銃と剣 48
「あ、あの後、無事逃げれたんですね! よかった! 本当に良かった!!」
「いや、うん、まあ、違うんだけど、違わない的な?」
「自分、ルーキーさんが無事ならなんでもいいんですっ! 本当、自分役に立たなくて、ルーキーさんがあの後、怖い思いをしたらって、ずっと考えてて……っ!!」
怖い思いは十分したわけだが、それは潤一相手ではなく山犬相手だ。そんな事を言えば、ふーちゃんはもっと泣き出しそうだし、ややこしくなりそうだと、颯太は思い口を閉じる。
しかしだ。
颯太は辺りを見渡した。
木々に隠れてほぼ、春風のクラン員全てが自分達二人を取り囲むように眺めているのってどうなんだろう? マルちゃんに至っては、デカすぎて木々に隠れられてないではないか。
「ま、大丈夫だったのは変わりないし、そんなに気にしないでよ。大体、倒し倒されするゲームなんだし、例えあの場で倒されてても、それは俺が弱いからで仕方がないでしょ」
「本当に、自分がもう少し強くて、しっかりしてれば……」
「いやいや。もう、十分ふーちゃん強いから。それにさ、皆んな心配してたよ。ふーちゃんの事」
それは今も尚の話である。
心配して、こう囲まれるとは思いもしなかったが、流石家族だとなっちゃんが言うだけのことはある。誰もがふーちゃんの心配をしていて、誰もがふーちゃんを大切に思っている。
「……不甲斐ない自分ばかり見せてしまって、皆んなにも、本当に申し訳がなくて、自分は……」
ふーちゃんの口から飛び出した言葉に、颯太は手で止めた。家族じゃなくても、友達でも親友でも、これは変わらないだろう。
もし、潤一に同じ事を言われればきっと、颯太は怒るし殴るだろう。不甲斐ない、情けない、申し訳がない。なんで、自分にそんな事を言うのだと。
「ストップ。ふーちゃん。それは違くない?」
「え?」
ふーちゃんは涙に濡れた目を大きく開いた。
自分の反省を違うなんて、否定された事がないだけに、酷く驚いた表情をする。
「春風は家族なんだろ? 情けないとか、申し訳がないとか、他人行儀すぎんじゃん。だからさ、そう思うのやめなよ。家族ぐらい迷惑掛けてもいいじゃん。情けない姿見せてもいいじゃん。勿論、友達に対しても。俺たち友達じゃん! そんな事、気にすんなよ。俺も多分沢山、ふーちゃんに情けない姿見せるけどさ、その度ふーちゃんは申し訳ないとか思って欲しいの?」
ふーちゃんは顔を横に振るう。決して、そんなつもりではない。
そんな事、颯太にはやって欲しくない。
それこそ、弱い自分の問題だから。
「反省するのは大事だけどさ。ふーちゃんはせめて半分ぐらいにしたほうがいいよ。友達が、家族が、ずっと落ち込んでたら、寂しいし、嫌だし、俺は見てて辛いよ」
「……すみません、自分は……」
「あ、謝るのなしっ。ふーちゃん、今度ここに友達連れてくるからさ、そいつとも仲良くなってよ。それでチャラね! いい!?」
「……え? あ、は、はいっ!」
思わず大きか声で返事をする。
「じゃあ、約束な」
颯太が拳を突き出せば、オロオロしながらも、ふーちゃんも拳を突き出しコツンと小さく音がなる。
「はい……。 あの、自分、頑張りますからっ!!」
「元気出たじゃん」
「はい、本当に随分とご迷惑をお掛けしました。皆んなにも、いっぱい迷惑かけてしまったので、直ぐにでも謝りたいですし、励ましてくれてありがとうと言いたいです」
ふーちゃんがそう笑えば、待ってましたばかりに木々の上から春風のクラン員達が一斉に、ふーちゃん目掛けて降りてくる。
「ふーちゃぁぁぁんっ!! 元気出て良かったー!!」
「ふーちゃんが元気ならそれでいいから! お礼とかいらないから、ずっと笑ってて!!」
「ふーちゃん! ふーちゃん!! 良かったね! 良かったね!」
「ふーちゃんが好きなお菓子あるから! 食べよ! ふーちゃん食べて!」
一体、何処から湧いたのかと思うぐらい、皆んながふーちゃんを取り囲む。いつの間にやら円の外まで追い出されてしまった颯太は笑いながらその様子に背を向けた。自分の役目は終わったのだ。
長居は無用だろう。
「お疲れ様、ありがとうね」
なっちゃんが颯太に手を振り、その後ろで、深々とマルちゃんが頭を下げる。
「あ、いや、別に何もやってないですよ」
「またまたぁ。謙虚だよねー。最近の若者ってさ?」
なっちゃんの言葉に、まるちゃんが小さく頷く。
「本当ですよ。いいクランっすね」
「でしょ? 自慢の家族なんだよねー。君も入りたくなった?」
この人は、きっと分かっている癖にそういう事を聞くのだ。
「いえ、俺は自分のクランを親友と作るんで」
「そっかー。いやー。残念。君には借りが出来ちゃったから、うちのクランに入って欲しかったのになー」
Fがなっちゃんを嫌う理由が少し、分かったような気がすると颯太は思う。
この人、相当に頭がキレる人だ。
この言葉は、颯太の次の言葉を引き出す誘導に他ならない。
「……あの、なっちゃんさん。春風の団長として、お願い事があるんです」
しかし、この誘導に乗らない手はない。
「おやおや? 随分と畏まっちゃって。息子のお友達の願いなら何でも叶えてあげなきゃね? まるちゃん」
「はい。では、どうぞこちらへ」
初めて、まるちゃんの声を聞いた。低い声で、到底母親なんて思えない。
しかし、なんて手筈がいいんだろうか。最初からまるで、知っているかの様なこの対応。
どうやら、クラン・春風として、正式に話を聞いてくれるらしい。
颯太は春風の本拠地へ足を向けた。
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