銃と剣 47

 しかし、そこに居たのは、潤一ではない。

 

「……ふーちゃん?」


 泣きながら叫んでいるとふーちゃんと、それを必死に巨大で縫いぐるみやら折紙などやらで泣き止まさせている、まるちゃんの姿だった。

 

「……な、なんなんっすか!?」


 思わずこの異様な、いや、理解が追い付かない場面に颯太がなっちゃんに問いかける。


「この前の襲撃以来、ふーちゃんずっとあんな感じでさ。どうやら、君をちゃんと守れなかったのが申し訳なくて、泣きながら僕たちにどうすればいいんだろうって聞くんだよねー。ふーちゃんが泣いてると、こっちまで心苦しくてさ。皆んな、ぬいぐるみとかお菓子とか絵本とか持ってきてはふーちゃんを慰めるんだけど、全然効果ないんだよね」


 ぬいぐるみと、絵本とお菓子って……。

 思わず颯太はそのチョイスに呆れ顔を見せる。

 どう聞いても幼稚園児か何かに対してだろう。


「いや、慰め方おかしくないっすか?」

「僕たちもどうしたらいいかわからなくてね。だからね、ちょっと一発ガツンと君からふーちゃんに言ってやって欲しいんだよね」

「クヨクヨするなとかですか? それ、逆効果じゃないですか?」


 流石に自分のせいでああなっているのは申し訳なくて力になりたいが、そう簡単に元気になってくれるのだろうか?

 特に、ガツンと言ったところで余計落ち込むだけではないのか?


「いや、もっと軽い感じで。例えば、痛いの好きだから、あの痛みはご褒美だったって一発ガツンと」

「何で!?」


 何をガツンとだ!何を!


「それなら、ふーちゃんも、あっ! そうなんですかぁ。良かったー! 人助け出来たー! とか言って笑顔になるかと思って」

「思わねぇから! なっちゃんさん、本当にふーちゃんの事を考えてます!?」

「考えてるよ。あれからずっとあの様子だよ? クランの皆んな心配で、心配で、ふーちゃん元気出して会まで開いたぐらいだよ?」


 所々の木々に折り紙で作った飾り付けがされているのは、そういう事か。


「まるちゃんなんか、ふーちゃんが心配で、ご飯が喉に通らなくて、ゼリーしか食べてないんだよ!」

「ここのクランの意外性、どこ迄行くんっすか……」


 どこから突っ込めばいいのかと、颯太は肩を落とす。


「君は怒ってないの?」

「へ?」


 突然、降ってきた言葉に颯太は顔を上げる。


「わざわざこっちまで来て、辻斬りに襲われて、クラン員はゲストである君を誰一人守れなくて。君は怒らないの?」


 なっちゃんの真っ直ぐな声が、颯太に向かって弓矢の様に真っ直ぐ届く。


「……怒らないですよ。ふーちゃんも皆んなも、俺のこと守ってくれたじゃないですか。ふーちゃんも皆んなも悪くないし、逆に力になれない自分に腹が立ちました」

「君もいい子だね。多分、ふーちゃんに取って、君はここでの初めての友達だと思うから、あんなにも自分を責めてるんだと思う。正直にその気持ち、伝えてあげてくれるかな? ちょっと引くかもだけど、仲良くしてあげてね」

「……友達、ですか? え? でも、なっちゃんさんとか……」

「僕らは家族だよ」


 静かに、それでいて、嬉しそうでいて、誇らしく、なっちゃんが答えた。

 クランなんて、誰一人血など繋がってはいないし、他人の集合体である。だけと、その他人に、背中を任せて、命を預けて、言葉を交わし、互いを信じて、この世界で生きていく。それは、最早血の繋がっていない家族の様なものだと、彼は思う。

 

「春風は家族なんだよ。僕がお父さんで、まるちゃんがお母さん。皆んなが子供。FとNは親戚の柄の悪い叔父さん達。だからね、僕たちがどれ程ふーちゃんを励ましても、家族の欲目があるからって、ふーちゃんは思っちゃうんだよ。いい子だから。自慢の息子だけどね」


 クランによって、クラン内の関係性は大きく違う。どれ一つとっても、他とは違う関係性を築き上げているのだ。


「家族も大切だけどね、やっぱりあれぐらいの歳にもなれば、友達も大切なんだと僕は思うよ。君はうちの家族にはきっとならない。だから、出来ることならば、君は君の位置でうちの子と友達になって欲しい。さあ、本当にそろそろ泣き止ませないと、まるちゃんもふーちゃんも倒れちゃうよ。ビシッとカッコよく行ってきてね!」


 とん、となっちゃんに背中を押され、颯太は前に出た。その足音気付いたのか、まるちゃんが颯太を見て、お辞儀し席を外す。

 本当に不思議なクランだ。


「ふーちゃん」


 人を倒すゲームなのに。ここだけは、穏やかな家の中の様な。


「るー、きー、さん」

「ぶはっ! なにその声! 何、泣いてんの?」

「るーきーさんっ!! 自分はっ! 自分は……っ!!」

「ふーちゃん」


 潤一はこんなゲームに友達もなにも必要ないと言った。だけども、これは完全対人体験型選別アクションゲームなんだろ? 人がいれば、敵にだって味方にだって、友達にだってなれる。

 だからこそ、颯太はふーちゃんの手を取って笑う。

 

「ふーちゃんのお陰で、俺、倒されてないよ。ありがとうな」

「るぅきぃさぁん……」


 きっと、ふーちゃんは潤一とも友達になれると、俺は思うよ。

 なあ、潤一、やっぱり、俺はこのゲームをお前と楽しみたいって思う。二人で、昔みたいに、いろんな奴と友達になって、二人で、駆け回りたい。

 だから自分勝手だと分かっていても、俺はお前を倒すよ。俺の理由で。


 俺はお前と、クランを作りたい。

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