銃と剣 46
「う、嘘だろっ……」
春風のエリアとの鼻の先し言っても差し支えない場所で、颯太は思わずつぶやいた。
何とか、伏見通りを経由し、追われ戦い錦通りに差し掛かった時、颯太は名も知らないクランに道を挟まれてしまったのだ。
あと少しで、春風のエリアだと言うのに、逃げ切れる策が見つからない。
正面堂々と、戦うしかないのか? しかし、勝ち目は? 勝機は?
しかし、そんな事を言っていても始まらないし、相手は答えが出るのを待ってくれる程良心的なはずはない。
すぐさま相手の剣使いか、颯太目掛けて飛び掛ってくる。
クソ! 颯太が銃を引き抜き、引き金を引こうとした瞬間、1本の矢が剣使いの肩に突き刺さり軌道を変える。
「え?」
まさか、新たな敵が? しかし、周りに人影はない。敵のクラン員も警戒し、辺りを見回し、新たな敵に混乱している。
少なくともその様子から、目の前にいる敵の援軍ではないという事だ。
颯太は眉を顰める。
このまま、一気に逃げ切るか? いや、第三勢力が、どこにいるかすらわからない今、後ろ取られる危険がある。
かといって、此処に止まる選択肢もない。
緊迫した空気の中、誰から動くのか。そんな空気に似つかわしくない声が聞こえてきた。
「あー! いたいたー!」
声の方を見れば、忘れがたいガスマスクと迷彩色のパーカー。
「探してたんだよねー」
そう言いながら、武器も何も持たずに不要に颯太の方に向かって走ってくる。
「な、なっちゃんさん!?」
探してたのはわかったが、これは流石に! 武器一つ持たずに自分のエリアでもないのになんて、緊張感のない!!
「あ、危ないですよ! 逃げてくださいっ!」
敵のクランが武器を構えてなっちゃんに向きを変える。
「えー? 逃げなくてもいいよー。大丈夫だよー。怖くない、怖くない」
そう言って、なっちゃんは颯太に向かって両手を広げる。違う! そうじゃない! 俺じゃなくて、アンタの事なんだけと! そう叫ぶよりも先に敵が地面を蹴った。
「なっちゃんさんっ!」
もう、ダメだ! そう思った瞬間、敵の身体に無数の弓矢が刺さる。
「え?」
「オーケー。上手。皆。次は、右だよ?」
なっちゃんの声と共に、風を裂く音を引き連れ、弓矢の雨が降り注ぐ。
一体、これはなんなのか。颯太は今目の前に見えている光景に目を疑う。
『春風』
PIO同様に古株のクランのうちの一つ。
決して上位クランとは言えない位置にランクしている、クランであるが、それは、決して自分達からの戦いを仕掛けることが無い為だ。従って、防戦だけでそのランクにいる程、彼らは強い。
春風は何度も言うように、団長、なっちゃんを中心に形成された完全遠距離型クランである。
団員内には近距離要因はたった2人で、それ以外は全て弓。春風の強みは何と言っても周囲380度から弓矢のスナイパー達が団長の指示の元、完璧な統制を持って行う弓矢の雨。
皆、決して外さない集中力と、完璧に距離を計算する目を持っている。相手にしたら一番厄介。触らぬ神に祟りなしとはあいつらの事だと最初に紹介された時にNは笑いながら言ったのを、颯太は思い出した。
「ね、君達そろそろ帰らない? 僕達、そこのガンナーさんに用があるんだよね」
残った敵のクラン員に、なっちゃんは申し訳なさそうに頭を下げる。
一人は、それでも槍を構える。もう一人は、逃げていいのか戦っていいのか判断が最早ついていない。ただ、キョロキョロと辺りを見渡し慌てふためいているだけ。
「んー。僕のお願い無理だったかな? これは悲しいねぇ。でもね、うちのクランの一大事なんだよね。悪いけど、聞いて貰えないと困るんだよね」
なっちゃんの手が下がるのと同時に、弓矢が槍使いに飛んでいく。しかしながら、敵も負けてはいない。降り注ぐ雨の様な弓矢を次々にたたき落としていく。
「あ、もしかして意外に強い?」
なっちゃんは、そう笑うと、手を叩く。
「じゃあ、これは?」
なっちゃんの手拍子に合わせて、弓矢が一本、男目掛けて飛んでくる。しかし、先程の事を考えれば、一本なんて叩き落とせて当たり前である。男は槍をにぎり、その弓矢を力任せに叩き落とす。
「!?」
がしかし、一本の弓矢が、槍使いの肩を射抜いた。
叩き落としたのに、何故!?
男は気付いていなかったが、目の前弓矢と同時に真後ろからも弓矢は放たれていたのだ。
人の目は、前に二つ。後ろにはない。見えるはずはない。
なっちゃんの手拍子に合わせて、次々と二本ずつの弓矢が飛んで来ては男に突き刺さる。
弓矢一本なんて、それ程場所を狙わなければ致命傷にはならない。だけと、それは一本の話だ。二本、三本と増えていけば話は別で、隙も大きくなっていく。
なっちゃんの手拍子は次第に早くなり、最後に大きく、手を叩く。槍使いは腕にも足にも背中にも、無数の弓矢が刺さったまま天を仰いだ。上がらない足と腕を必死に動かしながら、降り注ぐ雨のような弓矢を見る。
春風になんて二度と近付くものかと、そう思いながら。
颯太はその様子を呆然とただ見つめていた。これが、春風と言うクランの本当の力。もし、潤一が攻めてきた時になっちゃんかいたら……。
きっと、手足も出なかっただろう。
「いやー! ルーキー君! 来てくれてよかったー!」
呆然としている颯太など御構い無しに、なっちゃんが両手を広げて彼を抱きしめる。
「……あっ、こんばんわ」
「はいっ! こんばんわ! 皆んなも一緒に!」
「こんばんわー!!」
先程まで敵を狙っていた春風のクラン員がビルの上やら隙間から顔を出して手を挙げる。
……ここのクランは絶対に敵に回したくないと、颯太は心底強く思った。
「実は、うちのクランで今、創立以来の大問題が発生しててね。是非君の力を借りたいと思って探していたんだ」
「は、はぁ……」
「とりあえず、ついてきて。今、何とかまるちゃん一人で抑えてる状態だから……」
その言葉に、颯太は思わず眉を顰めた。まさか、また潤一が!?
「い、行きます!」
「じゃ、付いてきて。くるちゃん! くにちゃん! ここお願いねー!」
「はーい! 私達にお任せー!」
なっちゃんにくるちゃん、くにちゃんと呼ばれたクラン員が両手を挙げてなっちゃんに返事をする。
「あの、俺だけでいいんですか?」
他のクラン員たちは誰一人、二人の後を付いてこない。
「うん。Fから聞いたよ。多分、君じゃなきゃダメなんだと思う」
もう、潤一の話がここまで!? Fの仕事の速さに思わず潤一は下を巻く。やはり、彼女に相談してよかった。
「きて、この先にいるから」
連れてこられたのは、伏見通りからほど近い、下園公園。暗闇の中、そこには二人の影がある。
近くに行けば行くほど、叫び声が聞こえてくる。余程、激しい戦いなのか。颯太は身を構え、公園内に飛び出した。
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