銃と剣 56
「よう、潤一。お前、こんな所で何やってんの?」
「……お前こそ、何してんだよ。ログインすんなって言っただろっ!」
潤一の怒鳴り声が響く。
全部、全て、颯太の事を思っての言葉なのは、嫌になるぐらい、颯太だって、分かっている。
でも、今は。
「聞くわけねぇだろっ! 自分勝手な事ばっか言ってんじゃねぇぞっ!」
今度は颯太が大声を張り上げる番だった。
「俺を止めさせたかったら、お前が止めて見ろよっ! 今から勝負しようぜ。お前が俺を倒したら、俺はお前の言う通り、このゲームを止めてやるよ」
「は? アホか。勝手に一人でやってろよ」
潤一は呆れたように声を出す。それはそうだろう。
倒すとは、すなわち、どちらかのゲームオーバー。
彼の望みは、颯太にあの痛みを味わって欲しくないのだから。
「やんなくていいのか? でないと、俺はずっとこのゲームにログインし続けるぜ。それに、今、栄公園の方面騒がしいじゃん。何かあるのか見てこようか?」
急に、先ほどまで取り合いもしなかった癖に、その一言で潤一の顔付が変る。
公園には、先輩達が走って行った。
もし、もし、何かの拍子で颯太がこのゲームにいる事がバレてしまったら……。
「……本当だな?」
潤一は、刀を構えた。
覚悟は出来た。奴隷なんて俺一人で十分だと、潤一は颯太を睨む。
「何が?」
「俺が勝ったらこのゲームに二度とログインしないって話だよ。アホ」
「勿論、でも、俺が勝った時の場合、聞かなくていいのか?」
その言葉に、潤一は鼻で笑う。
「お前も知ってんだろ」
いつから一緒いると思ってんだよ。そう、潤一は笑うのだ。
お前の事は何でも知ってる。お前じゃ、俺に勝てないと言う事も。
「俺は有り得ない事、嫌いなんだよっ」
潤一が地面を蹴った。同時に、颯太も銃を撃ちながら後退する。
スピード面では、どうしても勝ち目が颯太にはない。
懐に一歩でも入り込まれたら終わり。
一定の距離を常に開け、芝生を駆けまわりながら潤一に向かって銃を撃つ。
銃の動きなんて酷く単純で、潤一は左、右と場所を振りながら避けている。銃弾は常に、銃口から一直線にしか飛ばないのだから。
そんな事ぐらい、使い手である颯太が一番理解している。
「やっぱ、当たんねぇかっ」
別に、当たらなくても構わない。これはただの時間稼ぎだ。
直線距離で追われれば、潤一は颯太にすぐにでも追いつくだろう。
そうはさせないための、手段に過ぎない。決して攻撃ではないのだから。
颯太は決して一定以上離れず、近づかせず距離を取りながら目的の階段まで駆け上がる。
階段の上には、広い空間、水のある場所。
颯太は潤一から狙いを外し、近くにある丸い石のオブジェクトを狙った。
その行為は階段を上がりながら撃った為、大きく的を狙う事を失敗した様に見えた。
一体、何処を狙っているんだ。
「はっ。この、ノーコン野郎っ」
しかし、次の瞬間、瓶の割れる音を聞いて、潤一はそれが間違った考えある事を思い知る。急いで飛び上がり頭を抱えて距離を取る。
その刹那、当たり一面に爆破音が響き渡った。
その正体は……。
「瓶爆弾かっ」
潤一の声に、颯太は笑う。対応は早いが、気付くのが遅い。
そう、颯太はここに数個の瓶爆弾を配置しているのだ。
クソ野郎っ。
ちらりと颯太の方を見れば、次の瓶爆弾に向けて、銃を構えている。潤一は大きく反対側に飛び上がり、颯太の銃口の先を見ながら追いかける。
そう、それでいい。
颯太は自分に言い聞かせた。きっと、今、自分は焦っているのだ。
早く早くと急かす言葉ばかりが颯太の頭に浮かんでは消えていく。
もっと、もっと。早く、早く。
「颯太っ!」
鬼ごっこは、いつも潤一が一番だった。だけど、隠れん坊は、二人一緒に隠れて見つかる。
「待てコラっ!」
「待つわけねぇだろっ」
でも、ケイ泥は、颯太のチームが一番強かった。
ゲームはどっちもどっち。反射神経だけ馬鹿みたいにいいなと、他の友達に笑われた。
球技はどっちが強いって事はなかったけど、潤一のバスケのドリブルは低すぎて無理って周りに言われてた。身長が低いからだと、颯太はこっそり思っていた。颯太はよく、ハンドボールを褒められてた。ジャンプ力が凄いんだって。
いつも、仲が良くて、いつも一緒にいて。
だけど、いつもいつも、チームはバラバラにさせられてて。
不満はなかった。
潤一も強い。
颯太も強い。
だから、別々のチームにならなきゃ不公平だって、皆んなが言うんだ。
だから、そうじゃなきゃ可笑しいと思ってた。
別に不満はない。
だけど、たまにふと、バスケしながら、ハンドボールをしながら、ドッチボールをしながら、相手チームにいる、颯太を、潤一を見ながら、ふと思う。
一緒にチームを組めたらどうなるんだろう、と。
あの時、あの幽霊屋敷の時の様に、幽霊に勝てるぐらい俺達は最強になるんじゃないだろうか。
「クソっ! やっぱり、アイツ、足早いなっ!」
二人一緒なら、もっともっと、強くなるんじゃないだろうか。そう、思わずにはいられなかった。もし、と、思わずにはいられなかった。
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