頭を下げたが、こんなゲームだとNとFは笑って、これはここにいるメンバーだけの内緒だと提案した。
Fのシールドに囲まれた先輩達は随分と怯え、REDSPEARは今後潤一達には近づかないとNとFの前で誓わされていた。まるちゃんや春風の団員に囲まれ、あんなにもしおらしい先輩達を見たのは初めてだと、潤一も颯太も思った。
ただ一つ、問題があるとすれば。
目慌ただしく変わっていくこの空間に、二人ほど、いなくてはならない人物がいない事に、誰一人気付いていないのはその為だろう。
「あれ、先輩が一人いなくね?」
一人、誰かが気付く。
「あー。余りにも抵抗するもんだから、春風の子達が怒って倒しちゃったんだよ」
「そうなんっすか?」
「ま、残りの三人にこんだけ釘を指せば十分でしょ」
そう、Fが笑った。
そう、REDSPEARのメンバーは一人、頬に傷を付けられ地上に戻ったのだ。
その彼は今……。
「見つけた」
金色の髪の美しい青年が、頬に蚯蚓腫れを追った少年の肩を叩く。
「ちょっと、いいかな?」
「はぁ? あの、忙しいっすけど」
負けてしまった腹立たしさを隠そうともせず、少年は青年を睨み付ける。
それでも、青年はニコニコしながら、青年の肩を掴んだまま話さない。
「ちょっと、聞きたい事があるんだよ。REDSPEARのクランごと消えたくないだろ?」
そう、青年は笑った。
何で、REDSPEARの事を? ゲームの事を? 何故、身バレを?
「ちょっと、こっちで話そうか」
にっこりと、両手を広げて白い歯を見せて青年は笑う。
「あれ、なっちゃんさんは?」
漸く、誰か一人が気付いたが、もう遅い。
「さあ? いてもいなくても別にいいし。いたら邪魔だし、どうせ碌でもない事しか考えてないし、してないだろうしね」
そう言って、Fは舌を出す。
本当に、残念ながら、それは今、正に行われているだなんて露程も知らずに。
こうして、『辻斬り事件』と銘打ったこの世界での細やかな事件は、実にあっけなく、実に騒がしく、そして、慎ましく終わりを告げたのだ。
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